カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

文字の大きさ
上 下
123 / 454

㉛フライドポテトとソフトクリーム-6-

しおりを挟む










 紗雪は自分が抱えている思いを語る。

 この世界で生きて行く目標を示してくれたレイモンドの夢を叶える為に自分が出来る事は何なのだろうか?

 考えた末に出した結論というのが、フリューリングの食材を使って作った日本で食べられる料理をレイモンドや料理人達に教える事だった。

 「オークやコカトリスといった魔物が普通に食べられる事を除けば、フリューリングに存在する食材と香辛料は地球のものと似ています」

 後は、自分で作れる料理は自分が教えればいいし、作れない料理はレシピ本を見ながらレイモンドと共に試作して完成したものをロードクロイツ家とシュルツベルク家の料理人達に教えればいいのだ。

 「それに・・・王侯貴族の屋敷で働いている料理人達は何時までもそこで働く訳ではないですよね?」

 体力の衰えや、何らかの理由で故郷に戻らないといけなくなったので屋敷を出て行く料理人が出てくるはず。

 侯爵家や伯爵家を退職した料理人達が生まれ故郷で料理店を開くかどうかなど、紗雪には分からない。

 だが、侯爵家や伯爵家で作った料理やデザートを故郷に広めたいと思う料理人が一人か二人くらい居る筈だ、多分。

 そうなれば、きっとキルシュブリューテ王国の食文化は今より豊かになっていくだろう──・・・。

 「サユキさんが蒔く種の土壌を作るのは私達、種を育てて実らせるのはレイモンドや料理人達の役目、といったところかしら?」

 「はい。どう考えてもこれは私とレイモンドだけでは出来ない大仕事ですもの」

 「二人の夢を叶える為にも、ここは親である私達の力が必要という事か」

 「はい」

 エレオノーラとランスロットの言葉に紗雪は笑みを浮かべて返事をした。

 (紗雪がそのように考えるのは、天女であるが故・・・なのか?)

 ウィスティリア王国の聖女召喚に巻き込まれてしまった紗雪は本来であれば、そのような事など気にしなくてもいい人間である。

 というか、ぶっちゃけると、ウィスティリア王国に復讐してもおかしくないし、フリューリングという世界そのものを恨んでも不思議ではない。

 魔法は一切使えないが異世界の生活用品や食材を手に入れる事が出来る紗雪であれば、ランスロットが言っていた方法で復讐する事も可能だ。

 もし、自分が紗雪と同じ立場にあったのなら、間違いなくそうしている。

 まぁ、聖女として認定されている茉莉花が性病を患っているのだから、復讐をしようという気が起こらないのかも知れないが──・・・。

 話を聞いたレイモンドは、紗雪がネットショップを使わずに自分が住んでいた世界の料理や調味料を再現しようとしている理由に納得していた。

 「ねぇ・・・レイモンドとサユキさんは異世界の料理を広めたいのよね?その為には料理店を開くのが近道だと思うの」

 「母上?」

 「だが、その土壌は出来上がっていない。そうだな?」

 「はい」

 アイスクリームを作るのに必要な生クリームは高価だし、バニラビーンズはどこにあるのかが分からない。

 それに、トマトケチャップやソースの類がフリューリングの食材で再現出来ていないのだ。

 こんな状態で、日本で食べる事が出来る料理を広めるのは無理ゲー以外の何者でもない。

 というか、詰んでいる。

 「でも、フライドポテトの屋台であれば出来るのではないかしら?」

 「特定の曜日か日付だけ屋台を開いて、限定五十から百食でフライドポテトを売る」

 「フライドポテトの屋台で実績を積んでいきつつ、開いている時間を使って異世界の調味料や料理を再現する。そして、全てが整ったら店を開く・・・。ランスロット、侯爵夫人、あんた達はそう言いたいんだな?」

 「ああ」

 ランスロットの言葉をアルバートが補足を入れる。

 「レイモンド、王都の屋台のようにフライドポテトを売る話だけど・・・どうする?」

 「・・・・・・やってみるか」

 今回はオリーブオイルを使ってジャガイモを揚げたが、溶かした牛や豚の脂を使えば王都よりも安い値段で売る事が出来るかも知れない。





 この屋台は後に二人が開くカフェ・ユグドラシルの前身となる。









しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

聖女のおまけです。

三月べに
恋愛
【令嬢はまったりをご所望。とクロスオーバーします。】  異世界に行きたい願いが叶った。それは夢にも思わない形で。  花奈(はな)は聖女として召喚された美少女の巻き添えになった。念願の願いが叶った花奈は、おまけでも気にしなかった。巻き添えの代償で真っ白な容姿になってしまったせいで周囲には気の毒で儚げな女性と認識されたが、花奈は元気溌剌だった!

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

異世界召喚された巫女は異世界と引き換えに日本に帰還する

白雪の雫
ファンタジー
何となく思い付いた話なので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合展開です。 聖女として召喚された巫女にして退魔師なヒロインが、今回の召喚に関わった人間を除いた命を使って元の世界へと戻る話です。

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。

西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ? なぜです、お父様? 彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。 「じゃあ、家を出ていきます」

【完結】婚約者は偽者でした!傷物令嬢は自分で商売始めます

やまぐちこはる
恋愛
※タイトルの漢字の誤りに気づき、訂正しています。偽物→偽者 ■□■ シーズン公爵家のカーラは王家の血を引く美しい令嬢だ。金の髪と明るい海のような青い瞳。 いわくつきの婚約者ノーラン・ローリスとは、四年もの間一度も会ったことがなかったが、不信に思った国王に城で面会させられる。 そのノーランには大きな秘密があった。 設定緩め・・、長めのお話です。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

幼女エルフの自由旅

たまち。
ファンタジー
突然見知らぬ土地にいた私、生駒 縁-イコマ ユカリ- どうやら地球とは違う星にある地は身体に合わず、数日待たずして死んでしまった 自称神が言うにはエルフに生まれ変えてくれるらしいが…… 私の本当の記憶って? ちょっと言ってる意味が分からないんですけど 次々と湧いて出てくる問題をちょっぴり……だいぶ思考回路のズレた幼女エルフが何となく捌いていく ※題名、内容紹介変更しました 《旧題:エルフの虹人はGの価値を求む》 ※文章修正しています。

【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪

鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。 「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」 だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。 濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが… 「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」

処理中です...