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⑨その頃の聖女-2-
しおりを挟む二年前のウィスティリア王国は邪神・サマエルの脅威に晒されていた。
このままでは、ウィスティリア王国は滅びの道を歩んでしまう。
この状況を打破するべく、国の上層部と宮廷魔術師達はある手段に出た。
聖女召喚である。
どういう理屈なのか分からないが、異世界から召喚された人間は怪力や膨大な魔力と闇を除いた属性の魔法が与えられるのだ。
宮廷魔術師達による聖女召喚術は、成功であり失敗であった。
本来であれば一人しか召喚されないはずなのに、二人の人間をウィスティリア王国に招いてしまったからだ。
その時の聖女召喚術によって姿を現したのが、可愛らしい顔つきをしている小柄で華奢な茉莉花と、瀕死の重傷を負っていた紗雪である。
当時の紗雪は篁家の使命に従い、天女の羽衣と霊剣・蜉蝣で九尾狐とその一族を殲滅させたばかりだった。
数千年の時を生き、陰で権力者に取り入り操っていた妖狐の長は狡猾で凶悪な妖怪で、紗雪に他人の心が読める能力───霊視がなければ彼女自身が命を落としていた可能性もあったのだ。
戦争がなく平和な国から召喚した人間が妖怪───フリューリング風に言えば魔物と戦うハンターが存在しているなんて夢にも思っていなかったウィスティリア王国側は、いい家の令嬢に見えるだけではなく魔法が付与されている茉莉花を聖女、ネットショップという何だか分からないスキルが付与されている紗雪を聖女召喚に巻き込まれた人間と認定し、国王は二人に事情を話した上で邪神・サマエルを討つよう命じた。
平和な世界からやって来た人間が戦えるはずがないので聖女の守り役として・・・自身は実戦経験がなく、しかもまともに訓練を受けていないにも関わらず純粋無垢で清楚可憐なお嬢様な茉莉花にいいところを見せたいという理由だけで同行を願ったのが王太子のエドワードと王国騎士のギルバード、ギルバードと同じ王国騎士のラルクと精霊使いのカーラである。
エドワードとギルバードは、魔法が一切使えない紗雪を足手纏いと思いながらも飯炊き女として、荷物持ちとして彼女をこき使った。
ゴブリンやオークの群れ、オーガを退治しては茉莉花の聖女として、エドワードとギルバードの聖女の守護者としての名声を上げつつ進んで行く。
(実際にそれ等を退治していたのは紗雪とラルクとカーラである。茉莉花とエドワードとギルバードはただ恐怖で立ち竦んでいただけ)
魔物を退治しつつ先を進む一行。
そして、遂に彼等は邪神・サマエルと対峙する事になった。
のだが──・・・。
実践どころかまともに訓練を受けておらず道中の魔物退治の時でさえ高みの見物を決め込んでいたエドワードとギルバード、そして茉莉花は邪神・サマエルから溢れ出る邪悪なオーラに恐怖してしまったのか、粗相をしてしまったのだ。
そんな彼等を無視して、召喚した式神───四方守護神の白虎でサマエルを倒したのが紗雪である。
簡単に言えば、邪神討伐は紗雪の力だけで成し遂げられたものだと言ってもよい。
『あんな小物くらい、他人に頼らず自分達の力で倒せよ』
ちっ!
断末魔の悲鳴を上げて消滅していくサマエルを前に呟いた紗雪の声の冷たさに、実力がある故に他者を見下す傲慢な視線にエドワード達は一種の恐怖を覚えたのだが、所詮は初歩的な魔法の一つも使えない異世界人。
三人は彼女の手柄を奪い自分達のものとしただけではなく、大勢の人々が集う祝勝パーティーで邪神討伐の真実を知る紗雪を断罪し国外追放を言い渡したのだ。
そして茉莉花は、国を救った聖女としてチヤホヤされる日々を送っている。
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