カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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⑩篁家-1-

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 「お断りします」

 「な、何故!?」

 店に関する出資と手続きはロードクロイツ家ですると、利益なんて度外視してもいいと言っているのに、笑顔を浮かべて断った紗雪に美奈子が大声を上げて驚く。

 「私は日本では女子大生でした。バイトの経験はあっても、店の経営に関しては何の知識もない素人です。そのような人間に店の経営を任せたらどうなると思います?」

 大きな赤字を抱えて・・・日本円にすれば億単位の赤字で倒産するのが目に見えていますよ!

 そもそも紗雪がロードクロイツ家にやって来たのは、レイモンドの祖母に日本食を食べさせるというのも理由の一つだが、本当の目的は日本へ戻る方法を聞く為だ。





 自分は篁家の使命を果たさなければならない

 それを次代に伝える

 篁家の人間として





 その為には何としても日本に戻らないといけないのだと告げると、美奈子は悲痛な表情を浮かべて紗雪にある事実を告げる。

 【迷い人】であれ【聖女召喚】であれ、何かしらの形で異世界に来てしまった人間は元の世界に戻れないのだと──・・・。






 邪神・サマエルという小物を倒す為だけに、聖女召喚という馬鹿げた事を仕出かしたウィスティリア王国に対して怒りをぶつければいいのか

 己の使命を果たす事が出来なくなった事実を嘆き悲しむべきなのか

 「私・・・これから、どうやって生きて行けばいいの?」

 元はOLだった美奈子と、大学を卒業したらどこかの企業に就職するという道があった茉莉花であれば、異世界でも別の生き方が出来るだろう。

 現に美奈子は侯爵夫人として夫を支えつつ、内政チートでロードクロイツを栄えさせた。

 聖女として認識されている茉莉花は王太子妃になるのではないだろうか?

 但し、梅毒に罹っているから万能薬やエリクサーを飲まない限り、彼女の命は数年しか持たないけど。

 対して特殊な家に産まれた紗雪は幼い頃から悪霊を祓い、妖怪を狩る巫女として生きてきた。

 逆に言えば紗雪は巫女という生き方しか知らないのだ。

 他の生き方など考えもしなかった今の紗雪の心は怒り・悲しみ・嘆き・虚しさ───負の感情で渦巻いていた。

 「・・・・・・少し、席を外します」

 このままでは、何の関係もないロードクロイツ家の人達に八つ当たりをしてしまうと思ってしまった紗雪は厨房を出て庭園へと向かう。







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