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王妃になった男爵令嬢-7-
しおりを挟む夜空に浮かぶ月はハンターの屋敷を見つけた時のように淡い光を帯びた満月ではない。
それでも月が旅人を導くかのように鮮やかに輝いて闇夜を照らしている事に変わりはない。
「ヴィンフリーデ=フォルクス・・・あんたが時間をかけて身に付けた教養とか礼儀作法はあたしが有効に使ってあげる。だから・・・」
あたしの前から消え去って頂戴!!!
この世で最も嫌う女の顔を思い浮かべたスピカはハンターから貰った薬を一気に飲み干した。
「見た目は・・・変わりないわね」
ハンターから貰った薬を飲んだ後、鏡に映る自分の姿を見ているスピカがそう呟く。
「スキルを入れ替えるという事は、テーブルマナーや礼儀作法だけではなく語学とかも身に付いているという事でいいのよね・・・?」
ハンターの言葉を信じるならそうである。
だが今は月が支配する夜だ。
寮の食堂は開いていないから今の自分のテーブルマナーが完璧なのかどうか分からないし、学園の図書室が閉まっているので異国の本が読めるかどうかも分からない。
「そうだ!教科書に載っている問題なら解けるかも知れないわ」
今までの自分だったら何を書いているのかが分からなくて放り出していたのだが、今の自分だったら出来るような気がすると思ったスピカは鞄から歴史の問題集を取り出してページを開く。
「この問題の答えは二百年前に起こったグリードの反乱で、この反乱を切っ掛けに奴隷制度が廃止されたのよ」
今までのあたしだったら文字を見ているだけで眩暈を覚えていたはずなのに何で!?
歴史の問題を解いた後、教科書を開いたスピカは驚きの声を上げる。
「他の教科もそうなのかしら?」
鞄から他の教科の問題集を取り出したら答えを書き、その後に教科書を確認するという行動を繰り返す。
歴史だけではなく外国語に古典、算術といった必須教科の問題集が簡単に解けるという事実にスピカは驚くしかなかった。
「これが・・・ハンターさんの薬の効果って奴なの?!」
凄い!凄いわ!!
裏通りには怪しげな雰囲気を醸し出している薬屋や呪術師が店を構えており、国での販売が禁止されている薬やアイテムが売っていたりする。
但し、効果は確かでも副作用が酷かったり、全く効き目がないという当たり外れがあるのだが───。
一度裏通りの薬屋でそういう類の薬を買って飲んだのはいいが、痛い目を見たスピカはハンターから貰った薬にも懐疑的だった。
だが、間違いなくこれは本物だ。
明日からの自分は王太子妃に選ばれてもおかしくないレベルの教養とマナー等を身に付けた男爵令嬢だ。
周囲の人間から羨望の眼差しを向けられている自分の姿を思い描きながらスピカはベッドに身体を横たえるのだった。
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