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㉙お茶会-4-
しおりを挟むウィルダーネス領では冒険者達が大量発生したホーンラビットを狩った事で肉と毛皮が流通しているだの
『でも、お肉って大量のスパイスか魚醤、ジャムで味付けをするのが基本ですもの』
『魔物の肉は確かに美味しいですわ。ですが、ホーンラビットの肉が食べられるようになっても味が単調ですから嬉しくとも何ともありませんわね』
『それでしたら、このジャムを使えば少しは味の変化が楽しめると思いますわ』
薔薇の栽培で有名なロゼルージュ領を治める領主の夫人が薔薇を使ったジャムに薔薇の砂糖漬けを進めたり
『薔薇と言えば、王妃様が愛でている花の一つ。最近の王都では薔薇をモチーフにしたアクセサリー、胸元を薔薇で飾ったドレスが若い娘の間で流行しているらしいですの』
『王都といえば、ローゼンタール公爵夫人が発明したというのでしょうか?異世界では普通に食べられているフライドポテトという、ジャガイモを揚げただけの料理が流行っているのだとか・・・』
『ジャガイモを揚げるだけという単純なものですもの。流行って当然でしょう』
ロードクロイツ家の庭園では、華やかでありながら趣味の良さを感じさせるドレスに身を包んだ貴婦人達が優雅に微笑みながら談笑したり、領地で開発した新商品のアピールをしたり、情報交換をしている。
彼女達はお茶会の招待を受けたロードクロイツ領の近隣を治めている領主の奥方であった。
最初の内は彼女達も真面目に話をしていたのだが──・・・。
『外で妾を囲うのは男として甲斐性がある証拠だと世間では妾を作る男が持て囃されていますけど、それは帝国の皇帝や大富豪のように正妻と妾を平等に扱う事が出来てこそ認められる行為ですわ!!』
『妻には貞操観念を強いておきながら、一人でも多くの子供を作らないといけないからという大義名分を掲げて自分は堂々と浮気・・・』
『陛下は公妾を作らずに王妃様だけを大切になさっているのに』
『両陛下のおしどり夫婦が羨ましいわ』
───気が付けば夫や子供、ひいては家庭への不満や愚痴を零すものへと変わっていた。
『ですが、鴛鴦の雄と雌は互いの目的を果たすとすぐに新しい相手を見つけて番うのですよ。陛下達も、おしどり夫婦より比翼連理の仲と言われる方が遥かに嬉しいと思いますわ』
仲のいい夫婦の事をおしどり夫婦と喩えるが、その鴛鴦が目的を果たしさえすれば別の相手と番うという事実に夫人達は声こそ上げなかったものの驚きを隠せないでいる。
『互いに本音をぶつけて話し合う事こそが夫婦円満の秘訣になりますし、乳母の報告だけを聞いて頭ごなしに子供を怒鳴りつけるのではなく、子供の言い分を聞いた上で叱る理由を話す。そうすれば子供は自分が怒られた理由を納得しますわ』
皆様、堅苦しい話はそれくらいにしてお茶を楽しむ事にいたしましょうか?
長年連れ添っている夫に対する不満、結婚して数年しか経っていない年若い夫人の愚痴を聞いて何かしらのアドバイスをするのもホストである自分の役目なので聞き役に徹していたエレオノーラであったが、長い時間喋っていた事で夫人達の喉を潤す為に鈴を鳴らすと給仕達がお茶とお菓子を運んできた。
『これは・・・ケーキのスポンジ、なのでしょうか?』
『凍らせた牛乳?いえ、凍らせた生クリームを入れたコーヒー・・・でしょうか?』
ケーキの土台とでも言うべきスポンジを果物やクリームで飾る、コーヒーはそのままか、砂糖を入れて飲むのが常識なので彼女達は自分の目の前に置かれた戸惑いの表情を浮かべる。
『このケーキはカステラ、シャーベットという白い氷菓を入れたコーヒーはアフォガートと言いますの』
味は保証いたしますわ
侯爵夫人であるエレオノーラがそこまで言うのであれば・・・
意を決した夫人達はエレオノーラが用意したアフォガートとカステラに口を付ける。
!!
『シャーベットという白い氷菓の甘さがコーヒーの苦味と酸味を柔らかくしているわ!』
『いえ!これは、コーヒーの苦味がシャーベットという氷菓の甘さを引き立てているのですわ!』
『カステラというケーキの生地はきめが細かく、食感はしっとりとして柔らかい!それでいながらもちっとしている!?』
見た目はケーキのスポンジ、甘さも素朴。それなのに貴族だけではなく王族の舌を満足させるレベルで完成されているカステラという菓子。
削った氷に蜂蜜や果実をかけただけの氷菓とは比べ物にならないくらいに甘くてあっさりとした余韻と滑らかな舌触りのシャーベット。
自分達が今まで食べていた菓子と氷菓は何だったのだろうか?
洗練されたお茶と菓子に彼女達は黙々と、だが嬉々としながら舌鼓を打っている──・・・。
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