128 / 451
㉜エビマヨのホットサンド-5-
しおりを挟む王宮の厨房を取り仕切る総料理長及び料理人達が見守る中、二人が作っているのはエビマヨのホットサンドだった。
本当はエビマヨを単品で出したかったのだが、冷蔵ボックスがあるにも関わらず生で卵を口に入れる事に不安を感じているキルシュブリューテ人への配慮である。
『レ、レイモンド様?海老にかける塩と胡椒ですが、これだけでいいんですか?』
『ああ。大量のスパイスを使ってしまったら海老の風味を殺してしまうし、何より・・・自分が作った料理を食べてくれる人の事を考えていない』
『それって・・・どういう事ですか!?』
自分達は国王一家の腹を満たす為に日々、料理を作っているのだ。
料理人としてのプライドを傷つけられたと感じた総料理長が、侯爵子息にして高ランク冒険者でもあるレイモンドに突っかかる。
『例えば・・・君の家族の一人、奥方は甘い料理が苦手だとしよう。君はその人に対して甘い料理を出すのか?』
『いえ、出しません!』
『そういう事だ。確かに陛下は甘いデザートが好きだから君達は砂糖や蜂蜜を大量に使ったクッキーやタルトを作っていたのだろう。だが、極端に甘過ぎるとそれは苦痛以外の何者でもない・・・』
それでもディートヘルムが何も言わずに料理人達が作ったデザートを食していたのは、彼等が自分の為に作っている事を分かっているからだ。
或いは──・・・
(陛下は、諦めていた?)
料理とは腹を満たす為、生きる為に作り、そして食べるものである。
しかし、それが食べる人を苦しめているのであれば本末転倒だ。
『メインディッシュが腹を満たす為だとすれば、目で楽しみ疲れた身体と心を癒す為にあるのがデザートだと、俺はそう思っている』
『・・・・・・・・・・・・』
レイモンドが何を言いたいのかを察した総料理長は口を噤む。
『まぁ、俺がその考えに至るようになったのは、俺の料理の師匠とでも言うべき紗雪のおかげだがな』
『サユキ嬢の?っていうか、師匠!?』
『ああ』
自分がこうして料理を作るようになったのは紗雪の故郷の料理を広めたいという事もあるが、自分の料理を食べた彼女の喜ぶ顔が見たい。
何より、キルシュブリューテ王国を第二の故郷と思って欲しいからなのだと、レイモンドが総料理長に己の思いを打ち明ける。
『食べてくれる人の喜ぶ顔・・・』
自分は料理を作る形で国王一家を支えてきたという自負が総料理長にはあった。
だが、本当にそうだったのか?
もしかしたら、己のプライドを満たす為だったのではないだろうか?
『甘さを控えたケーキやクッキーが食べたい』『辛くない豚肉が食べたい』とディートヘルムが何度も言っているにも関わらず、大量の香辛料を使う=贅沢という考えに凝り固まっていた自分は慣例通りの料理やデザートを作って来た。
(・・・・・・・・・・・・)
『総料理長。これ、美味しいですよ』
レイモンドの言葉に思うところがあるのか、考え込んでいた総料理長に料理人の一人が、エビマヨのホットサンドを手渡す。
(異世界の料理って・・・美味いのか?いや、不味いの間違いだろ!?)
受け取った総料理長は、自分の手にあるホットサンドをじぃ~っと見つめる。
総料理長は屋台で売っている、ジャガイモを油で揚げただけのフライドポテトを研究という意味で食べた事があるのだが、中まで火を通す為に揚げ過ぎたのか外側は焦げていたし、固いところもあるという代物だった。
これくらいであれば自分の方が遥かに美味く作れるという自負がある彼は、異世界の料理に対して懐疑的になっている。
侯爵子息のレイモンドが作ったという事もあるので、総料理長はホットサンドを食べてみた。
(!!)
『・・・う、美味い』
火を通した事でパリッと香ばしくなっている田舎パン
いい塩梅に下味が付いているプリッとした食感の海老
溶けたチーズ
そしてマヨネーズというソースのコク
それ等が一つになったホットサンドという料理はスパイスが強くないし、海老という食材の風味と食感が活きている。
何と言っても自分が今まで食べてきたどんな料理よりも、作って来た料理よりも遥かに美味なものであった。
(あれ?)
『何で?何で泣いているんだ?』
自分でも気付かぬうちに泣いている事に気が付いた総料理長は、誰かを思って作った料理はこんなにも美味しく心を震わせるものなのかと、涙を流しながらエビマヨのホットサンドを食べていく。
1
お気に入りに追加
413
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に巻き込まれたエステティシャンはスキル【手】と【種】でスローライフを満喫します
白雪の雫
ファンタジー
以前に投稿した話をベースにしたもので主人公の名前と年齢が変わっています。
エステティックで働いている霧沢 奈緒美(24)は、擦れ違った数人の女子高生と共に何の前触れもなく異世界に召喚された。
そんな奈緒美に付与されたスキルは【手】と【種】
異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された奈緒美は宮殿から追い出されてしまう。
だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。
設定はガバガバ+矛盾がある+ご都合主義+深く考えたら負けである事だけは先に言っておきます。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています
芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~
日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。
田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。
成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。
「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」
彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で……
一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。
国王や王女は気づいていない。
自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。
小説家になろうでも短編として投稿してます。
団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる