白鳥姫と闇の魔王

白雪の雫

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―第三幕―

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今から数百年前
当時のロットバルトは久方振りに水鏡を使って親しい友人とでもいうべき仲間と共に人間の世界を眺めていた。





自分達の手で居もしない神と悪魔を作り出したり
神話や叙事詩を創作したり
神殿や教会、宮殿に城塞という巨大建造物を築いたり
ほんの数千年前までは石と木の棒を組み合わせた原始的な武器を使っていたのに、時が経てば銅や鉄という金属を利用した剣や槍という武器を製造したり
奏でる楽器に合わせて詩を歌ったり
貴金属を使って己の身を飾るアクセサリーを作成したり
狩った動物を解体して炙り焼きにしたり、ワインで煮込んだり、パイで包んだり、香辛料を用いるという形で料理にしたり
チョコレートやケーキだけではなくアイスクリームという甘くて冷たい食べ物を創作したり





時代を経て移り変わり行く様、破壊と創造を繰り返す人間の世界というのは実に面白い。
ロットバルトと同様に人間の世界に興味を持った、今は人の姿を取っているが本性はフェンリルと呼ばれる巨大な狼である男はある日、棲み処から姿を消した。
それから幾つの季節が過ぎて行っただろうか。
「久し振りだな、ヴォルフ」
「ロットバルト」
現在、親友からヴォルフと呼ばれた男はジークフリートの母親が統治している王国で鍛冶屋を営んでおり、今では王国一の鍛冶職人だという噂を聞いたロットバルトは王子の生誕祭が催される数日前───正確に言えばオデットが射殺されそうになったその日のうちに仲間の店を訪れた。
「実は、お前の腕を見込んで頼みがある」
「お前が俺に頼むとは珍しいな。報酬とは別に美味い酒と料理を出すと評判のバルで奢ってくれるなら引き受けてやる」
「それくらいならお安い御用だ」
ロットバルトはヴォルフに店に来た目的を話す。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「つまり、俺にオデットという子に瓜二つの人形を作って欲しいと?」
ロットバルトがヴォルフに依頼したのは、顔立ちから身体つきに至るまでオデットにそっくりな等身大の人形を作るというものだった。
「・・・・・・成る程。そいつは面白そうだな」
話を聞き終えたヴォルフはその時に起こるハプニングを想像してしまったのか、実に楽しそうな顔つきになった。
「だろ?」
(こいつに見初められたオデットって、確か北の大陸にある王国のお姫様だったっけ?)
ロットバルトがオデットという人間の女に夢中になっている事だけではなく、求婚プロポーズを断った事で彼女を白鳥に変えた事を仲間から聞いていたヴォルフは、彼の姫君にはどのような未来が待っているのだろうかと予想してみる。
明日の舞踏会で呪いが解けなかったら、陽が昇れば白鳥と化し、夜になれば人間に戻るという白鳥姫のままだ。
仮に、ジークフリートが永遠の愛を誓った事で呪いが解けたとしよう。
オデットが故郷に戻って来たとしても、表面上は行方不明になった娘との再会を表面上は喜ぶのかも知れないが心の内ではどう思うだろうか?
ロットバルトによって白鳥に変えられていただけではなく悪魔に魅入られていたという事実があるオデットを、ジークフリートの母親は息子の嫁として受け入れるだろうか?
国民にとって必要なのは自分達が安心して日々の生活を営める事が出来る統治者であり、御輿として担ぐのは由緒正しい王家に連なる者である。
オデットは国王の一人娘。王家直系の姫なので血筋的に見てもジークフリートの妃として迎えても問題がない。
だが、同時に『魔王に魅入られた姫』でもある。
その事実がある限り、彼女は王女としてだけではなく、次期王妃という王国の象徴としても相応しくないと、王妃をはじめとする人間達がそう見るのではないか?
(人間というのは、立場や血筋とかを気にする生き物だからな~)
ロットバルトに見初められた地点で、オデットには人間の世界で生きていくという選択肢はなかったのだ。
「十日後の舞踏会が実に楽しみだ・・・」
その時こそオデットは俺の手に、オデットにとって唯一のよすがであるジークフリートは二度と這い上がれない絶望の淵へと落ちる
(あと、こいつに悪い意味で目を付けられたジークフリートっていう王子も・・・・・・)
悪戯を思いついた子供のように無邪気に笑う親友を前にしながら、とっておきのワインを口にしているヴォルフは心の底からそう思うのだった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





数日後
「どうだ?」
( •̀∀•́ ) ✧ドヤ
ロットバルトの前に、一人の清楚で可憐な美しい女性が一糸纏わぬ姿で立っていた。
ヴォルフが作ったオデットである。
髪・肌・顔立ち・体格だけではなく爪の形に至るまで、ヴォルフが作った人形はオデットそのものといっても過言ではなかった。
「後はお前がこの人形に命を吹き込めば完成だ」
「オデットの目はここまで細くないし、鼻はそんなに低くない!それに胸だって小さくない!」
やり直し!!
「・・・・・・・・・・・・」
完成したオデット人形を前にロットバルトが、自分が映っている写真を見てしまった女の子の『やだ~っ!こんなのあたしじゃない!!』的なセリフを口にする『写真写りが悪い現象』を発動させてしまったので、少し・・・どころかかなり修正した事はいうまでもない。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










華やかで煌びやかな王宮ではジークフリート王子の生誕祭にして妃選びの舞踏会が催されており、大広間には着飾った貴族に令嬢、そして異国の姫君達が参列していた。
お妃候補である令嬢と姫君達は玉座にいるジークフリートの気を惹こうと、それぞれが自分の魅力を最大限に振りまいている。
「ジークフリート、気に入った姫はいますか?」
婚約者候補である令嬢や姫達とダンスを終えた後、玉座に戻ったジークフリートは母である王妃の問いに、永遠の愛を誓う相手はオデットであると決めているので首を横に振って拒絶の意を示す。
今日という日の為に美人と評判の令嬢達を集めたというのに、彼女達に一向に興味を示さない一人息子の態度に王妃は内心頭を抱えるしかなかった。
そんな時、新たな来客を告げるファンファーレが大広間に鳴り響く。
ジークフリートの生誕祭にやって来たのは、異国の貴族であるというフォン・ロットバルト卿。
今日の宴に参加している貴族や異国の王族達は『ロットバルト』という名を耳にした事がないのだが、彼は王家による招待状を手にしているし、顔の右半分を仮面で覆っているとはいえジークフリートとはタイプの異なる精悍で整った顔立ちをしている事が伺えるだけではなく、見る者の目を惹く男の色香。(というより、本日の主役であるジークフリートよりもイケメンで、しかも騎士のように鍛え抜かれている肉体をしている事が分かるものだから、王子の婚約者候補として参加している一部の令嬢や貴族の夫人達が彼を見て顔を赤くしていたりする)そして、何より周囲の者を───それこそ、この場に居合わせている王族でさえも思わず平伏せずにはいられない威風堂々たる姿が参加者達に彼が異国の貴族であると認識させた。
「本日は我等父娘をジークフリート王子の生誕祭に参加させて頂き至極光栄に存じます、王妃陛下」
(!?)
王妃を前に優雅に頭を下げるロットバルトの隣でカーテシーをした娘の姿が映ったジークフリートは驚きを隠せないでいた。
ロットバルトの隣にいるのが漆黒のドレスに身を包んだプラチナブロンド色の髪に青い瞳をしている娘───彼女こそがジークフリートの想い人であるオデットだったからだ。
「オデット姫」
「オディール。私の名前はオデットではなくオディールですわ、ジークフリート王子」
「オディール?いや、あの日の貴女は確かオデットと言っていたはず・・・」
「いいえ、オディールですわ。オデットとオディールって名前の響きが似ていますもの。勘違いしても仕方ありませんわ」
自分の名前を間違えようものなら女性は怒るものだが、オディールはそれを咎める事なく優しい笑みを浮かべながらも蠱惑的な瞳でジークフリートを見つめる。
「オディール姫。どうか私と踊って下さいませんか?」
今は空に月が君臨する夜。
昼間は白鳥であるオデットが人間の姿になっていても不思議ではないと思ったジークフリートは、壇上から降りると彼女にダンスを申し込んだ。
「喜んで、ジークフリート王子」
楽師達が奏でる舞曲に合わせて二人は踊る。
今宵の宴の参列者達が見守る中。
(貴方が永遠の愛を誓うのは、俺が偽りの命を与えたオディールという名の人形ですよ。ジークフリート王子・・・)
そして───
異国の貴族に扮した魔王が見守る中。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





