カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

文字の大きさ
上 下
14 / 465

⑥チキンカツサンド-1-

しおりを挟む










 「このまま順調に進めば明日の昼過ぎには街に到着できるな」

 懐から取り出した時計を見ながらレイモンドが呟く。

 (一介の冒険者・・・Aランクとはいえ懐中時計を持っているという事は、レイモンドさん自身がセレブなのか、実家がセレブなのか──・・・)

 冒険者ギルドで顔を会わせた時から、レイモンドという男の立ち居振る舞いは貴族子息のように洗練されているものだったから、いい家の坊ちゃんというのは何となく想像していた紗雪は彼を霊視してみる。

 (・・・・・・レイモンドさんはロードクロイツ侯爵家の三男だったのね)

 侯爵子息であるが家を継げないレイモンドは、成人を迎えたと同時に自立して生きて行かなければならない立場にあったのだ。

 だから彼の立ち居振る舞いが洗練されていたのかと、同時にレイモンドからは力強さを感じたのだと、紗雪は心の中で納得していた。

 「スノー殿?俺の顔に何か付いているのだろうか?」

 「いえ。他の冒険者さんと比べたらレイモンドさんって随分といい男だから、さぞかし女性に不自由していないのだろうなと思ってしまいました」

 不躾な事をお尋ねしますが、その懐中時計はご自分で買ったのですか?

 顔に疑問符を浮かべながら尋ねてくるレイモンドに、自分が霊視をしていた事を知られる訳にはいかない紗雪は彼の問いにそう答える。

 客観的に見てレイモンドはイケメンの部類に入るので、紗雪の『女に不自由していないだろう』という言葉は決して嘘ではない。

 「この懐中時計は、俺の十六歳の誕生日に父から貰ったものだ」

 俺が生きている時間をこの時計と共に刻んでいけという意味でな

 「そうだったのですね」

 ロードクロイツ侯爵がどのような人物なのか分からないが、レイモンドにとっていい父親であるらしい。

 「なぁ、レイモンド。そろそろ昼飯時なんじゃねぇの?」

 先程からぐぅ~っと鳴っている腹を押さえながら昼飯を催促するベスティーの言葉に呆れながらも、レイモンドが手にしている懐中時計に目を向けると、短針と長針がⅫを指していた。

 「もうお昼になっていたんだ。道理でお腹が空くはずだわ」

 朝食はパンと水で済ませていたヴィヴィアンもベスティーの言葉で空腹感を覚えたのか、彼女もまた自分の腹を押さえる。

 「ベスティーの腹時計って飯に関してだけは本当に正確だな・・・」

 スノー殿、このまま何も食べずに先に進めばベスティーが暴走するから、ここで食事をしたいのだが構わないだろうか?

 今回の仕事の依頼人は紗雪だ。

 ここは彼女の言葉が優先されるので、レイモンドが伺いを立てる。

 「・・・いいですよ」

 「やった~♡」

 「メシメシ~」

 巻き込まれる形で異世界に来たとはいえ、この世界の自然の景色というものを楽しんでいないという事実に今更ながら気が付いた紗雪は昼食を摂る事にした。





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

聖女なのに王太子から婚約破棄の上、国外追放って言われたけど、どうしましょう?

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
王城内で開かれたパーティーで王太子は宣言した。その内容に聖女は思わず声が出た、「え、どうしましょう」と。*世界観はふわっとしてます。*何番煎じ、よくある設定のざまぁ話です。*書きたいとこだけ書いた話で、あっさり終わります。*本編とオマケで完結。*カクヨム様でも公開。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

聖女らしくないと言われ続けたので、国を出ようと思います

菜花
ファンタジー
 ある日、スラムに近い孤児院で育ったメリッサは自分が聖女だと知らされる。喜んで王宮に行ったものの、平民出身の聖女は珍しく、また聖女の力が顕現するのも異常に遅れ、メリッサは偽者だという疑惑が蔓延する。しばらくして聖女の力が顕現して周囲も認めてくれたが……。メリッサの心にはわだかまりが残ることになった。カクヨムにも投稿中。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。 此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。 召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。 だって俺、一応女だもの。 勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので… ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの? って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!! ついでに、恋愛フラグも要りません!!! 性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。 ────────── 突発的に書きたくなって書いた産物。 会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。 他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。 4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。 4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。 4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました! 4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。 21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

処理中です...