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③月夜の告白-1-
しおりを挟む雄大で幻想的な自然
緑豊かな大地
長閑な田園風景
自然の造形と一つになっている建築物
カルディナーレに案内されるまま、エカルラートは心の傷を癒すという名目で王都・セラフィームとは異なる景色を楽しんでいた。
そんな二人を、女の子達が遠目に眺めながら色めき立っている。
タイプが異なる長身の美形が二人で町を歩いているのだ。
女の子達が騒ぐのも、また視線を集めるもの当然だった。
二人に声を掛けようとする勇者はいないけど──・・・。
「このカフェは夜になるとカクテルを出してくれるのだが、今は昼間だから軽食とスイーツがメインだ」
二人の目の前にあるのはレトロな雰囲気を感じさせるカフェ。
「マスターが作る料理はどれも美味いが、お勧めの軽食はホットサンド、スイーツはカスタードをふんだんに使っているシフォンケーキだな」
「では、今日の私のランチはホットサンドにするとしようか」
カルディナーレの話によると、カフェ・レースフラワーの店主は、若い頃は王都でも十指に入る有名なレストランで料理長をしていたのだが、寄る年波には勝てないのか、退職した彼は故郷であるリヒトシュタインへと戻って来た。
当初はのんびりと余生を過ごすつもりだったのだが、王都よりも安く売っている新鮮な食材を目にしたからなのか、料理人としての血が騒いでしまった店主は小さなカフェを経営する事にした。
それが、カフェ・レースフラワーだ。
二人が店に足を踏み入れると、若い女の子達だけではなく親子連れに老夫婦、甘いものが苦手というイメージを抱いてしまうゴツイ男性客達が料理とスイーツに舌鼓を打っていた。
「いらっしゃい、ま、せ・・・」
絵画に描かれている天使のように繊細な美貌を持つ青年と、軍神のような美丈夫が客として来たものだから、二人を目の当たりにして顔を赤くしてしまった給仕は手に持っていたメニューの冊子を落としてしまう。
「落ちましたよ」
「お、お客様のお手を煩わせて、も、申し訳、ございません!」
頭を下げて謝罪した給仕は二人を席へと案内する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あの分だとカクテルも期待出来そうだな」
カルディナーレお勧めのホットサンドにシフォンケーキだけではなく、アイスクリームを載せたフレンチトーストを食したエカルラートが楽しそうに呟く。
「カクテルは、リヒトシュタインを出て行く前日の夜に飲みに行った方がいいだろうな」
(えっ!?)
「エカルラート!それはどういう意味だ?!」
エカルラートの独り言が耳に入ったカルディナーレが問い詰める。
「どういう意味も何も・・・カルディナーレの好意に甘えてリヒトシュタイン家に迷惑をかける訳にはいかないからな」
「俺だけではなく父上と母上もそんな風に思っていない!」
「リヒトシュタイン家の者はそうかも知れないけど、カルディナーレの妻となる女性は親友というだけでお前に甘えている私の存在を快く思わないはずだ」
働きもせず居候している婚約者の親友など、妻にしてみれば迷惑以外の何者でもないだろう。
その事を指摘するとカルディナーレは、ある事情により自分には婚約者や許婚など存在しないと打ち明ける。
「嘘、だろ?」
「いや、本当だ」
(エカルラート。満月期の俺の姿を見たら、お前はどう思うのだろうな・・・?)
身体を震わせて拳を強く握り締めているカルディナーレが、エカルラートの一言に対してそう答える。
「そうか・・・」
他人である自分が詮索する権利などないが、カルディナーレに婚約者が居なかったという事実はエカルラートにとって嬉しい誤算だったのか、笑みが浮かんでいた。
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