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前日譚・シジューコ編
0-2 旅の始まり(後編)
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セッカケラの回収後は、ギルドへと向かう。
「イゴス・ゼカルデ!」
バルイラの風を起こす呪文は、瞬く間にどこにでも移動できる。この呪文のおかげで、先ほどのモンスターの攻撃を避けたそうだ。
特に何か会話をする時間もなく、ギルドへ到着した。
「ここがギルドかぁ……」
自分の町にこんな大きな施設があったとは……。
話には聞いていたが、実際に見るとその存在感に圧倒される。入り口の前で見上げても、上の方が逆光でよく確認できない。
「なんだシジューコ、お前ギルドに行ったことすらないのか? 本当にド素人なんだな」
「うっ……あぁそうだよ。ないない」
倒したモンスターのセッカケラは親に渡していた。大した量ではないので、ある程度たまるまでは家に置いておく。約30日に1回の頻度で親が換金をしていた。
「ならこの先も機会はないな。人生最初の最後のギルドだ、記念に中に入るか?」
首を少しだけ傾げたバルイラは、憎たらしく笑う。
「…………」
悔しい。腹の奥底から怒りが煮えたぎってくる。しかしバルイラにはここまで言えるだけの実績がある。対する俺は口だけの男だ。
言い返すには……俺も何か行動をしなくては……。
今の俺はヒーラーに憧れているだけだし、ヒーラーの地位の低さに説得力のある反論もできない。
でもどうすれば良いのだろう。ヒーラーは結局仲間がいないと始まらない。
「バルイラ!」
その時、女性の声が聞こえた。
「あぁ、ダーリィさん」
「遅いから心配して来てやった」
全身に甲冑を身にまとった、背の高い女性だった。ダーリィと呼ばれたその人は、非常に整った顔立ちをしていて、ものすごく大人びている。
「いや、ちょっと旧友と会っただけです……」
あのバルイラの態度が別人のように変わっている。礼儀正しくしているが、体は妙にそわそわとしていた。
「バルイラ、誰だこの人」
ただの知り合いには見えない。もっと深い関係に思えた。
「俺が組んでいるパーティの仲間だ」
「どうも。君がバルイラのお友達か。私はタンクパーティの長、ダーリィだ。以後お見知りおきを」
ダーリィさんは俺に深く頭を下げた。後ろで縛っていた髪が右に垂れ、目元を覆う。動作1つ1つが丁寧で、思わず自身も改まる。
「よろしくお願いします。ところで、タンクパーティって何ですか?」
タンク自体は知っているが、タンクパーティとは何のことだろう。
「名前の通り、タンクだけを集めたパーティだ。モンスターの注意を誘うことに特化し、より効率的に戦うのを目的としている」
「まぁ、1人でできる依頼が多いから、そんなパーティで集まってないけどな」
ダーリィの説明の補足をしつつ、バルイラは得意げな顔を見せる。
そして戦いのことを思い出す。ヒーラーほどでないにせよ、需要の低くなっている役割のはずだが、バルイラからそんな印象は全く受けなかった。
相手の注意を強引に誘う呪文。あれを利用してモンスターを集め、広範囲の攻撃呪文で一掃する。普通に攻撃するよりよっぽど強く思えた。
「タンクだけでも他のパーティには引けを取らないぞ。私たちの活躍でタンクを見る目が変わったという人も大勢いる」
手を自らの胸の前に出し、ダーリィは自慢げに口角を上げた。
「へえぇ……!」
バルイラの戦いと、ダーリィの言葉。それらが俺の心を打つ。
俺も……、俺もヒーラーパーティを作りたい。ヒーラー縛りで討伐できることを知らしめてみたい。
***
ヒーラーだけのパーティを作りたい気持ちが芽生えたまま、数日がたった。その間、ずっと心に穴が開いた気分になっていた。
夜、両親と家で夕食を食べていた時のことである。
「ねぇシジューコ、あなた最近悩み事でもできたの?」
お母さんが俺の顔を優しく見つめた。
「ん? な、なんで?」
「そりゃあ分かっちゃうよ。親だし」
お父さんも食器を置き、お母さんと同じ顔をする。
