10 / 10
王妃になった男爵令嬢-10-
しおりを挟む数十年後
新しく国王におなりあそばしたのは由緒正しい血筋の側妃様・・・いえ、王妃様が産み参らせた第一王子様の血を引く第一王子様でございます、元王太子妃様
新王の即位を民達は諸手を挙げて祝福しております、元王太子妃様
それに比べて元王太子妃様が産んだ王女様は理性のない獣そのものですわね
王女様の母親が平民として育った元男爵令嬢ですもの
王女様が獣と化すのは当然の帰結でしかなかったのですよ
「何で・・・?あたしは王太子妃になったのよ?それなのに・・・」
即位したのはアーデルベルトと側妃との間に産まれた第一王子、そしてその次に王位に就いたのはアーデルベルトと側妃との間に産まれた第一王子の息子だったのだ。
その事実を、手入れなど何一つしてきていないのであろう。
蜘蛛の巣が張り今にも幽霊が出そうな雰囲気を醸し出している離宮で涙に暮れる日々を送るスピカの、最低限の世話をするだけの侍女から聞かされた元王太子妃は金切り声を上げたのだが、そのショックで発作を起こして倒れてしまう。
(あたしはただ幸せになりたかった・・・)
王太子妃に、行く行くは王妃になって綺麗なドレスと宝石で飾って贅沢三昧。
自国のみならず他国の民からは自分の美貌を讃えられてチヤホヤされる。
そんな日々を夢見てハンターから貰った薬を飲んだのに・・・
待っていた未来は明るいものではなく、アーデルベルトからは見捨てられ、王太子妃失格の烙印を押され離宮で孤独な日々を送るだけだった。
(早く楽になりたい・・・。そして、心清らかな死者だけが住むと言われている楽園・・・エリシオンに行きたい・・・)
「残念ですが心清らかな死者だけが住むと言われているエリシオンなどありませんよ」
天国や極楽や地獄という世界は人間の妄想の産物に過ぎないのだと、死んだ人間は無に還るだけだと、夫だった男の見舞いもなく粗末なベッドで寝込んでいるスピカの心を読んだかのように男が話しかける。
「あんたは・・・ハンターさん!」
数十年前と変わらぬ美しさを保ったままのハンターを前にしたスピカは勢いよく起き上がると、嘘つき!スキルを入れ替える薬を飲んだのに幸せになれなかった!責任を取れ!慰謝料を払え!と責め立てた。
「それは貴女が努力しなかったからですよ、スピカさん」
人の一生は体験と経験の積み重ねだ。
報われるか報われないかはともかく、努力していればその人の技能として身に付き、努力を怠れば技能は錆びて忘却の彼方へと追いやられていく。
「貴女とスキルを入れ替えたヴィンフリーデさんは寝る間も惜しんでアーデルベルトさんを支える為に、アーデルベルトさんに恥をかかせないように己を磨いてきました」
それに対してスピカは自分の薬を飲んでから何もしてこなかった。だからヴィンフリーデが身に付けて来たスキルは錆びついてしまったのだと、ハンターがスピカに話す。
「スピカさん。貴女がこのような場所に追いやられたのは人間の世界では何という言葉で言い表すのでしたか?・・・ああ、自業自得というものでしかないのです」
「そ、そんな!そういう大事な事は最初に言っておきなさいよ!!・・・っ!」
「私はただ切っ掛けを与えただけ。それからどのような人生を歩むかは貴女次第だった・・・って倒れてしまいましたか」
では薬の対価を頂きますよ
ただですら老いて身体が弱り発作を起こして寝込んでいたのに、そこに衝撃的な事実を告げられた事で命の灯が燃え尽きてしまったスピカだったものからハンターが魂を取り出す。
ふむ・・・
「人間の世界で言うところの美しい花も雑草も私から見れば単なる植物という括りでしかないのですが・・・」
掌にあるのは腐臭を放つ毒々しい色をした花───スピカの魂だった。
流石にこの花は己の館に相応しくないと、ハンターはスピカの魂を投げ捨てると離宮から姿を消した。
次の日の朝
スピカの世話をする侍女が離宮で目にしたのは元王太子妃の遺体と、哀悼の意を示すのだろうか。
目にも毒な色をした一輪の花が元王太子妃だった女に添えられているだけだった───。
※王国には側妃という概念がないので正式な奥さん以外の女性を指す時は公妾という表記を使えばいいと思うのですが、正妃の代わりに仕事をする事と子供に継承権を持たせるという意味でこの話では側妃という言葉を使っています。
0
お気に入りに追加
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる