カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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㉛フライドポテトとソフトクリーム-3-

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 「揚げたジャガイモを塩で味付けする・・・」

 「異世界では、こういうジャガイモの食べ方もあるのね」

 「溶かしたチーズと一緒に食べたら美味しくなるかも」

 塩で味をつけただけであるが適度なしょっぱさが気に入ったのか、ランスロット夫妻とアルバート夫妻はフライドポテトを食べている一方──・・・。

 (う、嘘でしょ?これで六ブロンズってぼったくり以外の何者でもないじゃない!)

 某大手ファストフード店のSサイズは二百円出せば釣りは五十円であるのに対し、屋台で売っているフライドポテトは日本円にして六百円という事実に紗雪は驚きを隠せないでいた。

 同じ料理でも地元では数百円だが、首都では千円で売っているという感じだろうか。

 ロードクロイツでは卵が一個四ブロンズで売っているのに対し、王都では倍以上の値段で売っている可能性も否定出来ないのだ。

 世界が違っていても都心部では物価が高いという事実は共通しているらしい。

 (問題は味ね・・・)

 そう思い直した紗雪がフライドポテトを口に運ぶ。

 「紗雪・・・フライドポテトって確か外側はカリッと、中はホクホクとした食感だったような気がするのだが?」

 紗雪が作ったフライドポテトを食べた事があるだけではなく、作り方も教えて貰ったレイモンドが顔を顰める。

 「ねぇ、レイモンド。これはあくまで仮説として聞いて欲しいのだけど・・・あの屋台ではカットしたジャガイモに製菓用の小麦粉を塗していないだけではなく、二度揚げをしていないのかも知れないわね」

 揚げたてのフライドポテト特有のカリッとした食感がなかった事を思い出した紗雪が自分の推測を述べる。

 二度揚げというのは、油の温度が低い時に揚げる事で外側を焦がさないように厚みのある鶏肉や豚肉等の具材に火を通した後、高温の油で揚げる調理法の一つである。

 この一手間をかける事で外側はカリッとサクサク、中はジュージーな唐揚げや豚カツが出来るのだ。

 個人で食べるのであれば手元にあるフライドポテトでいいと思うが、仮にもこれで商売をしようとするのであれば、ジャガイモに製菓用小麦粉を塗してから二度揚げする事を、ローゼンタール公爵夫人は屋台の店主に教えるべきではなかっただろうか?

 「しかも、この作り方だと切ったジャガイモを水にさらしていないな・・・」

 自分も紗雪も料理に関しては素人であるが、少なくともこのようなものを人前に出そうという考えなどレイモンドにはない。

 何本かくっついているフライドポテトを手に取ったレイモンドが思わず愚痴を零す。

 「・・・・・・口直しに紗雪が作ったフライドポテトが食べたい」

 「分かったわ。ついでにネットショップのソフトクリームをつけましょうか?」

 ソフトクリームとフライドポテトを一緒に食べるのは行儀が悪いと分かっているが、たまにはこういう食べ方もいいだろうと思った紗雪がレイモンドに提案する。

 「頼む!!」

 ソフトクリームの冷たさと甘さ、フライドポテトの熱さと塩気が一つになった時に齎す奇跡を知っているレイモンドが勢いよく返答したものだから、紗雪は苦笑いを浮かべながらも承諾した。

 「サ、サユキ?その、俺達も、ソフトクリームとやらを食べたいのだが・・・」

 「勿論、お養父様達の分も用意いたしますわ」

 美味しいものは一人で食べても美味しいが、大切な人達と食べたら更に美味しく感じるだけではなく心も満たされるのだ。

 その事を知っている紗雪は五人に笑みを向ける──・・・。









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