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少女と吸血鬼の攻防戦-3-

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 両親がブラッドに謝罪している頃
(あの人が・・・怖い!)
 自分の部屋に戻るなり麗弥は、初めて幽霊というものを目にした幼い頃の恐怖が蘇ってしまったかのようにベッドの上で震えていた。
 ブラッドという男は傍から見れば、若い頃はモデルをやっていたと言っても通用するくらいのイケオジである。
 旦那のメタボ体型に愚痴を零す近所のおば様達であれば、妖しいまでの魅力と男の色香を放っているブラッドに夢中になるのではないだろうか。
 だが、は得体の知れない【何か】なのだ。
「麗弥、君に話があるのだけど・・・部屋に入れてくれないかな?」
 扉をノックしながら話しかけてきたのは、母の兄を名乗るブラッドだった。





 近寄ってはいけない
 近づいてはならない





 「・・・・・・・・・・・・」
 ブラッドが危険な存在だと本能で察知している麗弥は言葉を発しない事で拒絶の意を示す。
 (・・・・・・離れたの、かな?)
 「麗弥」
 「#!&?%$☆△☹♡♨☺」
 鍵をかけていたはずなのに、自分の部屋に侵入してきた男の姿を目にした麗弥は言葉にならない驚きの声を上げる。
 「ど、どうやって入って来たの?!」
 「ちゃんと扉から入って来ましたが?」
 麗弥の問いに、ブラッドは実に晴れ晴れとした笑顔を浮かべて答える。
 「見ず知らずの女の子の部屋に勝手に入るなんて最低!不法侵入罪で警察に電話しますけど?」
 「麗弥、君は私の妻になる女性です。ですから、不法侵入罪にはなりません」
 「妻!?何で私が?!・・・・・・もしかして、両親が借金の形に私を貴方に売ったとか?!」
 借金の形として娘が女郎屋に売られていくシーンが、麗弥の脳裡に浮かび上がる。
 「イメージとしては借金の形それで合っています。正確に言えば麗弥の両親ではなく、貴女の高祖父が貴女を私に売ったのですよ」
 ブラッドは話す。









 今から百年以上前
 麗弥の母方の高祖父であるグスタフ=バイエンフェルトという男がいた。
 彼は一代で巨万の富を築き上げた人物として名を残している。
 同時に、バイエンフェルト家が現代の経済界と財界を裏で牛耳っているという、嘘か真実か分からない都市伝説が伝わっている程なのだ。
 そんな彼も若い頃は貧困で喘いでいただけではなく、友人に騙されて多額の借金を背負わされたらしい。
 妻と産まれたばかりの子供を道連れに命を絶とうとしたその時、グスタフ達の前に人間離れした妖しいまでに美しいだけではなく、女を魅了せずにはいられない吸血鬼ヴァンパイア特有の色香と厳かなオーラを纏った四十代くらいの中年男性───ヴァールゼルブが現れた。
 グスタフの話を聞いたヴァールゼルブは契約を持ち掛ける。
 バイエンフェルト家には富と名声を与える。その代わりにグスタフの孫娘の血筋から産まれる孫娘───つまり玄孫を貰うというものだった。
 グスタフが愛情を注げるのは自分の妻と子供、そしていずれ産まれてくるであろう孫と呼ぶ存在である。
 血が繋がっているとはいえ、百年以上の時を生きない限り顔を合わせる機会がない玄孫など彼にしてみれば赤の他人でしかないのだ。
 グスタフが血判を押した事でヴァールゼルブとの契約は交わされた。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 「こういうのって『死んだら魂を貰う』とか『娘が二十歳になったら自分の元に嫁がせろ』というのがお約束なのに・・・・・・」
 何故、玄孫である自分が選ばれたのかが分からない麗弥はブラッドことヴァールゼルブに理由を尋ねる。
 「バイエンフェルト家には時折、非常に霊力の高い者が生まれる。私達にとってそういう人間・・・麗弥は糧としてだけではなく、母体としても非常に魅力的なのですよ」
 人間の霊力と妖魔の魔力は呼び方が異なるだけであって、元を正せばルーツは同じなのだ。
 「・・・ブラッドさんことヴァールゼルブさんが、伯父として西野家に来た理由は分かったわ。だからといって、私は 『はい、そうですか』という風に、貴方と高祖父が交わした契約の代金になるつもりなどないから」
 麗弥はまだ十六歳の女子高生だ。
 幼馴染みの恭一とデートして一歩進んだ関係になりたい。
 大学に進学して、どこかの企業に就職して管理職を目指しつつ、将来有望な男を捕まえたいという野望が彼女にはあるのだ。
 「私以上のいい男など存在しないという事を、麗弥には身をもって知って貰うのもまた一興──・・・」










 伯父として西野家に居候する事になったヴァールゼルブに寝込みを襲われて寝不足になる日々を送ったり
 そんな彼が教師として学園に赴任してきた事で校内でも襲われそうになったり
 妻になるグスタフの玄孫の顔見たさに人間界まで赴いたり
 幼い頃に顔を合わせたヴァールゼルブに血を吸われたという事実が、低級霊だけではなく凶悪な霊から身を護ってくれる結果になっていたり
 何のかんのありつつ、イケオジ吸血鬼と両想いになってしまったり
 エキドナやラミアといったモンスターに誘惑されるヴァールゼルブを見て嫉妬したり
 嫉妬で自分を襲う女性妖魔に襲われる度に、ヴァールゼルブに何度も命を助けられたり
 インキュバスの体液を含んだ媚薬で心を操られていたとはいえ、ヴァールゼルブを振った時は怒りで我を忘れた彼に強姦されそうになったり
 霊感の強さを見込まれた麗弥が、自分達こそが正義であり人間の敵である妖魔全ては滅ぼすべきだと宣う思い込みの激しい女に【白百合の聖女】の一員になるようにスカウトされたり




 平穏だったはずの日常が波乱に満ちたものになるのは、少し先の話である。





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