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㉑シュルツベルクへ-3-
しおりを挟む「ロードクロイツ侯爵、レイモンドさん。これを敷いて下さい」
「紗雪殿、これは?」
「クッションです。これを座席の上に敷けば乗り心地が少しはマシになるはずです」
そう言った紗雪は購入したクッションを二人に渡す。
クッションを使った事で先程と比べて乗り心地が良くなったからなのか、ランスロットとレイモンドの顔は安堵の色が浮かんでいた。
「紗雪殿。一つ聞きたいのだが、牛乳とバターとチーズを何に使うつもりなのだ?」
シュルツベルクへと旅立つ前、市場で購入したそれ等を収納ポーチに入れるところを目にしていたランスロットが紗雪に尋ねる。
「シュルツベルクって新鮮な魚介類が獲れる事で有名ですが、魚を使った料理って塩漬けかパイの包み焼きかワインで煮込むかですよね?あと、油で揚げた魚料理もありますよね?一方、ロードクロイツは農業と酪農がメインです」
「つまり、紗雪殿はロードクロイツの乳製品とシュルツベルクの魚を使った料理を作ろうとしているのだな?」
「はい」
「しかし・・・乳製品と魚って合うのか?」
海の幸と言えば白ワインと一緒に食べるのが常識だからなのか、ランスロットが眉を顰める。
「父上、乳製品と魚って合いますよ」
海老や烏賊、白身魚のように牛乳と合う海の幸があるのだと、レイモンドがランスロットに教える。
「乳製品を使った魚料理・・・。パスタは決定事項だとして、後はミルク煮かシチューかクリームコロッケを作るつもりなのか?」
「そのつもりだったのだけど、何を作ればいいのか思い浮かばないのよ」
ムニエル、グラタン、ソテー・・・
魚料理は種類が多いので悩んでいるのだと打ち明ける。
「・・・紗雪殿、実はあの時言いそびれたのだが、南方にはチーズと野菜を載せて焼いた平たいパンと、それを包んで焼いたものがあるんだ」
冒険者として各地を旅しているレイモンドが、このパンは主に南方の貧しい住民が食べているのだが、載せる具材を変える事でメインとなる料理の一つになるのではないかと紗雪に教える。
(平たいパンにチーズを載せて焼いたものと、包んで焼いたもの・・・これってピザとカルツォーネの事よね?)
あっ・・・
レイモンドの一言に紗雪が小さな声を上げて驚く。
「流石、レイモンドさん!」
実は紗雪、レイモンドに和食・洋食・中華といった異世界の料理を教えてきたが、ピザとカルツォーネは作った事がなかった。
その理由と言うのが、レイモンドに言われるまで彼女の中ではそれ等の料理が全くと言っていいほど思いつかなかったからだ。
「でも、ピザ生地って自分で作った事がないのよ?」
そう言った紗雪は、ピザ職人が指の上に載せた生地を回している姿を思い浮かべる。
「紗雪殿・・・俺達は素人だから、本格的に作ろうと気構える必要はないと思う。それに、ピザ生地とやらを一から作るのであれば、カステラの時のように作り方が書いている本を見ながら作るしかないだろうな」
「言われてみれば確かにそうだわ・・・。レイモンドさんの言うように、私が作るのはあくまでも家庭向けであって販売目的ではない。だから、職人のように本格的なものを作ろうと気構えなくてもいいのよね」
「そういう事だ」
レイモンドの一言で紗雪の気分が楽になる。
「あのカステラは本を見ながら作っていたのだな」
「はい。カステラは作った事がないお菓子でしたので、本を見ながら二人で・・・正確に言えばレイモンドさんが作りました」
「材料を量るといった下準備をしたのは紗雪殿だ」
二人の料理の腕とカステラの作り方が載っている本があったからこそ美味く出来ていたのかと、ランスロットは納得していた。
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