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⑪豚の角煮-3-
しおりを挟む『これよ!これ!これが豚の角煮なのよ!』
醤油の味が染み込んでいる豚バラ肉と大根、黄身がトロっとしている半熟の味付き玉子。
豚の角煮を前に感動を隠し切れない美奈子が箸で挟んだ肉を口に運ぶ。
美奈子の口の中に広がっているのは、甘辛い醤油のタレとマッチした豚バラ肉の柔らかい食感と脂身の甘さ。
大根は柔らかく、煮込んだ事で味が染みている。
黄身が半熟になっている味付き玉子が、豚の角煮をより美味しそうに見せているのだ。
『これがブタノカクニ・・・』
豚の角煮を食べて幸せそうな表情を浮かべている美奈子とは対照的に、ランスロットとレイモンドは生まれて初めて目にした料理を不思議そうに眺めている。
『では・・・』
二人はフォークで刺した豚バラ肉を口に運んだ。
((!?))
甘さと辛さが一つになっている豚バラ肉は柔らかく、脂身は口の中で蕩けていくのだ。
醤油の味が付いている玉子は、トロっとしている半熟の黄身が食欲をそそり、柔らかく煮込んでいる大根の味は優しい味がする。
ランスロットとレイモンドは、紗雪が作った豚の角煮を無言で食べていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「今では私よりも美味しい和食だけではなく洋食に中華、ケーキやクッキーも作れるようになったレイモンドさんって本当に凄いわね・・・」
冒険者を辞めたら料理人としてやっていけそうだと思っている紗雪が、豚の角煮を皿に盛り付けているレイモンドに話しかける。
「紗雪殿が異世界の料理を教えてくれた事もあるが、何と言っても異世界のものを取り寄せられるというのが大きいだろうな」
もし、紗雪の依頼を引き受けなかったら、今の自分は不味いと分かっている料理を口にしていたのだと、レパートリーが増えなかっただろうと話しながら、ご飯と味噌汁、メインである豚の角煮とキャベツの浅漬けを載せたトレイをテーブルの上に置いた。
「食べようか?」
「ええ。いただき・・・ねぇ、レイモンドさん・・・。あの二人、もう少ししたら来るわよね?」
手を合わせようとした紗雪が、ある不安を口にする。
「ああ。だからこそ、こうしてあの二人分も用意している・・・」
今は昼食と夕食の時間帯だが、あの二人の事だ。このままだと何れ朝食もレイモンドの家で済ませようとするだろう。
毎日、我が家に食事を集り・・・ではなく食べにくる二人を思い浮かべてしまったレイモンドが溜め息を漏らしたその時──・・・。
「「レイモンド。紗雪殿(さん)」」
「父上とお祖母様の事ですから、今日も食べに来ると思っていました・・・」
最初の頃は【突撃!隣の〇ご飯】的な展開に悲鳴を上げていた紗雪とレイモンドであったが、これも日常の光景と化してしまったからなのか、ランスロットと美奈子の分も用意していると落ち着いた声で伝えると、侯爵と先代侯爵夫人は席に着くなり目の前にある豚の角煮を食べ始めるのだった。
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