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⓪序-3-
しおりを挟む茜色に染まった空が夜の帳に覆われようとしている頃
「ママさん、デミグラスソースハンバーグと海老ドリアとオムライスとお子様プレート。デザートはプリンアラモードをお願いします」
「ママ、注文が決まったよ。俺はナポリタンとカプチーノ」
「俺はチキンソテーとシーザーサラダだ」
「私は・・・カルボナーラとトマトサラダね」
「俺はボロネーゼとバニラアイス」
「はい。ご注文、承りました」
客の注文を受けたママが笑顔でそう答え、マスターに伝えてから約十分後
「お待たせしました。デミグラスソースハンバーグと海老ドリアとオムライスとお子様プレートです。デザートのプリンアラモードは食後にお持ちいたします」
「ナポリタンとカプチーノ、チキンソテーとシーザーサラダです」
「カルボナーラとトマトサラダ、ボロネーゼです。バニラアイスは食後にお持ちいたします」
ママが家族連れの客が座るテーブルに、従業員二人が背は低いが筋骨隆々のドワーフ達、有翼人の青年が座るテーブルに料理を運ぶ。
「目玉焼きが乗っているハンバーグ、エビフライ、ケチャップライス、フライドポテト、コーンサラダ、プリン・・・何かお姫様になった気分なの~」
「皮がパリッと焼けていて香ばしいのに肉は柔らかいだけではなく凄くジューシー。塩と胡椒の味が口の中に広がっていく・・・」
「前に食べたミートソースも美味いと思ったけど、俺は肉を感じるボロネーゼの方が好みだな」
エビフライを食べた七つか八つくらいの子供、職人ギルドを束ねるドワーフのギルドマスター、町の外れで自作のポーションを販売している有翼人の青年が、それぞれ自分が注文した料理を堪能する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「「マスター、ママ、店の片づけが終わりました」」
「二人共、ご苦労様」
「明日も早いから今日はもう休んでいいわよ」
閉店時間となり閑散とした店内では、仕事を終えた二人の従業員が自分の部屋へと戻る。
「・・・つ、疲れた」
「レイモンド、今日も一日ご苦労様」
カフェ・ユグドラシルのママである紗雪がマスターにして夫でもあるレイモンドを労わる意を込めてグラスにウイスキーを注ぐ。
「・・・やはり異世界のウイスキーは熟成されているからなのか、円やかで味と香りに深みがあって美味いな。こっちにもワインやエールといった酒はあるけど、雑味があって・・・一言で言えば不味い」
グラスに注がれているウイスキーを飲んだ後、口の中に広がる風味をリセットする為に紗雪が用意したチェイサーを口に運ぶ。
「そういえば・・・邪神・サマエル討伐に向かっていた時に立ち寄ったラクスランド王国のお酒を飲んだ事があるけど、ここのって異世界・・・というか日本のと比べたら全然美味しくなかったわね」
ワインとエールだけではなく料理も美味しくなかった事を思い出したのか、紗雪が顔を顰める。
「ラクスランドの料理は、紗雪が育った国のように見栄えや味など重視されていないだけではなく、塩や胡椒といった調味料が高価だからな。それよりも紗雪、【カフェ・ユグドラシル】の存在がキルシュブリューテ王国の住人だけではなく徐々にではあるけど他国の人間にも知られてきている。そろそろ新しい従業員・・・出来れば料理が出来る誰かを雇った方がいいんじゃないのか?」
う~ん・・・
「レイモンドの言うように新たに雇うとなると・・・私のスキルを秘密にして欲しいから、やっぱり借金奴隷がいいかしら?」
(もし・・・あの時、レイモンドと出会わなかったら──・・・)
こうした穏やかな日々を送る事が出来たのだろうか?
紗雪もまたウイスキーを煽りながら、過去を思い出す。
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