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㉒白鳥処女伝説-3-
しおりを挟む「レイモンド。紗雪殿を見ていると、あるおとぎ話を思い出すのだ」
「おとぎ話、ですか?」
「ああ、白鳥処女伝説」
そう言ったランスロットは、レイモンドが淹れた紅茶を口に運ぶ。
白鳥処女伝説とは、白鳥に変化して地上に降りた乙女が自分の衣を奪った人間の男と結婚するという話だ。
後日談として、衣を見つけた乙女が夫と子供を捨てて天に帰るというのが主流だが、試練を乗り越えて結ばれるというパターンもある。
「・・・・・・確かにそうですね」
紗雪が天女の末裔である事と、天女の羽衣を持っている事を唯一知っているレイモンドは父の言葉に頷く。
「ですが、父上。紗雪殿は白鳥処女ではなく人間ですよ?」
「分かっている。ただ、二十歳を過ぎても未婚であるという事実が紗雪殿を白鳥処女と重ねてしまっただけだ」
(・・・・・・)
もし、紗雪がフリューリングのものを一切口にしていなかったら、どんな手を使ってでも元の世界に戻ろうとしたのだろうか?
(・・・篁の使命とやらを何よりも重んじている紗雪殿の事だから、元の世界に帰るのだろうな)
紗雪はフリューリングで築いたもの全てを切り捨てて自分の傍から消える。
そして、自分は心を満たされぬ、大きな虚無を抱えて生きて行く──・・・。
(白鳥処女の衣を隠した男も今の俺と同じ思いを抱えていたのだろうか?)
白鳥処女伝説は単なる作り話だと分かっていても紗雪が天女であるからなのか、レイモンドはふと自分と衣を隠した男を重ね合わせる。
(俺だったら・・・)
男のように乙女の衣を隠すのではなく、燃やすなり切り刻むなりして彼女を天に帰さない──・・・。
(そして・・・)
「!!」
(俺は何を考えているんだ・・・!)
そんな事をすれば紗雪を悲しませるだけではなく、恨みを買ってしまうではないか。
ランスロットの白鳥処女伝説という一言で、思わず紗雪を傷つけてしまう行為を脳裡に思い描いてしまったレイモンドは、自分が思っていた事を打ち消すかのように大きな溜め息を漏らす──・・・。
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