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②何でも屋のライム
しおりを挟む王女という地位を捨てただけではなく、今は王太后として離宮で隠居していた母と共にメディクス王国へと赴いたクリュライムネストラはメディクス王家の血を引く者の中で、特に治癒能力と浄化に秀でている者にしか扱えない【アスクレピオスの杖】を手に、時には治癒師として、時には退魔師として、色々な仕事をこなす何でも屋───冒険者の青年ライムとして各地を巡り生計を立てていた。
ハーネット王国を出奔してから一年
ライムとしての生き方が地についてきたクリュライムネストラは、ある冒険者パーティーの治癒師として行動を共にする事になった。
「俺はパーティーのリーダーをしている剣士のリオンだ」
「僕は魔法使いのメリーアンです」
「あたいはジェーン。主に情報収集と、罠を仕掛けたり見破るのを担当しているよ」
「私はローズ。回復と防御系を担当している」
リオン、メリーアン、ジェーンの三人は笑みを浮かべながら自己紹介をしたが、パーティーのサポート役である事に誇りを持っているからなのか、新人に毛が生えただけのヒヨッコでしかないクリュライムネストラと一緒に行動をするのは嫌だという事を言葉と態度で示していた。
「ところで今回の行方不明者の捜索について色々お聞きしてもよろしいでしょうか?」
クリュライムネストラの問いにリオンは答える。
「ああ。俺達がこの依頼を受けたのは行方不明者の中には助祭様と司祭様がいるという事もあるんだが、実はその中に先輩もいるらしいんだ」
「それは教会がやるべきであって、私達の仕事ではないような気がするのですが?」
当然の疑問をぶつけるクリュライムネストラに、彼等はある事実を教える。
「ライム殿の言う通りだが、その辺は魚心あれば水心って奴だ。一見すると彼等は何の関係もないように思えるが、実は一つだけ繋がりがあったんだ」
「繋がり、ですか?」
「はい。僕達の先輩だけではなく助祭様と司祭様達は、ある場所へと向かっていたのです」
その場所というのがサクリフィス大陸なのだとメリーアンが言葉を発した。
サクリフィス大陸とは【夜の世界の住人】と呼ばれる魔力に秀でている妖魔が支配していると言い伝えがある、未だに謎に包まれている場所の一つだ。
建物の全てが黄金で出来ているとか、いや、伝説の秘宝と財宝が眠っているとか色々言われているが、真相が不明であるという事実が人々の探求心と欲望をそそるのか、ギルドや世界各国の首脳陣がそれらを手に入れようと、探検家や教団だけではなく軍隊を送り込んでいる。
黄金を発見しただの、伝説の秘薬を発見しただのといった情報が数ヶ月、いや何年経っても齎されないものだから焦りを感じた首脳陣達が今回の布陣で送る事を決定した・・・らしい。
「話は分かりましたけど、メンバーに私が選ばれたのでしょうか?」
クリュライムネストラの疑問に、『未知の場所に向かうという事もあるからなのか回復系が使える人が一人でも多くいた方がいいという上層部の思惑が働いた結果、ライムが選ばれたのではないか?』と、メリーアンが自分の考えを語る。
「・・・私がギルドマスターや司教という立場にあったのなら、今回のような判断を下すのかも知れませんね。ですが、それはサクリフィス大陸と妖魔についての情報を十分に得た上での判断です」
サクリフィス大陸と妖魔をベースにした、どことなく耽美な雰囲気を感じさせる物語なら読んだ事はあるが、それは作り手の空想によって生まれた産物に過ぎない。
事実だけを教えて欲しい
クリュライムネストラは彼等にそう言っているのだ。
「それは・・・実は僕も詳しくは知らないんです」
「でもさ、物語が真実を語っているのかも知れないよ」
「その可能性は否定しないわ」
「何はともあれ、当たって砕けろだ!」
「リオンって相変わらずの脳筋だね」
「あんた等・・・俺達とカードゲームをしないか?」
ある戦士の誘いに乗ったリオン達はカードゲームに参加する。
幌馬車で和気藹々とゲームを楽しんでいる彼等は知らない。
今回の旅が全てとの別れになってしまう事を
自分達が妖魔と呼ばれる存在と化してしまう事を
【聖女】とも【神子姫】と呼ばれていた女性が魔王に見初められてしまう事を
自分達に訪れる未来を知らぬまま、今回の探索に選ばれた一行を乗せている幌馬車はフラワールナ港を目指す。
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