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㉟フレンチトーストのシャーベット添え-2-
しおりを挟むレイモンドが卵液を作っている頃
(流石、侯爵家の冷蔵ボックス。食材が豊富にあって助かるわ。でも、何の果物で作ったジャムがいいかしらね?)
梨、ラズベリー、ブルーベリー、スイカ、プルーン──・・・。
色々な果物に目移りして迷っていた紗雪の瞳に飛び込んで来たのは杏だった。
(今回は杏のジャムにしよう)
冷蔵ボックスからジャムに使う分の杏を取り出し水で洗った後、種を取り出す為に切り込みを入れる。
(確か・・・種を取り除いた杏と砂糖を鍋に入れたら混ぜ合わせて・・・。それから、三十分から一時間くらい置いて杏から水分が出てくるのを待てば良かったはず)
母親から教わった作り方を思い出しながら皮を剥いた杏と砂糖を混ぜ終えた紗雪は果物から水分が出てくるのを待っている間に、紗雪は出来上がったジャムを保存しておく為の瓶の煮沸消毒をし始めた。
「紗雪、このフレンチトーストという料理なのだが・・・甘くないと言えばいいのか?ちくわパンやピザのようにチーズやツナを載せて食べる事は出来ないのか?」
「出来るわよ」
自分が知っている分だけになるが、と前置きした上で、薄くスライスして卵液に浸したパンを焼く時にハムとチーズ、ベーコンとチーズ、或いはツナとチーズを組み合わせた惣菜系のフレンチトーストがある事を教える。
「それ、食べてみたいな」
「陛下のお気に召す氷菓を作り終えたら、甘くないフレンチトーストを作りましょうか?」
会話をしていくうちに三十分以上の時間が経っていたのか、杏から水分が出てきたので中火で煮詰めていく。
杏からアクが出てきたら丁寧に掬い取り、木べらで鍋の底が焦げないように混ぜてから十五分くらい経っただろうか。
(こんな感じでいいかしら?)
仕上がりを確認する為、水を入れたコップにスプーンで掬ったジャムを一滴垂らす。
(・・・もう少し煮詰めた方がいいわね)
垂らしたジャムは沈まず拡散してしまったので、様子を見ながら再び杏を煮詰めていく。
(いい感じに煮詰まってきたのかしら?)
水を入れたコップにスプーンで掬ったジャムを一滴垂らす。
先程とは違い、溶けずに固まったジャムが底の方へと落ちて行ったので鍋に掛けていた火を止める。
煮沸消毒した瓶に出来上がったジャムを詰めたのは良かったが、冷蔵ボックスに入れるには自然に冷めるのを待つしかない。
「レイモンド、一つ聞きたい事があるのだけど・・・」
「何だ?」
ジャムが冷めるのを待っている間、暇なので紗雪は気になっていた事をレイモンドに尋ねた。
「この前、侯爵夫人がお茶会の事を話して貰った時に帝国って言葉が出て来たでしょ?それってどこにあるの?」
「インペラトーレ帝国の事だな」
地図があれば詳しく説明出来たのだが、そのようなものが厨房にあるはずなどない。
キルシュブリューテ王国から見て南東にある大陸に位置する大国である事を紗雪に教える。
「レイモンドはインペラトーレ帝国に行った事があるの?どんな国なの?」
「そうだな・・・。キルシュブリューテ王国とは建築様式や衣装、食文化や風習が違っているのは勿論だが、何と言っても農家の娘でも皇后を差し置いて皇帝の母になる可能性があるというのが大きな違いだろうな」
昔の話になるが、今はもう冒険者を辞めてしまった元仲間達と護衛の依頼を受けた時にインペラトーレ帝国に行った時に見聞きした事を紗雪に話す。
(大奥や古代中国の後宮のように、女の嫉妬と欲望が渦巻いているのでしょうね・・・)
女の戦いはどうでもいいとして、キルシュブリューテ王国にはない肉や野菜、穀物やスパイスがあれば日本で食べられる料理を再現する為にもインペラトーレ帝国に行きたいと思う。
「レイモンド様、サユキ様。瓶に入れたジャムが冷めましたので冷蔵ボックスに入れますね」
「ありがとうございます」
話をしている内にジャムが冷めた事に気が付き冷蔵ボックスにジャムを入れた料理人に礼と労いの言葉を言った紗雪は、レイモンドと共に部屋へと戻る。
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