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1話
しおりを挟む『マリーアントニア!世界を救う為に我等が異世界より召喚した聖女のサヤカを殺めようとは・・・っ!父上!私はマリーアントニアのような嫉妬深い女を妃に迎える事など出来ません!!』
今すぐ彼女との婚約を破棄、このまま国内に留めていたら再びサヤカに危害を加えるかも知れないから国外追放して欲しいと訴える王太子のミッシェルと息子の側近達の訴えを聞き入れた国王は、重臣及び騎士達が固唾を呑んで見守る中、一人息子とマリーアントニアとの婚約を破棄しただけではなく国外へと追放する王命を出してしまう。
自分はただ聖女であるサヤカに
『胸元と足を露にしたドレスを纏うのは淑女としてはしたないから止めた方がいい』
『婚約者、伴侶が居る殿方に言い寄るのは止した方がいい』
と注意しただけなのだとマリーアントニアは国王達に訴えるのだが、自分達よりも高貴で近寄り難い雰囲気を纏い諫言を口にする頭のいい美人より、小動物のように愛くるしい雰囲気を纏い甘やかして心身共に気持ち良くてくれる異世界の美少女の方がいいのか、兵士達は国王の命令に従いマリーアントニアの腕を乱暴に掴むと王宮から放り出してしまう。
ミッシェルの腕に抱かれながらマリーアントニアが追放されていく様を眺めている清華の顔には醜悪で邪悪な笑みを湛えていた───。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お袋・・・聞いてもいいかな?」
「何?」
序章で聖女を鍛えた事で次の章へ進む為のレベルに達した後、話は第一章に突入し、世界救済の旅の始まりとでもいうべきムービーを父の紫苑(40)と一緒に見ていた銀河(17)は母の美沙都(40)に尋ねる。
「このゲーム・・・【異世界の聖なる乙女の清らかな愛が世界を救う】は親父とお袋が学生の頃に流行った、恋愛とロールプレイング要素があるゲームなんだよな?」
「そうよ」
「このゲームのストーリーってどんなの?」
「確か・・・」
自分もこのゲームをプレイするのは二十数年振りだから忘れているところもあると前置きした上で美沙都は銀河の問いに答える。
近い将来、魔王が出現して世界を未曽有の危機に陥れるという神託が下ったので、ローレライ王国は異世界というか日本から一人の少女こと清華(この名前はデフォルト。自分の好きな名前に変える事も可能)を召喚した。
話を聞いた清華はローレライ王国を救う為、聖女としての訓練を受けるのだが、そんな彼女にローレライ王国の常識や魔法などに対する知識を教えるのが攻略対象となる四人の男性である。
「ヒロインの教師にして攻略対象というのが王太子のミッシェル、宰相子息のイオ、騎士団長子息のゼルク、教皇子息のラジュエルって奴か・・・」
「そうよ」
「お袋がプレイしているゲームだけではなく他の乙女ゲームにも言える事だけどさ・・・ヒロインってタフでビッチ、攻略対象者共のメンタルって柔いし脳内お花畑じゃね?」
っていうか教皇が子供を作っていいのか!?
あ~っ・・・
史実でも子供を作った教皇が居たからその辺りは深く考えなくていい、のか?
「ヒロインって精神的にタフでビッチだな~。攻略対象者達のメンタルって豆腐よりも柔らかいな~。って私も思っているけど、そこはゲームと割り切って考えた方がいいぞ」
ゲームだから深く考えたら負けだと、紫苑が妻と息子の会話に割り入った。
「それで美沙都。・・・何でマリーアントニアが魔王になってしまうんだ?」
「確かね・・・王太子が雇った刺客というか暗殺者というかならず者というか・・・とにかくそういった輩をマリーアントニアに差し向けて、彼女は王太子の手の者達によって暴行をされた挙句、命を絶たれてしまうの」
元婚約者とヒロインに対する憎悪によってマリーアントニアは魔王ブラッディ・マリーとして蘇ってしまう。
世界を未曽有の危機に陥れる存在となったマリーアントニアこと魔王ブラッディ・マリーは異世界の聖女こと清華のパーティーによって滅ぼされてしまうのだと、大まかであるが美沙都が紫苑に教える。
「マリーアントニアこと魔王ブラッディ・マリーを倒す為に世界を旅しつつモンスターを倒してレベルアップさせたり、倒したモンスターがドロップしたアイテムでステータスを強化させたり、手に入れたお金で武器と防具をはじめとする装備を購入してヒロイン達を強化させていくの」
最後は攻略対象者と結ばれてめでたしめでたしで終わるって訳
「「・・・・・・・・・・・・」」
悪役令嬢がヒロインに意地悪したり、虐めたりするのはテンプレだが、常識的な考えを持っている悪役令嬢が異世界の聖女に心奪われて婚約破棄された挙句、魔王となってしまい聖女達に討伐されるとは───。
((乙女ゲームって理不尽で残酷だ!!!何でマリーアントニアが悪役令嬢なんだ!!?))
美沙都から大まかなストーリーを聞いた紫苑と銀河は心の底からそう思った。
「お袋は何でまともな思考をしている悪役令嬢が魔王として討伐されるゲームを買ったんだ?」
「スチルが美麗だった事と攻略対象者達の声優のファンだったから。後、レベルアップさせたらジョブチェンジ出来てその時の衣装が綺麗だから。それだけよ」
紫苑と銀河の方が攻略対象者達なんか足元にも及ばないレベルでイケメンのイケボだけどね~♡と呟きながら美沙都がゲームの続きをプレイしようとしたその時、突然TVの画面から眩い光が溢れリビングを照らす。
そして───。
「失礼だが・・・ここはどこなのか教えてくれぬだろうか?」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
ゲームでは悪役令嬢として位置づけられているマリーアントニアのコスプレをしている少女の出現に呆気に取られている朝霧一家であった。
※紫苑の実家は鬼伝説がある蛍雪村の旧家の当主。朝霧家の先祖は鬼で紫苑もまた鬼の子孫とも言われており、某名探偵の孫が主人公の漫画に出てくる、とある作家クラス以上の資産を持っています。
ちなみに朝霧家の先祖が鬼で紫苑達が鬼の子孫というのは事実です。
美沙都は紫苑と同郷の人間で、先祖を辿って行けば朝霧家の開祖とでもいうべき人物を産んだ姫へと連なります。
実家が貿易商をしていて資産家だというのもありますが、地元では名士と言われている家の生まれです。
紫苑は原作がアニメ化と映画化している有名作家、美沙都は地元の喫茶店で働いています。
紫苑は朝霧家の初代とでもいうべき桔梗の転生体、美沙都は桔梗の奥さんだった美沙姫の転生体。
後に二人は地元の桔梗神社に五穀豊穣と夫婦円満の神として祀られるという設定があるのですが、そこら辺に触れると長くくだくだになるのでカットしています。
紫苑と美沙都は前世の記憶はないけど心の底からというか、魂の奥底から互いを求めているって感じです。
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