97 / 451
㉗ちくわパンとカルツォーネ-1-
しおりを挟む次の日の朝
買い物客で賑わう港町のリベラでちくわを作るのに必要な棒と鱈、マグロのオイル漬けを作るのに必要なマグロ・・・筋の多い部分と、それとは別に脂の乗った部分・・・大トロと中トロを購入した紗雪とレイモンド。
その帰り道でレイモンドが紗雪にある事を尋ねる。
「紗雪・・・殿。ちくわというのは確か・・・おでんという煮込み料理に入っていた魚のすり身、だったか?」
「ええ」
「魚のすり身とパンって合うのか?」
「合うわよ」
ちくわは煮込み料理にしか使わない食材だと思っているレイモンドに、パンだけではなく日本酒の肴にもなるのだと、カステラと同じように昔は天皇や将軍といった身分の高い人や金持ちしか食べられなかったのだと教える。
「紗雪、殿に料理を教えて貰った時から思っていたのだが・・・日本という国は文化と文明が進んでいるのだな」
昔は身分が高い人しか食べられなかった料理に高級食材、貴重な調味料が平民でも簡単に手に入るという事実に、レイモンドは改めて感心の色を含んだ声を上げて驚く。
「・・・そうね。私から見れば、どんな怪我や病気でも簡単に治す万能薬やエリクサーが作れたり、火・水・氷・風・雷の力を宿した天然の魔石、魔法使いがそれぞれの属性の魔力を込めた人工の魔石を使って作った魔道具を生活に利用している」
それに・・・何と言っても環境に優しいと言えばいいのかしら?その辺りは地球よりフリューリングの方が進んでいるような気がするわ
「そういうものなのか?俺は、俺達の世界は前時代的だと思っていた・・・」
美奈子からキルシュブリューテ王国の文化レベルは地球で言えば中世から近代辺りで、自分が育った時代の日本と比べたら遅れているのだと幼い頃からそう聞かされていたレイモンドは、まさか祖母と同じ国の人間からそのような言葉を言われるなど夢にも思っていなかったから驚かずにはいられないでいる。
「他の迷い人・・・日本人がどう思っているのか分からないけど、環境を破壊しない形で文明が発展しているというところは地球より遥かに進んでいる。少なくとも私はそう思っているわ」
文化と文明ってその土地の風土に適した形で発展していくものでしょ?
それを遅れていると言うのは、その土地で生まれた文化と文明だけではなく先人達が築き上げてきたものを否定しているような気がするのよね
現代日本の発展した科学の恩恵を受けている自分がそんな事を言っても説得力がないかも知れないけど、と前置きをした上で紗雪が持論を述べる。
「自然を敬い共に在る形で生活を営み、迷い人の知識を利用しているとはいえ環境を破壊しない魔道具を作れるし、地球では不治の病と言われている難病を簡単に治したり、欠けた手足等を再生出来る薬があるというのは、フリューリングの人間として誇ってもいいんじゃないかしら?」
「紗雪、殿・・・」
「【隣の芝生は青く見える】って奴よ、レイモンドさん」
レイモンドに向けてそう言った紗雪は笑みを浮かべる。
その微笑みは、レイモンドの中にある闇を晴らすものだった──・・・。
7
お気に入りに追加
411
あなたにおすすめの小説
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
聖女の姉が行方不明になりました
蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる