カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

文字の大きさ
上 下
49 / 451

⑰カステラの試食-1-

しおりを挟む










 「凄い・・・」

 優美というより荘厳と言えばいいのだろうか。

 いや、優雅でありながら荘厳と表現するのが正しいのかも知れない。

 趣と歴史を感じさせながらも、周囲の風景に溶け込んでいる城に紗雪は驚きの声を上げる。

 「レイモンド様、サユキ様、お待ちしておりました」

 ランスロットかエレオノーラから事前に報告を受けていたのか、一人の老家令が門の前で二人を出迎える。

 「久しいな、クリフォード」

 「本当に・・・。あの、レイモンド坊ちゃまがこうして立派になられただけではなく、異世界の女人を伴侶として紹介する日が来るとは・・・」

 苦労した事で侯爵家に居た頃とは違い、レイモンドが人間として成長しているのだと感じ取ったクリフォードが、『爺や嬉しい!』と言わんばかりに感動の涙を流す。

 「クリフォード!お、俺と紗雪殿は・・・」

 母の前では恋人と言ってしまったが、実際のところ今の自分達の関係をどう言い表せばいいのか分からない。

 友達か?と聞かれたら、友達と答えられる。

 恋人か?と聞かれたら、どう答えたらいいのだろう?

 自分は紗雪に対して『好き』だの『愛している』だのと告白した事がない。

 しかし、紗雪を気に入っているのは確かだ。

 「レイモンドさん?」

 (・・・・・・)

 隣に居る紗雪を盗み見したレイモンドの顔が赤く染まる──・・・。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 「流石、侯爵家・・・」

 美奈子の隠居先の屋敷も凄いと思ったが、本宅はそれ以上だ。

 土地の高低差を利用して滝のように流れ落ちて行く荘厳な噴水、それと調和している緑豊かな自然と古代の神々や怪物の彫刻に紗雪は素直に感動していた。

 「父上に頼めば庭園を自由に見る事が出来るが、どうする?」

 「その前に、お茶会に出すお菓子を侯爵夫人に試食して貰うのが先だわ」

 「・・・・・・母上だけではなく、父上も今回の試食を楽しみにしているからな」

 夫人をメインとするお茶会に参加しないのに、父上の分も用意しなければいけないのか・・・

 レイモンドが溜め息を漏らす。

 「政務に疲れたロードクロイツ侯爵の、一時の休息の為のお菓子を作るのだと思えばいいじゃない」

 お二人が今日という日を、首を長くして待っているのだから早く行きましょ

 侯爵夫人が満足するかどうかは、レイモンドさんが作ったカステラにかかっているのよ!

 自分も協力するからと、笑顔を浮かべながら紗雪はレイモンドの手を引いて侯爵夫人が待つ屋敷へと向かう。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...