カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

文字の大きさ
上 下
70 / 451

㉑シュルツベルクへ-4-

しおりを挟む










 「紗雪殿、ピザについて書いている本は売っていないのか?」

 「待って、今から調べてみるわ」

 ピザの作り方を知っておこうと、ネットショップで売っている本を購入した紗雪が早速目を通す。

 ほう・・・

 「レイモンドが言っていた南方の料理も、載せる具材を変えるだけで随分と豪華になるだけではなく、デザートにもなるのだな」

 ピザとやらは奥が深いと、ランスロットが呟く。

 「紗雪殿。ピザ生地とやらを作るのにドライイーストが必要らしいのだが、それは何なのだ?それに、ドライイーストとやらがなくてもピザ生地を作る事が出来るのか?」

 「ドライイーストというのは乾燥させた酵母です。それと・・・ドライイーストがなくてもピザ生地を作る事は可能です」

 但し、ドライイーストを使ったピザ生地はもちっと柔らかく、使っていないものはサクッとした食感になるという違いはありますけどね

 「紗雪殿、ドライイーストというのはパンを作る時にパン用小麦粉と一緒に入れているあの茶色い?」

 食パン、バターロール、総菜パン、菓子パン等

 パンを作る時は必ずと言っていいほど茶色の粉末を入れていた事を思い出したレイモンドが紗雪に尋ねる。

 「ええ」

 そう言った紗雪はネットショップで購入したドライイーストが入っている袋を開封すると、それをランスロットとレイモンドに見せる。

 「この茶色い粉が柔らかいパンを作るのに欠かせない酵母・・・ドライイーストです」

 ランスロットが興味深そうに、だが、真剣にドライイーストを見つめる。

 「・・・紗雪殿、ドライイーストをロードクロイツやキルシュブリューテ王国にある食材を使って再現するのは可能なのか?」

 ドライイーストはロードクロイツの食文化の発展に繋がるだけではなく、柔らかいパンを作る種として他国に輸出すれば金になると思ったランスロットが紗雪に尋ねる。

 「・・・・・・天然酵母を低温で乾燥させるらしいですけど、私はそのやり方を知らないのでドライイーストを作るのは不可能です」

 紗雪の言葉に、ショックを受けたランスロットが肩の力を落とす。

 これは、キルシュブリューテ王国だけではなく近隣諸国にも言える事だが、近隣諸国では発酵しているパン種の一部やワイン、ビール酵母を使ってパンを作る。

 それ等を使って作ったパンを口にする事が出来るのは王侯貴族や金持ちだけだ。

 平民が口にするパンと比べたら柔らかいのは確かだが、紗雪が知っているパンと比べたら美味しくないのは否めない。

 「ですが、果物で作った天然酵母を使えば柔らかいパンやピザ生地が出来ますよ」

 ドライイーストは作れないが、果物を使った酵母であれば作り方を知っているのだと、紗雪が落ち込んでいるランスロットに話しかける。

 「紗雪殿、酵母を作る為に使う果物は何でもいいのか?」

 「何でもと言うより葡萄や苺、林檎や蜜柑、柑橘系であれば酵母が作れるわ」

 確か・・・瓶に果物と水を入れたら蓋をして・・・それから、その瓶をよく振って、後は放置すればいいの

 但し、酵母は生きているから毎日一~二回は蓋を開けて空気を入れ替える

 匂いを確認して、問題がなければ再び蓋をしてよく振らないといけないけどね

 「瓶と蓋は煮沸消毒しないと酵母にカビが生える事と、季節と環境によっては発酵させる期間が異なる事を注意しないといけないわ」

 紗雪が二人に酵母の作り方を教える。

 そうだ!

 「レイモンドさん。宿泊する為に立ち寄る町で果物を買って酵母を作ってみましょうか?」

 酵母を作るにしても、果物がなければ意味がないもの

 「面白そうだな」

 レイモンドが興味津々の声で呟く。

 「紗雪殿。酵母を使ったピザ生地と使っていないピザ生地で作ったピザを食べ比べしたいのだが・・・」

 「勿論、そうするつもりですよ」

 南方の貧しい住民が口にする平たいパンが、どのように変化するのだろうか?





 未知の料理に、ランスロットとレイモンドの胸が期待に膨らむ。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

処理中です...