カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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㉞ローゼンタール公爵夫人-1-

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 「紗雪、今から観光に行こうか?」

 「レ、レイモンド?」

 「部屋に籠ってばかりだと気が滅入るからな」

 まぁ、気分転換だ

 考えてみれば、王都に来てからの自分はディートヘルムが望んでいる氷菓作りの事だけを考えていたような気がする。

 「はい」

 紗雪は穏やかな笑みを浮かべてレイモンドが差し出した手を取る。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 (紗雪は薔薇ではなく、牡丹というイメージだな)

 華やかでありながら楚々とした雰囲気の紗雪には、艶やかな薔薇よりも牡丹が相応しい。

 王都では王妃のセラフィーナが薔薇を愛でているので薔薇をモチーフにしたアクセサリーが流行っているらしいが、身に着ける人に似合っていなければ意味がないのではないか?とレイモンドは思う。

 「店主、このバレッタを一つ」

 レイモンドが商業街のアクセサリーショップで見つけたのは、祖母が育った日本では【百花の王】と称されている牡丹という花をモチーフにした銀のバレッタだった。

 「おっ?お兄さん、見る目があるね~。帝国で流行っていると聞いたから自分で作ってみたんだよ」

 ちなみに、お値段は一つで十六シルバだからね

 「買った!」

 レイモンドは自分と同じ髪の色をした銀のバレッタを購入すると隣にいる婚約者に手渡す。

 「これは俺から紗雪へのプレゼント」

 「ありがとう、レイモンド・・・」

 祖父と父を除けば、異性から贈り物を貰った経験が皆無の紗雪は顔を真っ赤にしながらも礼を口にした。

 (んっ?)

 「もしかして・・・二人は恋人同士、だったりするのかな?」

 紗雪の反応を見て思うところがあったのか、店主が二人に話しかける。

 「はい。彼女とは来年結婚するのですよ」

 「それはおめでとう。だったら、彼女さんも自分と同じ髪か瞳の色のアクセサリーを買って彼氏さんにプレゼントした方がいいよ。婚約している証としてね」

 嬉しそうに語るレイモンドに店主が祝いの言葉を述べる。

 キルシュブリューテ王国では婚約の証として、伴侶の髪か瞳と同じ色の指輪や首飾りといったアクセサリーを贈る習慣があるらしい。

 (・・・・・・・・・・・・)

 店主の説明に納得した紗雪はアクセサリーを買おうと箱に入っている商品を眺めているのだが、身内以外の男性の装飾品なんて選んだ事がないものだから思いっきり頭を悩ませていた。

 「さ、紗雪・・・?」

 「お、お嬢さん・・・?」

 「レイモンドが・・・欲しいアクセサリーってどれかしら?」

 こういう事は本人に聞いた方が一番早いと思った紗雪はレイモンドに尋ねる。

 「そうだな・・・」

 レイモンドが指したのは、幸運を示す四つ葉のクローバーを象った小さな黒曜石が付いている二連のチョーカーだった。

 「店主さん、このチョーカーを下さい」

 ちなみに、お値段はというと十六シルバである。

 店主に十六シルバを払い商品を受け取った紗雪は彼の身を護る意味でチョーカーに己の霊力を込めた後、レイモンドに手渡す。

 「ありがとう、紗雪・・・。ところで今になって気が付いたのだが、俺は紗雪の望みを聞かず勝手にバレッタを選んでしまった」

 申し訳ないと頭を下げるレイモンドに、自分の為に選んでくれたのだから気にしていない。

 寧ろ、初めてのプレゼントが牡丹をモチーフにした髪飾りで嬉しいと紗雪がレイモンドに対して感謝の言葉を口にする。

 「そうそう。お兄さんは婚約者である彼女さんに似合うと思ったから、あのバレッタを選んだのでしょ?」

 僕もあのバレッタは彼女さんに似合うと思うし、彼女さんだってお兄さんの想いをちゃんと理解しているんだ

 詫びたいって言うのならさ、お兄さんが彼女さんに贈ったあのバレッタを着けてあげたらいいんじゃないのかな?

 「「・・・・・・・・・・・・」」

 店主の言葉に二人の顔が赤く染まる。

 「さ、紗雪?その、バレッタだけど・・・俺が紗雪の髪に着けても?」

 「・・・は、はい。レイモンドがバレッタを着けて下さい」

 その代わり、チョーカーは私がレイモンドに着けても・・・?

 「ああ。紗雪に着けて貰えると嬉しい・・・」

 (今の僕は空気!壁だ!置物だ!!)





 空気に徹する店主が眼中にないのか、互いに照れながらもアクセサリーを着け合う二人であった。









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