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1話
しおりを挟む「ねぇ、お聞きいたしました?」
「何をです?」
「桐壺の更衣がご懐妊したらしいですわ」
(桐壺の更衣?どこかで聞いた事があるような気がするのだけど・・・)
果たしてそれはどこだっただろうか?
皇女に仕えるに相応しい装束に身を包んでいる女房達の会話が耳に入った女四の宮は首を傾げる。
(あれは・・・そう!少女漫画の源氏物語!主人公は全てにおいてパーフェクトな、でも現代人から見れば女を弄ぶクズな光源氏で・・・ってあれ?源氏物語って何?少女漫画って何?光源氏って誰?)
何でそんな言葉が頭に浮かんでしまったのだろうか?
こういう時は情報収集である。
「命婦、桐壺の更衣って誰なの?」
「宮様・・・」
幼子らしいあどけない顔で疑問を口にした女四の宮に命婦と呼ばれた女房は教える。
故按察使の大納言の娘が格別な式をせず入内した彼女は桐壺を賜った。
【桐壺の更衣】と呼ばれるようになった彼女は桐壺帝の寵愛を一身に受けており、弘徽殿の女御をはじめとする後宮の女人達から嫌がらせを受けている。
公卿が唐土を滅ぼした楊貴妃に喩えられている桐壺の更衣が帝の御子を懐妊したので、後宮では密かに子供が産まれないように加持祈禱をしているのだ。
(あ、頭が痛い・・・)
命婦の話を聞き終えたその時、女四の宮の頭に女四の宮ではなく別の女として生きていた頃の記憶が大きな波となって一気に押し寄せてきた。
(そ、そうよ!私はクリムゾン一花という女子プロレスラーだった・・・)
死因は覚えていないが、クリムゾン一花というリングネームで現役時代は悪役レスラーと戦っていた事を女四の宮は思い出す。
(それはいいとして・・・命婦の話によると、帝が桐壺の更衣という女に夢中になっていて、後宮では彼女の子供が流れるように祈っているという訳ね。あれ?そういえば今の私って先帝の第四皇女だったような・・・・・・)
先帝の第四皇女は桐壺の更衣に瓜二つな美人さんで、光源氏が九歳の時に桐壺帝の元に入内したはず。
物語の彼女は【藤壺の女御】や【藤壺の宮】と呼ばれ、後に桐壺帝の中宮となる──・・・。
(けど、藤壺の女御って光源氏とファイト一発をしてんだよね!?)
その時に出来た息子が冷泉帝として即位した、はず!!
あかん!
藤壺の女御って光源氏が不幸な女製造機となる切っ掛けになった女やん!!
考えようによっては藤壺の女御という女性はマザコンを拗らせてしまった光源氏の被害者であるが、六条の御息所や紫の上といった女性達から見れば加害者だと言えなくもない。
だって、六条の御息所に葵の上、紫の上が不幸になったのは間違いなく光源氏が藤壺の女御の面影を求めて女を漁っていたからね~。
(ひ、光源氏が産まれる前に記憶を取り戻してよかったーーーっ!!!)
クリムゾン一花こと藤沢 愛美だった時の記憶を取り戻さなかったら、どうなっていた事か。
心の中で安堵したと同時に、これからの自分が取るべき行動を考える。
・桐壺帝への入内が避けられないとしたら、光源氏が成人してからにする
・六条の御息所に光源氏を相手にしないようにと訴える
・物語では紫の上と呼ばれる事になる少女を自分の養女として引き取って将来有望な公達の元に嫁がせる
・光源氏の魔の手から右大臣家の六の君こと朧月夜を守りつつ、後に朱雀帝と呼ばれる東宮の女御として入内させる
・六条の御息所の娘である斎宮を朱雀院の女御として入内させる
・朱雀帝と異母妹の娘である女三の宮を不思議ちゃんではなく立派な淑女にする
(やるべき事はまだあると思うけど、とりあえずこんなところかな?しかし、それよりも前に身体を鍛えて護身術を身に付けるべきね)
二十一世紀であれば痴漢撃退のスプレーやスタンガンがあるけど、平安時代にそのような道具などあるはずがない。
そんな時代だからこそ身体を鍛えて体力をつける。基礎体力が付いたら柔道や空手といった武芸を習得する。そして、襲ってくる男から身を護るしかないのだ。
(しかし、平安時代の貴族女性って家に閉じ籠っているのが基本なのよね~)
そんな時代に皇女である自分が身体を鍛えて護身術を覚えるなど、母后と命婦といった女房、そして兄の兵部卿の宮は卒倒しかねないだろう。
(・・・・・・そうだ!)
ある事を思い出した女四の宮は訴えるべく母后の元へと向かう。
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