上 下
38 / 61

side・鳥海ヒビキ

しおりを挟む
「おせーなぁ」

スタジオ前、9時。
いつも5分前には必ずいるお坊ちゃんとヒカルンがいない。
まぁ、今回はお姫様とご一緒にらしいから遅くなるのかもしれねぇけど。

、、、隣のシュウゴが機嫌悪くなるから早く来てくれよマジで。

「何してんだよ、アイツら」

歯をくいしばりながらシュウゴがうなり始め、ブツクサと文句を言っていく。

「ごめーん」

そんな声が聞こえて顔を向けると、制服のままヒカルンとお坊ちゃんが走ってきた。
ヒカルンの手が後ろに回ってるって事はお姫様もいるってことか。

「おせーよ!」

「ごめんって!色々あったんだよ」

「ふーん、色々ってなんだよ」

俺が聞くと困ったように苦笑いしながらヒカルンは説明した。

「姫ちゃんの服を買ってたの」

「服?どーゆー事だ?」

お坊ちゃんの背に隠れて見えなくなってるお姫様に目を向けると、そこにいたのは何というか一言で言うと、『女子』だった。

スポーツスパッツの上に黒の短パン、いつものフード付きパーカー、後紺のスポT。
髪は1つにまとめてゆったりと肩に流してる。
大きめのリュックにはタオルとかが入ってるんだろうなと思った。

「姫ちゃん、学校ジャージで行こうとしたからショップによって買ってから来たの」

「学校ジャージ、、、」

スパッツがピッタリしているせいか、華奢な身体が目立って余計に女らしく見える。

「、、、うわぁ」

流石のシュウゴも絶句、というか呆然とするレベルの美女がそこにいた。

「その後、カメラを持った人達が群がってきましてね、ここまで言えばわかりますよね。ここに来るまで、いつも以上に時間がかかりまして」

もう既に疲れているお坊ちゃんですら言葉を濁した。うん、わかる。お姫様がフード被ってるのはそのせいなんだろ。

「何はともあれ、全員揃ったのですから練習を始めましょう」

「そうだね」




〆◼️〆◼️〆◼️〆




全部で防音ルームが20あるスタジオ【ミラージュ】は会員制だ。
1回5000円で予約して使う。
曜日契約も出来て、それは月5万5000。
俺らのチームは入学してからすぐに利用させてもらっている。

「やぁ、皆さん。先週ぶりで」

受付で顔を出したのは店長の澤村さん。
名札に『澤村』としか書いてないから、それ以外は何も知らない。

「店長も元気そうだな」

チームのリーダーとしてシュウゴが店長と話していく。

「えぇ、えぇ、元気です。本日は14ルームですので鍵はこれをお使いください」

「わかった」

「ところで、そちらのお方は?」

店長が指差したのはお姫様だった。

「新メンバー、会員証作ってもらえるか?」

「なるほど、もちろんですよ。もしかしてボーカルですか?」

「あぁ」

「そうですか、そうですか。では、こちらに記入を。入会金として5000円頂きます」

「あ、はい。わかりました」

受付に近づいてお姫様は紙に記入を始める。

「5000でしたっけ?」

「はい」

AIパットを取り出してレジにかざすとポロンとなんともまあ間抜けな音がした。
電子マネーってほんと便利だよな。
人類の進化、こえー。

「はい、これで大丈夫です。こちらが会員証になりますので無くさないように気をつけてくださいね」

「どうも」

「終わったか?」

俺が声をかけると、コクリと頷いて会員証をリュックへとしまった。

その動作すら可愛いんだよなぁ。
何でこんなに女っぽいんだよ。
はぁ、彼女にしてぇ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

従妹と親密な婚約者に、私は厳しく対処します。

みみぢあん
恋愛
ミレイユの婚約者、オルドリッジ子爵家の長男クレマンは、子供の頃から仲の良い妹のような従妹パトリシアを優先する。 婚約者のミレイユよりもクレマンが従妹を優先するため、学園内でクレマンと従妹の浮気疑惑がうわさになる。 ――だが、クレマンが従妹を優先するのは、人には言えない複雑な事情があるからだ。 それを知ったミレイユは婚約破棄するべきか?、婚約を継続するべきか?、悩み続けてミレイユが出した結論は……  ※ざまぁ系のお話ではありません。ご注意を😓 まぎらわしくてすみません。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

処理中です...