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⑦紗雪の告白-1-
しおりを挟む日中は暖かいが陽が落ちると肌寒さを感じるので夕食はシーフードシチューにしようと決めた紗雪は、今回の為に作った料理の一つであるシチューと魔道具の一つである二口コンロをマジックポーチから鍋ごと取り出して温め始める。
この二口コンロは高価だったけど火の魔石さえ取り換えればこうして旅先でも使う事が出来るし、魔力が切れた魔石は捨てても粗大ゴミにもならない。
地球で言うところの冷蔵庫に冷凍庫、ガスコンロにトースターといった環境に優しい調理家電はあるというのに、どうして食文化は発達していないのだろうか?
この世界に来てから何度も抱いた疑問であるが、こればかりは異邦人である自分が口を挟む権利などない。
「いい匂い~」
鍋の中から立つミルクの匂いが、沸騰しないように煮込んでいる音が三人の食欲をそそる。
「皆さん、出来ましたよ」
シチューを盛り付けた皿を三人に渡す。
「まさか、護衛の仕事で温かい料理が食べられるなんて夢にも思わなかったな」
紗雪から器を受け取ったベスティーが呟く。
これは冒険者だけではなく商人や旅芸人にも言える事なのだが、道中の彼等の食事は味が二の次な携帯食か運良く狩る事が出来た獣や魔物で済ませるのが殆どで、固いパン・干し肉・チーズがあればご馳走だと言われているくらいのレベルなのだ。
温かい料理に飢えている三人が匙で掬ったシーフードシチューを口に運ぶと、野菜の甘味と鮭の旨味が溶け込んだスープが広がっていく。
カットしているパンにスープを浸して食べると、これまた相性が抜群だった。
「ゆっくりと少しずつ食べたかったのに、一気に食べちゃったよ」
スノーさん、お鍋とお皿はあたしの魔法で綺麗にしちゃうね
シーフードシチューを食べ終えたヴィヴィアンが『クリーン』と唱えると水が出てきて、シチューが入っていた鍋と皿を綺麗に洗っていく。
「ありがとうございます、ヴィヴィアンさん」
生活魔法って便利だな~
自分もこんな能力を使ってみたいな~と思いながら、紗雪が礼を口にする。
「これくらいお安い御用だよ。スノーさん、明日も早いのですから今日はもう寝た方がいいですよ」
「いいのですか?」
「依頼人であるスノーさんを護るのが俺達の仕事だからな」
「お言葉に甘えさせていただきます」
ベスティーにそう言った紗雪はマジックポーチから取り出した毛布を被ると、カラーコンタクトレンズを外して静かに瞼を閉じる。
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