カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

文字の大きさ
上 下
43 / 451

⑯カステラとコーヒー-2-

しおりを挟む











 (このオリーブオイルは匂いがきついからダメ。このオリーブオイルは匂いが弱い。・・・うん、これでいいわね)

 紗雪がカステラを焼く為の型にオリーブオイルを塗ったり、オーブンを温めたり、材料を分量通りに準備している間、レイモンドはカステラの作り方が書いているページに目を通していた。

 まずは・・・卵は卵黄と卵白に分ける。

 それから、卵白はハンドミキサー・・・泡立て器の魔道具の事か。それで混ぜて、大きな泡が立ったら砂糖の四分の一を入れる。

 砂糖を入れたら円を描くように泡立て器を動かしながら二分泡立てる。それを四回繰り返し、砂糖を全て入れたら更に角が立つくらいまで泡立てる。

 (これって、メレンゲ・・・だよな?)

 読んでいくうちにメレンゲを作っていくのだと分かったレイモンドは、本に書いている通りに従い割った卵の卵白を大きめのボウルに、卵黄を別のボウルへと分ける。

 卵白が入っているボウルに砂糖の四分の一を入れると、泡立て器の魔道具でボウルに入っているそれ等を混ぜていく。

 その動きは正に料理を作る事に慣れている人間のものだった。

 (レイモンドさんって・・・本当に器用ね)

 オーブンを温めている間、カステラの生地を作っているレイモンドの隣で蜂蜜が入っている容器に熱湯を注いでいる紗雪が心の中で感動の声を上げる。

 十分後

 (次は・・・溶いた卵黄を三回に分けてメレンゲに入れるか)

 泡立て器に持ち替えて卵黄を溶きほぐし、卵黄の三分の一をメレンゲが入っているボウルに加えたレイモンドは、まんべんなく混ぜていく。

 ボウルに残っている溶き卵を二回に分けて入れていく度に、先程と同じように混ぜる。

 (卵黄と混ぜたメレンゲに熱湯で溶いた蜂蜜を二回に分けて注いだら泡立て器でさっと混ぜたら強力粉・・・強力粉というのはパン用の小麦粉の事だったな。それを三回に分けて入れたら、粉っぽさがなくなるまでさっくりと切るように混ぜ合わせると)

 紗雪が作ってくれていた蜂蜜を注いで泡立て器で軽く混ぜた後、彼女が三つに分けてくれていた強力粉の一つをボウルに加えると、泡立て器からゴムベラに持ち替えたレイモンドは底から生地を持ち上げるようにしながら、さっくりと切るように混ぜていく。

 (カステラって意外と手間がかかるお菓子だったのだな)

 エレオノーラが主催するお茶会を成功させる為というのも理由の一つだが、紗雪の故郷の料理とお菓子を広めたいという思いがレイモンドにはあるので自分に対して気合いを入れる。

 粉っぽさがなくなった生地にパン用の小麦粉を加えて切るように混ぜ合わせる事二回。

 「後はこの生地を濾しながら型に入れて焼けばカステラの完成という訳か」

 紙を敷いているパウンドケーキ用の型の上にこし器を置くと、ボウルに入っている生地を五回に分けて流し入れる。

 生地が入っている型を掴んだレイモンドは、それを調理台に落とす。

 これは空気を抜く為である。空気を抜かないと、きめの細かいカステラにならないと書いているのだ。

 空気を抜いた後、表面を平らにならした生地が入っている型を天板に乗せると百六十度に温めたオーブンで焼いていく。

 「焼き上がるのは、一時間十分から一時間ニ十分後か」

 「レイモンドさん。カステラって一晩寝かせておかないと、しっとりとした食感にならないのですって」

 本に目を通している紗雪が、今焼いているカステラはすぐに食べられない事をレイモンドに教える。

 「・・・・・・試食は明日になるという訳か」

 「そうなるわね」

 (レイモンドさんがロードクロイツの食材で初めて作ったカステラ・・・楽しみ~)

 「♪」

 生地が膨らみ焼けていく様子を眺めている紗雪の顔には笑みが浮かんでいた。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

異世界召喚に巻き込まれたエステティシャンはスキル【手】と【種】でスローライフを満喫します

白雪の雫
ファンタジー
以前に投稿した話をベースにしたもので主人公の名前と年齢が変わっています。 エステティックで働いている霧沢 奈緒美(24)は、擦れ違った数人の女子高生と共に何の前触れもなく異世界に召喚された。 そんな奈緒美に付与されたスキルは【手】と【種】 異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された奈緒美は宮殿から追い出されてしまう。 だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。 設定はガバガバ+矛盾がある+ご都合主義+深く考えたら負けである事だけは先に言っておきます。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

芋くさ聖女は捨てられた先で冷徹公爵に拾われました ~後になって私の力に気付いたってもう遅い! 私は新しい居場所を見つけました~

日之影ソラ
ファンタジー
アルカンティア王国の聖女として務めを果たしてたヘスティアは、突然国王から追放勧告を受けてしまう。ヘスティアの言葉は国王には届かず、王女が新しい聖女となってしまったことで用済みとされてしまった。 田舎生まれで地位や権力に関わらず平等に力を振るう彼女を快く思っておらず、民衆からの支持がこれ以上増える前に追い出してしまいたかったようだ。 成すすべなく追い出されることになったヘスティアは、荷物をまとめて大聖堂を出ようとする。そこへ現れたのは、冷徹で有名な公爵様だった。 「行くところがないならうちにこないか? 君の力が必要なんだ」 彼の一声に頷き、冷徹公爵の領地へ赴くことに。どんなことをされるのかと内心緊張していたが、実際に話してみると優しい人で…… 一方王都では、真の聖女であるヘスティアがいなくなったことで、少しずつ歯車がズレ始めていた。 国王や王女は気づいていない。 自分たちが失った者の大きさと、手に入れてしまった力の正体に。 小説家になろうでも短編として投稿してます。

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

処理中です...