12 / 454
④王都へ(前編)
しおりを挟む「コントラ商会に行って欲しい?会頭からそのような依頼があったの?」
コントラ商会というのは、王都でも一・二位を争う大富豪であり、国内に幾つも店舗がある大店だ。
商品を卸した後、商人ギルドの受付に言われた紗雪は戸惑いの表情を浮かべる。
受付の話によると、日焼け対策に悩む奥方と娘の為に会頭が日焼けから護る帽子を購入したらしい。
「帽子なら王都にも売っていますよね?」
「実はですね・・・会頭の奥方様が、スノーさんが卸している帽子を王都でも貴族用と平民用として売りたいと思っているらしいのです」
後、奥方様がスノーさんの卸した帽子は他の帽子と比べたら日焼け止め効果が群を抜いて高いから気に入っているというのも理由の一つですし、帽子をレース等で飾れば富豪用としても売れるかも知れないと考えているみたいですよ
「でも、平民向けとして売っている帽子が富豪向けとして売れるかしら?」
貴族が要らなくなった、或いは型が古くなったという理由で古着屋に服を売る事はあっても、元から平民向けとして売っていた商品を買うだろうか?
「スノーさん!お願いします!どうか、この話を受けて下さい!!」
「この話を受けるか受けないかは一先ず置いといて、どうして会頭の奥方は私の事を知ったの?」
受付の答えはこうだった。
帽子専門店・サルトの店主であるアーサーは紗雪から卸している事は伝えていないが、アーサーが商人ギルドにコントラ商会の奥方が帽子を自分の商会にも卸して欲しい事を伝えたのだ。
(つまり、奥方自身は私の事を知らないのね・・・)
紗雪自身が会頭の奥方がどのような人物であるかを知らないように、奥方も紗雪がどのような人物であるかを知らないのだ。
プライドが高く傲慢なのかも知れないし、商会の奥方だからこそ腰が低く質素倹約を旨にしているのかも知れない。
(こればかりは、直接会って霊視するしかないわね。コネも欲しいし・・・)
大商会の奥方というだけで彼女がこういう人物だと決めつけてはいけないと分かっている紗雪は、この話を引き受ける事にしたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
女が一人で旅をするのは危険なので、紗雪は冒険者ギルドに護衛の依頼を出した。
内容はこうだ。
依頼:グラナードから王都まで及び王都からグラナードまでの護衛
報酬:二十シルバ/人日
条件:生活魔法を使える人
「皆さんの食事と、宿に泊まれた時の代金は私の方で出します」
「分かりました。馬車であれば往復で十四~五日、徒歩であれば二十八~三十日になりますね。どういたしますか?」
「そうね・・・。徒歩でお願い出来ますか?」
乗合馬車を使えば徒歩の半分の日程で終わる。
乗合馬車は山賊や盗賊の類に襲われる可能性が高いというのも理由の一つだが、本当の理由は食事にある。
旅行中の自分達の食事は状況にもよるが、今回の旅に向けてマジックポーチに作り置きする温かい料理と飲み物、デザートを用意するつもりだ。
硬いパン、チーズ、干し肉があれば豪華だと言われている中、出来立ての料理を口にしている自分達を目にしようものなら、同乗者はどう思うであろうか。
お金様を払ってくれる人達の分は用意するつもりでいるが、自分からマジックポーチを強奪しようという輩が出てくる可能性も否定できない。
だから紗雪は徒歩を選んだ。
「畏まりました。依頼を受けて下さる冒険者が見つかりましたら、スノー様に連絡いたします」
紗雪が出した依頼を受け付けた受付嬢は笑顔で受け取ったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「つ、疲れた~」
コロッケサンド、照り焼きチキンサンド、ロースカツサンド、フィレカツサンド、ハムカツサンド、厚焼き玉子サンドといった惣菜系のサンドイッチ、フルーツクリームサンド、ジャムサンドといったデザート系のサンドイッチ、ポトフ、クラムチャウダー、ポタージュスープ、ミネストローネといったスープ、ビーフシチュー、クリームシチュー等を家に帰るなり大量に作りマジックポーチに入れた紗雪。
何時ものように店に卸す商品を購入した後、風呂に入って一日の疲れを取るのだった。
14
お気に入りに追加
422
あなたにおすすめの小説
聖女のおまけです。
三月べに
恋愛
【令嬢はまったりをご所望。とクロスオーバーします。】
異世界に行きたい願いが叶った。それは夢にも思わない形で。
花奈(はな)は聖女として召喚された美少女の巻き添えになった。念願の願いが叶った花奈は、おまけでも気にしなかった。巻き添えの代償で真っ白な容姿になってしまったせいで周囲には気の毒で儚げな女性と認識されたが、花奈は元気溌剌だった!
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
【完結】聖女の私を処刑できると思いました?ふふ、残念でした♪
鈴菜
恋愛
あらゆる傷と病を癒やし、呪いを祓う能力を持つリュミエラは聖女として崇められ、来年の春には第一王子と結婚する筈だった。
「偽聖女リュミエラ、お前を処刑する!」
だが、そんな未来は突然崩壊する。王子が真実の愛に目覚め、リュミエラは聖女の力を失い、代わりに妹が真の聖女として現れたのだ。
濡れ衣を着せられ、あれよあれよと処刑台に立たされたリュミエラは絶対絶命かに思われたが…
「残念でした♪処刑なんてされてあげません。」
【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」
【完結】婚約者は偽者でした!傷物令嬢は自分で商売始めます
やまぐちこはる
恋愛
※タイトルの漢字の誤りに気づき、訂正しています。偽物→偽者
■□■
シーズン公爵家のカーラは王家の血を引く美しい令嬢だ。金の髪と明るい海のような青い瞳。
いわくつきの婚約者ノーラン・ローリスとは、四年もの間一度も会ったことがなかったが、不信に思った国王に城で面会させられる。
そのノーランには大きな秘密があった。
設定緩め・・、長めのお話です。
聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話
下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。
主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。
小説家になろう様でも投稿しています。
異世界召喚された巫女は異世界と引き換えに日本に帰還する
白雪の雫
ファンタジー
何となく思い付いた話なので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合展開です。
聖女として召喚された巫女にして退魔師なヒロインが、今回の召喚に関わった人間を除いた命を使って元の世界へと戻る話です。
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる