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㉔ミルク煮-2-
しおりを挟む紗雪が夕食として作ろうとしているのは、白身魚のミルク煮だ。
(あれ?この棚に入っている黒い液体って・・・)
まさか日本人のソウルフードの一つであるあれだろうと思った紗雪は、黒い液体が入っている瓶の蓋を開けて匂いを嗅いだ。
(やはり、これは醤油だわ。でも、どうしてシュルツベルクに醤油が・・・あっ、そういえばシュルツベルクは貿易しているから、そこで手に入れたのかしら?・・・・・・いや、今は料理を作る方が先だわ!)
考えを切り替えた紗雪は冷蔵ボックスへと向かい、何が入っているかを確かめる。
「鱸があるのね。今回は鱸を使いましょうか」
「副菜とデザートは何にするんだ?」
「そうね・・・。野菜スープとカスタードプリンにしようと思うの」
「分かった。俺は今からカスタードプリンを作るから、紗雪殿はメインを作る事に集中してくれ」
(カスタードプリンって何だ?)
アルバートから事前に話を聞いていたシュルツベルク家の料理人達は、紗雪とレイモンドの行動に手出しをせず興味深そうに眺める。
そんな中、レイモンドがカスタードプリンを作る準備を始めていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
バニラビーンズかバニラエッセンスがあれば良かったのだが、それがなくてもカスタードプリンは作れる。
(俺はバニラビーンズが入っているカスタードプリンが好みなのだが、こればかりは仕方ないな)
紗雪のネットショップを使えば簡単にバニラビーンズとバニラエッセンスが手に入る。
しかし、それは本当の意味でフリューリングの食文化の発展に繋がるのかと言われたらそうではない。
その事が分かっているレイモンドは紗雪から教えて貰った、バニラを使わないカスタードプリンを作り始めていく。
(まずは牛乳の低温殺菌、いや、カラメル作りだな)
カラメルの材料となる水と砂糖を鍋に入れたレイモンドはコンロの火を中火にして温める。
鍋を揺すっていくと透明だった砂糖水が薄茶色から褐色になってきたので、粗熱を摂る為にコンロの火を止めてカラメルを冷ます。
「何か、いい匂いだな・・・」
カラメルの甘い香りが厨房に広がったものだから、思わず料理人の一人が声を上げる。
(大きなカスタードプリンを作ると、取り分ける時に『自分の分が小さい』という理由でちょっとした口論になりそうだから、ココットの方がいいだろうな)
暫く待って冷ましたカラメルをココットに流し込む。
キルシュブリューテ王国のスイーツは砂糖や蜂蜜を多く使っているので喉が焼けるように甘い。
そんなところに適度な甘さのスイーツを放り込んだらどうなるか──・・・。
スイーツではなかったが、ランスロットの異世界の料理に対する執着を知っているレイモンドは思わず身を震わせる。
(次は牛乳の殺菌だな)
ロードクロイツを発つ前に紗雪が市場で購入した牛乳が入っている缶を受け取ったレイモンドは、鍋に牛乳を注ぐとコンロの火を点ける。
弱火で牛乳を温めている間に割った卵をボウルに入れる。レイモンドが卵を割る様、手際よく泡立て器で混ぜている様は正に普段から料理をしている人のそれだった。
十五分後
弱火で殺菌した牛乳をボウルに注ぎそこに砂糖を加えると、泡立て器で混ぜる。
(次は・・・確か、卵に少しずつ牛乳を入れながら混ぜて、その後は濾すのだったな)
『右側は濾していて、左側は濾していないプリンよ。レイモンドさん、食べ比べてみて』
見た目は同じである。
(という事は味と食感が異なるのか?)
紗雪に言われるままレイモンドは、スプーンで掬ったそれぞれのカスタードプリンを口に運ぶ。
(んっ?)
『右側は滑らかで、左側はざらついていると言えばいいのか、右側のカスタードプリンと比べたら幾分硬いような・・・?』
同じ材料で、同じ調理法で作ったはずなのに、何かが違うとレイモンドは首を傾げる。
『私も最初の頃はちゃんとプリン液を濾していたのだけど、途中から面倒くさくなって濾さなくなった事があったの。その結果が・・・』
『舌触りに違いが出てくるという事なのだな?』
濾すか濾さないかで舌触りが違ってくるのだと、紗雪から教わった事を思い出しながら、溶いた卵が入っているボウルに少しずつ牛乳を注ぎながら泡立て器で混ぜた後、ザルで濾していく。
ザルで濾したプリン液をカラメルが入っているココットに注ぐと、沸いている湯の上に蒸し器を置いてから、その上にココットを入れる。鍋に蓋をした後、プリン液を弱火で蒸していく。
蒸す事十五分
ココットを揺らしてカスタードプリンが蒸し上がっているかどうかを確かめる。
ちゃんと出来上がっていたので、魔法で出した水と氷が入っているトレイにココットを入れて粗熱を取ってから冷蔵ボックスへと入れる。
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