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⑥チキンカツサンド-1-
しおりを挟む「このまま順調に進めば明日の昼過ぎには街に到着できるな」
懐から取り出した時計を見ながらレイモンドが呟く。
(一介の冒険者・・・Aランクとはいえ懐中時計を持っているという事は、レイモンドさん自身がセレブなのか、実家がセレブなのか──・・・)
冒険者ギルドで顔を会わせた時から、レイモンドという男の立ち居振る舞いは貴族子息のように洗練されているものだったから、いい家の坊ちゃんというのは何となく想像していた紗雪は彼を霊視してみる。
(・・・・・・レイモンドさんはロードクロイツ侯爵家の三男だったのね)
侯爵子息であるが家を継げないレイモンドは、成人を迎えたと同時に自立して生きて行かなければならない立場にあったのだ。
だから彼の立ち居振る舞いが洗練されていたのかと、同時にレイモンドからは力強さを感じたのだと、紗雪は心の中で納得していた。
「スノー殿?俺の顔に何か付いているのだろうか?」
「いえ。他の冒険者さんと比べたらレイモンドさんって随分といい男だから、さぞかし女性に不自由していないのだろうなと思ってしまいました」
不躾な事をお尋ねしますが、その懐中時計はご自分で買ったのですか?
顔に疑問符を浮かべながら尋ねてくるレイモンドに、自分が霊視をしていた事を知られる訳にはいかない紗雪は彼の問いにそう答える。
客観的に見てレイモンドはイケメンの部類に入るので、紗雪の『女に不自由していないだろう』という言葉は決して嘘ではない。
「この懐中時計は、俺の十六歳の誕生日に父から貰ったものだ」
俺が生きている時間をこの時計と共に刻んでいけという意味でな
「そうだったのですね」
ロードクロイツ侯爵がどのような人物なのか分からないが、レイモンドにとっていい父親であるらしい。
「なぁ、レイモンド。そろそろ昼飯時なんじゃねぇの?」
先程からぐぅ~っと鳴っている腹を押さえながら昼飯を催促するベスティーの言葉に呆れながらも、レイモンドが手にしている懐中時計に目を向けると、短針と長針がⅫを指していた。
「もうお昼になっていたんだ。道理でお腹が空くはずだわ」
朝食はパンと水で済ませていたヴィヴィアンもベスティーの言葉で空腹感を覚えたのか、彼女もまた自分の腹を押さえる。
「ベスティーの腹時計って飯に関してだけは本当に正確だな・・・」
スノー殿、このまま何も食べずに先に進めばベスティーが暴走するから、ここで食事をしたいのだが構わないだろうか?
今回の仕事の依頼人は紗雪だ。
ここは彼女の言葉が優先されるので、レイモンドが伺いを立てる。
「・・・いいですよ」
「やった~♡」
「メシメシ~」
巻き込まれる形で異世界に来たとはいえ、この世界の自然の景色というものを楽しんでいないという事実に今更ながら気が付いた紗雪は昼食を摂る事にした。
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