話はジークフリートの生誕祭が始まる数時間前に遡る。
(今日はジークフリート王子のお妃になる姫が選ばれる大切な日。ロットバルトを止める為にも何とか宮殿に行きたいのだけど・・・・・・)
「きゃあっ!」
手・肩・・・身体の一部が扉の取っ手に触れる度に電撃が走るものだから、オデットは悲鳴を上げる。
「・・・どうやらロットバルトは私をここから出すつもりはないようね」
扉を前にオデットは溜め息を漏らす。
廃墟と化した聖堂で月の光を浴びない限り人間の姿に戻れないオデットであるが、ここはロットバルトの棲み処の一つである館。
オデットは白鳥になる呪いから解放されていないが、ロットバルトが結界を張っているからなのか、この場所では太陽が輝く昼であっても人間の姿でいる事が出来るのだ。
「正面突破は無理。ならば、窓から・・・」
アーチ型の窓に目を向ければ鉄格子が施されているので、それを力ずくで外さない限り無理であった。
何時だったか、誰かが・・・おそらくロットバルトの同胞とでもいうべき存在であろう男が、この館をこう称した事がある。

白鳥姫を閉じ込める鳥籠

(正しくその通りだわ)
そして、その言葉をロットバルトは否定しなかった。
(神に魅入られた人間は若くして命を落とすと言われているけど、『悪魔』とも恐れられていると同時に『神』とも敬われているロットバルトに囚われている私はどうなるのかしら──・・・?)
世間一般で言われているように短命なのであろうか?
それとも───
「そんな事を考えている場合じゃないわ!」
今の自分がやるべき事は一つ。
この館から出る手段をオデットは必死になって考え、そして実行に移すのだった。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





全てが茜色に染まる中、一羽の傷だらけの白鳥が廃墟と化した聖堂に向かって飛んでいた。
何とか館を出た事で人間から白鳥へと変化したオデットである。
傷を負っているので普段のように速く飛べないが、月が顔を出して数十分ほど経ってから聖堂に着く事が出来た白鳥は月光を浴びる。
(ジークフリート王子!どうか・・・)
本来の姿に戻ったオデットは胸に一抹の不安を抱えながら宮殿に向かって駆けて行く。






「駄目だ!駄目だ!」
「招待状のない者を王宮に入れる訳にはいかん!」
「確かに私は衛士である貴方達の仰る通り、招待状を持っていません!ですが、ジークフリート王子に一言・・・オデットが来たと伝えて下さったら分かってくれるはずです!ですから──・・・」
自分でも無茶を言っている事は十分に理解しているし、彼等はただ己の職務を全うしているだけなので責めるのもお門違いだという事も理解している。
森の中を駆け抜けジークフリートが住む宮殿に到着したオデットは、門の前で衛士と押し問答を繰り広げていた。
「お前等、何をしている?!」
そんなオデット達の元に一人の男がやって来た。
王子の従者であるベンノだ。
「「ベンノ様!」」
一般衛士達にとって王子の従者は雲の上の存在である。二人はベンノに向かって敬礼をする。
「ベンノさん!」
「姫さん?!あんたは確か、若ぞ・・・ではなく王子と一緒に踊っているはず!何であんたがここにいるんだ?!じゃあ・・・大広間で踊っている姫さんは誰なんだ!?」
王侯貴族が見守る中、艶やかな黒いドレスを纏っているオデットとジークフリートが大広間で踊っている姿を目にしていたベンノは、自分の目の前にいるオデットが顔と手に傷を負っているだけではなく、一目見ただけで高級だと分かる白いドレスがボロボロになっていたものだから驚きを隠せないでいる。
王子の従者であるベンノが傷だらけの少女を『姫さん』と呼んだ事から、どうやら二人は顔も知りであるらしいと察した衛士達。
彼女は王宮からの招待状は持っていないが王子の正式の客人である事をベンノが告げると、二人はオデットを通す。





「王子が躍っている姫さんは、あの男が用意した偽物の姫さんだと!?」
「ええ。誰が私に化けているのか分からないけど・・・」
「じゃあ、王子が偽物の姫さんに誓ってしまったら──・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
人間に戻れるか否か
全てはジークフリートに掛かっている。
「・・・・・・姫さんを助けると誓った王子が偽物に惑わされている訳がないだろうが!」
「・・・・・・そうだといいのですけど」
綺麗な顔に不安の色を浮かべるオデットをベンノが慰める。
ベンノの言うようにジークフリートを信じたいと思う。だが、どうしてもオデットは不安を拭う事が出来ないでいるのだ。
こういう場面に陥ってしまったら人間は神に祈って縋るものだが、自分は何に祈ればいいのだろうか?
人間が作ったという神?
人間の心にある恐怖と想像によって生まれた悪魔?
太古の人間が『神』や『悪魔』として畏れ敬った彼等という存在?
(・・・・・・・・・・・・)
「姫さん?」
「ベンノさん。早くジークフリート王子がいる広間へ行きましょう!」
「そうだな」
今はロットバルトの目的を阻止する為に、ジークフリート達がいる宮殿の大広間に入る事が先決だ。
二人は宮殿へと走って行く。





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





オデットとベンノが、本日の主役であるジークフリートと王妃達がいる大広間へと向かっている頃
広間の中心では、ジークフリートとオデットに扮しているオディールが躍っている。
正に好一対だと、王妃だけではなく今夜の宴に出席している招待客達は心の底からそう思いながら楽しそうに踊っている華やかで美しい王子と異国の乙女を眺めていた。
楽しい時間はあっという間に終わるもの。
それが想い人と共に過ごしていたのなら尚更である。
「ぁ・・・」
舞曲が終わった事で養父であるロットバルトの元へと戻っていくオディールの後ろ姿に、ジークフリートが名残惜しそうに手を伸ばす。
「我が娘がジークフリート王子に対して何か無礼を働いてしまいましたか?」
「いや、その・・・」
そこら辺の貴族より貫録があるロットバルトの迫力に圧されそうになったが、ここで負けては男が廃るというもの。
オディールの魅力にすっかり嵌ってしまっているジークフリートは、ロットバルトに彼女を自分の妃として迎えたいと告げる。
「ならば、皆の前で宣言して下さい。オディールを妃とし、永遠に愛する事を誓う・・・と」
そうする事でオディールを悪魔から救えるのであれば安いものである。
「私、ジークフリートはオディール姫を私の妃に迎え、そして、彼女だけを永遠に愛する事を神の御名の元に誓います!」
オディールの肩を抱いて王妃がいる玉座へと向かったジークフリートは、彼女こそが自分の愛する人であると告げてから参列者達に向けて高らかに宣言した。
オディールは自分が選んだジークフリートの妃候補ではなかったが、やっと身を固めてくれる決意をしてくれたので王妃は安堵の息を漏らし、王子の生誕祭(という名の妃選び)に招待された貴族達は二人の未来に幸あれと言わんばかりに祝福を送る。
「王子、あんた・・・」
「ジークフリート王子・・・」
お祝いムードに包まれている大広間に絶望に満ちた二人の声が割り込む。
大広間にやって来たのは王子の従者であるベンノとオディールに瓜二つの傷だらけの少女───オデットだった。
「オディール?いや、オデット?が・・・二人?」
髪の色と瞳の色だけではなく、顔立ちに身体つき、そして仕種に至るまで全てがそっくりだった。敢えて違いを述べるとしたら雰囲気であろうか。
オデットが清楚で優雅であるとしたら、オディールは清楚でありながらどことなく妖艶といった方がしっくりくる。
しかし、それも互いのドレスを交換すればオデットはオディール、オディールはオデットと、親ですら間違えてしまう程だ。
正に一卵性の双子───。
「王子・・・俺と一緒にいる娘の方が本物の姫さんで、王子の隣にいる娘は姫さんの偽物です」
「に、偽物!?」
ベンノの言葉にジークフリートは自分の隣にいる少女に目を向ける。
「こいつは傑作だ!」
一連の流れを見ていた、顔の右半分を仮面で覆っている男───フォン・ロットバルトと名乗る貴族が笑い出す。
「オデット、私はこう言ったはずだ。ジークフリートという王子は、オデットという薄幸な姫を助けて英雄になる事を夢見ているに過ぎないと・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
男の言葉に何となく思い当たる節があるオデットは何も言い返せないでいた。
「ロットバルト卿!無礼ではないか!私はただ純粋にオデットに惹かれている!そして、彼女を救いたいだけだ!」
「オデットに惹かれているのであれば、オデットとオディールの区別が付いたはず。それなのに、何故ジークフリート王子はオデットではなくオディールを選んだのか──?その理由を教えて頂きたいですね」
「そ、それは・・・」
ロットバルトという異国の貴族の問いにジークフリートは言葉に詰まる。
「私が代わりに答えて差し上げましょうか?ジークフリート王子、貴方はオディールに心を奪われた。・・・そうですよね?」
「ち、違う!私は決して・・・」
オディールに心を奪われたのではない!
声を大にしてそう言いたかったが、オデットにはないオディールの妖艶さに惹かれてしまったものだから、男の言葉を否定出来ないのもまた事実。
「ジークフリート王子。私が誰なのか、まだ分からないのですか?私と貴方は昨夜に顔を合わせているはずなのですがね」
ロットバルトが自分の顔の右半分を覆っている仮面を外す。
あっ!
「お、お前は・・・!!」
男の顔を目にしたジークフリートとベンノは声を上げて驚く。
仮面の下から現れたのは、オデットを白鳥に変えたという悪魔───ロットバルトだったからだ。
事情とロットバルトの正体を知らない若い娘さん達は「あら~。やっぱりいい男~♡」と言わんばかりに顔を真っ赤にしているわ、人妻達は「いい男ね~」「本当。うちのメタボ体型の亭主と取り換えて欲しいくらいだわ」という感じで色めき立っていたりするのだが、話の本筋には関係ないので置いておくとしよう。
「王子には約束通り、オデットを諦めて頂くとしましょうか」
「何故、私がオデットを?!」
「貴方・・・先程の自分が何を言ったのか、理解しているのですか?」
「!?」
(私は、何て言った・・・?)
ロットバルトの言葉にジークフリートはさっきの自分が取った言動を思い出す。
王妃だけではなく居並ぶ招待客達の前でオディールを妃とし、彼女だけを永遠に愛すると宣言してしまった───。
ロットバルトには注意するように忠告を受けていたにも係わらず自分の迂闊な一言により、オデットは人間に戻る事が出来なくなったのだと察したジークフリートの顔から血の気が引いていき己が犯した罪に押し潰されそうになっている。
「さよなら、ジークフリート王子。もう二度とお目にかかる事はないでしょう・・・」
自分の事情にジークフリートを巻き込んだだけではなく、彼の未来を壊してしまったという罪悪感
今のオデットの心を占めているのはそれだけだった。
瞳に哀しみの色を浮かべているオデットは、後悔の念に苛まれているジークフリートを罵る事なく走り去っていく。
さてと・・・
「目的を果たしたので私も宮殿ここから立ち去るとしましょう」
そう言ったロットバルトが、呆然としているジークフリートの前で人の姿から梟へと変化すると、何処へと飛び去ってしまった。
「オデット・・・貴女は私がロットバルトから救い出して見せる!」
ロットバルトが去った後、宮殿の庭で嘆いていたジークフリートであったが、悪魔の手から姫を助けるのは自分の役目だと言わんばかりに愛用の剣を手にすると、王妃が止めるのも聞かず二人の後を追うのであった。





補足
本文では書かれていませんが、ロットバルトが梟になったと同時にオディールを回収しています。












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