「……実はさ、俺も今日バルイラと久々に会って」
バルイラがプレイヤーになっていたことを端的に話した。ヒーラーが見下されたことに関しては言えなかった。
「で、俺もバルイラみたいにヒーラーだけのパーティとか作りたいなぁって思って、でもどうすればいいか分かんなくて」
漠然と頭にあるけれど、実現できる気がしなかった。俺はバルイラほど強くない。比べることすらおこがましく感じる。
「なんというか……夢だけが大きくなっていく感じが、すごい重く感じるっていうか……」
「ふぅん。そっかそっか、だいぶ大きな野望だな」
お父さんはニッコリと笑った。
「その重荷を降ろすには、行動しないとダメなんじゃないかな?」
「うん。私もそう思う。シジューコの人生なのだから、シジューコがやりたいようにやるべきよ」
馬鹿馬鹿しい、と言われる覚悟をしていたのに、2人の反応は想定外だった。
「そ……それって、プレイヤーとして旅に出るってことだよな? 俺……その……」
「ええ、危険だわ。行ってほしくない。その上で、シジューコがやりたいようにしてほしいって言っているの」
「そっか……」
うれしくて手足の先がむずがゆくなった。だが、それを表に出すことは恥ずかしくてできなかった。
「珍しいな、不安がるなんて。バルイラと比べたらそりゃあ実力差があったかもしれないが、潜在能力ならシジューコも負けてないと思うぞ」
「……そ、そうかな?」
「周りにプレイヤーがいないから気付いていないかもしれないが、シジューコはかなり強い! きっとデカい野望を達成できるって俺は信じている!」
「そ、そうだよなぁ!」
なんで俺は今まで弱気になっていたのだろう。
バルイラと俺の差は、経験の差にすぎない。幼少期……あの時の俺たちは同等だったではないか。
今からでも着々と実績を重ねれば……ちゃんと追いつけるはず!
***
決心ができた俺は、夜のうち急いで準備を済ませた。
翌朝には家を出る準備ができた。出る直前にお母さんとお父さんと顔を合わせ、それぞれと抱きしめ合った。
「次会う時は、ひと回り大きくなってるから、楽しみにしててな!」
最後にそう言って、俺はプレイヤーとしての第一歩を進んだ。
「イゴス・ゼカルデ!」
バルイラの風を起こす呪文は、瞬く間にどこにでも移動できる。この呪文のおかげで、先ほどのモンスターの攻撃を避けたそうだ。
特に何か会話をする時間もなく、ギルドへ到着した。
「ここがギルドかぁ……」
自分の町にこんな大きな施設があったとは……。
話には聞いていたが、実際に見るとその存在感に圧倒される。入り口の前で見上げても、上の方が逆光でよく確認できない。
「なんだシジューコ、お前ギルドに行ったことすらないのか? 本当にド素人なんだな」
「うっ……あぁそうだよ。ないない」
倒したモンスターのセッカケラは親に渡していた。大した量ではないので、ある程度たまるまでは家に置いておく。約30日に1回の頻度で親が換金をしていた。
「ならこの先も機会はないな。人生最初の最後のギルドだ、記念に中に入るか?」
首を少しだけ傾げたバルイラは、憎たらしく笑う。
「…………」
悔しい。腹の奥底から怒りが煮えたぎってくる。しかしバルイラにはここまで言えるだけの実績がある。対する俺は口だけの男だ。
言い返すには……俺も何か行動をしなくては……。
今の俺はヒーラーに憧れているだけだし、ヒーラーの地位の低さに説得力のある反論もできない。
でもどうすれば良いのだろう。ヒーラーは結局仲間がいないと始まらない。
「バルイラ!」
その時、女性の声が聞こえた。
「あぁ、ダーリィさん」
「遅いから心配して来てやった」
全身に甲冑を身にまとった、背の高い女性だった。ダーリィと呼ばれたその人は、非常に整った顔立ちをしていて、ものすごく大人びている。
「いや、ちょっと旧友と会っただけです……」
あのバルイラの態度が別人のように変わっている。礼儀正しくしているが、体は妙にそわそわとしていた。
「バルイラ、誰だこの人」
ただの知り合いには見えない。もっと深い関係に思えた。
「俺が組んでいるパーティの仲間だ」
「どうも。君がバルイラのお友達か。私はタンクパーティの長、ダーリィだ。以後お見知りおきを」
ダーリィさんは俺に深く頭を下げた。後ろで縛っていた髪が右に垂れ、目元を覆う。動作1つ1つが丁寧で、思わず自身も改まる。
「よろしくお願いします。ところで、タンクパーティって何ですか?」
タンク自体は知っているが、タンクパーティとは何のことだろう。
「名前の通り、タンクだけを集めたパーティだ。モンスターの注意を誘うことに特化し、より効率的に戦うのを目的としている」
「まぁ、1人でできる依頼が多いから、そんなパーティで集まってないけどな」
ダーリィの説明の補足をしつつ、バルイラは得意げな顔を見せる。
そして戦いのことを思い出す。ヒーラーほどでないにせよ、需要の低くなっている役割のはずだが、バルイラからそんな印象は全く受けなかった。
相手の注意を強引に誘う呪文。あれを利用してモンスターを集め、広範囲の攻撃呪文で一掃する。普通に攻撃するよりよっぽど強く思えた。
「タンクだけでも他のパーティには引けを取らないぞ。私たちの活躍でタンクを見る目が変わったという人も大勢いる」
手を自らの胸の前に出し、ダーリィは自慢げに口角を上げた。
「へえぇ……!」
バルイラの戦いと、ダーリィの言葉。それらが俺の心を打つ。
俺も……、俺もヒーラーパーティを作りたい。ヒーラー縛りで討伐できることを知らしめてみたい。
***
ヒーラーだけのパーティを作りたい気持ちが芽生えたまま、数日がたった。その間、ずっと心に穴が開いた気分になっていた。
夜、両親と家で夕食を食べていた時のことである。
「ねぇシジューコ、あなた最近悩み事でもできたの?」
お母さんが俺の顔を優しく見つめた。
「ん? な、なんで?」
「そりゃあ分かっちゃうよ。親だし」
お父さんも食器を置き、お母さんと同じ顔をする。
「……実はさ、俺も今日バルイラと久々に会って」
バルイラがプレイヤーになっていたことを端的に話した。ヒーラーが見下されたことに関しては言えなかった。
「で、俺もバルイラみたいにヒーラーだけのパーティとか作りたいなぁって思って、でもどうすればいいか分かんなくて」
漠然と頭にあるけれど、実現できる気がしなかった。俺はバルイラほど強くない。比べることすらおこがましく感じる。
「なんというか……夢だけが大きくなっていく感じが、すごい重く感じるっていうか……」
「ふぅん。そっかそっか、だいぶ大きな野望だな」
お父さんはニッコリと笑った。
「その重荷を降ろすには、行動しないとダメなんじゃないかな?」
「うん。私もそう思う。シジューコの人生なのだから、シジューコがやりたいようにやるべきよ」
馬鹿馬鹿しい、と言われる覚悟をしていたのに、2人の反応は想定外だった。
「そ……それって、プレイヤーとして旅に出るってことだよな? 俺……その……」
「ええ、危険だわ。行ってほしくない。その上で、シジューコがやりたいようにしてほしいって言っているの」
「そっか……」
うれしくて手足の先がむずがゆくなった。だが、それを表に出すことは恥ずかしくてできなかった。
「珍しいな、不安がるなんて。バルイラと比べたらそりゃあ実力差があったかもしれないが、潜在能力ならシジューコも負けてないと思うぞ」
「……そ、そうかな?」
「周りにプレイヤーがいないから気付いていないかもしれないが、シジューコはかなり強い! きっとデカい野望を達成できるって俺は信じている!」
「そ、そうだよなぁ!」
なんで俺は今まで弱気になっていたのだろう。
バルイラと俺の差は、経験の差にすぎない。幼少期……あの時の俺たちは同等だったではないか。
今からでも着々と実績を重ねれば……ちゃんと追いつけるはず!
***
決心ができた俺は、夜のうち急いで準備を済ませた。
翌朝には家を出る準備ができた。出る直前にお母さんとお父さんと顔を合わせ、それぞれと抱きしめ合った。
「次会う時は、ひと回り大きくなってるから、楽しみにしててな!」
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