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前編
しおりを挟む「神は告げられた。アールマティ嬢が授かりしスキル・・・それは農業と豊穣です」
神官長の言葉にアールマティの両親であるインドラとドゥルジは、我が子に裏切られたと言わんばかりに深く絶望していた。
マッスル王国では男女共に十四歳を迎えると、神殿に赴いて自分が先天的に持っているスキルを知る。
例えば【鍛冶】であれば農具や武器防具を作成する鍛冶職人に、【裁縫】であればファッションデザイナーやお針子という風に将来進む道を決めていくのだ。
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かる者が多く、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄である。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、香坂 深雪という日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
そんなストロング家の次女として転生したアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】───つまり戦いとは関係のないスキルであったものだから屋敷に戻るなり父インドラからストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに・・・」
「農業と豊穣という、ストロング家に相応しいスキル持ちでなかったとは・・・」
「お前のような出来損ないが居るだけで屋敷の空気が汚れてしまうわ!」
「今すぐ出て行きなさい!穀潰しが!!」
「武人として誉れ高い家に産まれながら、平民のようなスキルしか持たない女をお嬢様と呼んでいたという事実は、我等にとって恥でしかありません!!」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
食糧と食料って人間が生きて行く為に欠かせないものであると同時に、最も重要視しなければいけない事を為政者であれば基本中の基本として知っているはずなのに───。
『お父様!戦いにおいて最も重要なものは兵站です!』
『ふんっ!そのようなものがなくても一騎当千の我等の武で国を護って見せるわ!』
「・・・・・・・・・・・・」
個の武を重んじている脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていた(諦めていたとも言う)アールマティは前世からの夢であった【おひとり様】を叶えるべく、生まれ故郷を見限り他国へと亡命する事にしたのだった。
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