18 / 32
⑦真祖と聖女-6-
しおりを挟む天井から落ちてくるのは巨大な刃に、棘が付いている鉄の重り
壁から飛び出してくるのは槍と弓
剣山が敷き詰められている床に火柱
侵入者を撃退しようとするのは石像に扮しているガーゴイルに、武器を手にしている骸や鎧
壁や床にこびりついている血痕が、元は華やかさと荘厳さを兼ね備えていたであろう王宮の室内を満たす死臭が凄惨なものへと変えている。
魔物を倒して来たし、死体は見慣れているはずなのだが、目の前にある多くの白骨が転がっている事実にリオン達は掌で口元を押さえて吐き出しそうになるのを堪えていた。
「ミイラ!」
「ゾンビ!」
「き、気持ち悪い!」
「あたい、アンデッド系は苦手なんだ!」
「どうせなら、サキュバスかカーミラのボン・キュッ・ボン姉ちゃんに襲って欲しかった!」
恐がっているのか、余裕があるのか分からない台詞を口にして逃げ回りながらも、メリーアン達はただ無我夢中で目の前の敵を屠っていく。
「メリーアンさん。ゾンビやスケルトンって光魔法の中級に属するライトスピアやシャイニングではなく、治癒師が使う回復系で簡単に倒せるアンデッド系モンスターですよ」
その証拠にほら・・・
クリュライムネストラがアスクレピオスの杖を通して掠り傷を治すレベルの霊力を注ぐと、リオン達を襲っていた最後のゾンビとスケルトン一体ずつが音を立てて崩れ落ちていく。
「治癒師でも敵を倒せるんだ・・・」
「治癒師の回復系は人間にとって傷と病を癒しますが、アンデッドにとっては傷つけるものでしかないのですよ」
これは私の推測ですが、治癒師の霊力はアンデッドにとって己の肉体と力を蝕むものなのでしょうね
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ほぅ・・・
「アンデッドにとって治癒師の霊力は害でしかない事を知っているあの者は聖人?聖女?・・・いや、メディクスの血を引く者か」
イビルゲイザーを通して終焉の離宮の様子を見ているレーヴェナードは、アスクレピオスの杖を手にしている人間の名前は分からないがメディクス家の末裔である事を察していた。
メディクス家の者は代々治癒能力に秀でており、最低でも掠り傷はもちろんだが捻挫であれば一瞬で治せるくらいの力を有している。
レーヴェナードは目にした事はないが、欠けた四肢を完全に戻すだけではなく不治の病の完全治癒、体内の毒物を浄化できる者が数百年前のメディクス家に存在したという噂を耳にしていた。
エリクサーという薬に頼らずに四肢の再生が出来るという事は、メディクス家の能力は本物である事を意味する。
そんな治癒能力に長けているメディクスの家系に生まれた一人の女が、毒物の浄化能力を応用した、ある能力を開発した。
その能力とは魂の浄化。
名前が示す通り、吸血鬼に血を吸われて魔物や妖魔と化してしまった者を元に戻すというものである。
当時のレーヴェナードにとってこの能力は厄介であった。だが、同時に自分の眷属として手元に置いておきたい人材でもあった。
しかし、魂の浄化を開発したメディクス家の女は老いていただけではなく、それが完成したのは彼女が死ぬ数日前であり、使ったのはたった一度だけである、らしい。
「・・・・・・レオパルド、頼みがある」
───
「我が君の仰せのままに」
レーヴェナードの命令を実行するべく、レオパルドは手配する。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は所詮悪役令嬢
白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」
魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。
リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。
愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。
悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
大好きな第一王子様、私の正体を知りたいですか? 本当に知りたいんですか?
サイコちゃん
恋愛
第一王子クライドは聖女アレクサンドラに婚約破棄を言い渡す。すると彼女はお腹にあなたの子がいると訴えた。しかしクライドは彼女と寝た覚えはない。狂言だと断じて、妹のカサンドラとの婚約を告げた。ショックを受けたアレクサンドラは消えてしまい、そのまま行方知れずとなる。その頃、クライドは我が儘なカサンドラを重たく感じていた。やがて新しい聖女レイラと恋に落ちた彼はカサンドラと別れることにする。その時、カサンドラが言った。「私……あなたに隠していたことがあるの……! 実は私の正体は……――」
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる