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スローライフ編
13話【雑貨屋の娘】
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ヴァルターに案内され、ルーイヒ村の雑貨屋の前へ到着する。
木製の扉を開けると、カランと鈴の音が鳴った。
カウンター越しに座っている女性が顔を上げ、入ってきた私たちの姿を見るなりその表情をパッと明るくさせた。
髪色がオレンジなのも相まって、いっそうまぶしく感じられる。
「いらっしゃーい! ヴァルター、久しぶりね」
「どうも」
応答した彼の声色が幾分か上がっていた。
不思議に思って見上げると、にこにこと花を飛ばすように笑みを浮かべている。
……なんなんだ、これは。普段と雰囲気変わりすぎじゃない?
「あれ? その子、前に言ってた妹?」
「いえ、弟の方です」
「へえ~、2人もいたんだ」
何の話だ、これ。きょろきょろと2人を交互に見上げる。
私の戸惑う視線に気づいたのか、ヴァルターがこちらに顔を向けてくれた。
「妹の日用品を、よくここで買ってるんだよ」
あぁ、なるほど。そういう設定だったんだ。
彼は女性の方へ向き直り、私を示す。
「エレノ――エレンっていいます」
また間違えかけてる……ヴァルター、私よりずっとガバガバ。
さすがに今度こそ怪しまれるのでは、とおそるおそる視線を彼女に合わせる。
しかし女性はにこにこと微笑んでいるだけで、大して気に留めている様子ではなかった。
え、こんなガバガバでいいの……? 通用してしまうの?
唖然と口を半開きにしていたら、鈴の音が再び聞こえてきた。同時にガタン! と勢いよく扉の閉まる音が響く。
「おかーさん、おつかい終わった!」
「シェラー、静かに閉めなさいよ。いつも言ってるでしょ」
女性は眉をつり上げるが、叱りおえるとすぐに「おかえり」と彼女と同じオレンジの髪色の女の子を迎える。
……シェラー? さっき、その名前を聞いたような。
「あーっ!!」
ゴトンッと両手に持っていたカゴを落とし、彼女はとびっきり高い声を発した。
キーンと頭に響く。側頭部に思わず手を当てた。
「ヴァルター!! ひさしぶりね!」
「シェラー、相変わらず騒々しいな」
無遠慮に言うもの、彼は変わらず笑っている。
なるほど、大人と子供に対して態度を使い分けているのか。まあおかしいことではないけれど、随分と変えるんだなぁ。
シェラーと呼ばれたその女の子は、目をきらきらと輝かせている。もしかして、ヴァルターのことが好きなのかな。
で、でも子供をライバル視するのもちょっと……うーん、でもなんか、モヤモヤする。私の心、狭くなりすぎじゃないか。
「ヴァルター、ぜんぜん成長してないわね」
「失礼だぞ」
「いいのよそれで! あたしが大きくなるまでそのままでいてもらわないと、王子さまだっこできないでしょ!」
すねるような口調で「クルトももっとかわいげがあればいいのにっ」と続けてこぼす。
何を言ってるんだ、この子。
確かにヴァルターの顔立ちは幼い。
正確な身長はわからないけど、男性としては少し小柄に見えるし、170cmもないかもしれない。もちろん私よりはずっと高いけれど。
彼の特徴を踏まえた上でも……シェラーの言っていることが理解できない。
もしかして私が知らないだけで、それが標準の考え方? それとも流行り?
うーん、と唸りながら考え込んでいると、彼女が私の目の前に立つ。
じーっと深く、覗き込むように見てくる。
「あなた、男の子?」
「え……あ、うん」
しどろもどろになりながらも、小さく頷く。
「ふーん……うん、なかなかかわいいわね」
「……え?」
「ヴァルターほどじゃないけど、あなたも悪くないわ」
え、ぼく、狙われてる……?
一瞬身震いがして、ヴァルターの後ろにサッと隠れる。
するとシェラーがぷくーっと頬を膨らませた。ハムスターのようで不覚にも可愛いと思ってしまった。
「なんでにげるのよー!」
「お前が変な誤解招くようなこと言うからじゃないか」
「ごめんねー。ウチの子だいぶ頭おかしいから、無視していいわよ」
「ちょっと! ムスメにたいしてシツレーよ、おかーさん!」
軽い親子喧嘩がはじまり、シェラーの関心が私から逸れたことでほっと胸を撫でおろす。
そろりとヴァルターの背後から抜けて見上げると、彼は明るく笑んだ。
「なかなか楽しいやつらだろ」
「それは……そうかも、です」
慣れるまでは一苦労しそう。だけど同時に子供ゆえの純真さは、大人の付き合いとは異なり安心感を覚える。
木製の扉を開けると、カランと鈴の音が鳴った。
カウンター越しに座っている女性が顔を上げ、入ってきた私たちの姿を見るなりその表情をパッと明るくさせた。
髪色がオレンジなのも相まって、いっそうまぶしく感じられる。
「いらっしゃーい! ヴァルター、久しぶりね」
「どうも」
応答した彼の声色が幾分か上がっていた。
不思議に思って見上げると、にこにこと花を飛ばすように笑みを浮かべている。
……なんなんだ、これは。普段と雰囲気変わりすぎじゃない?
「あれ? その子、前に言ってた妹?」
「いえ、弟の方です」
「へえ~、2人もいたんだ」
何の話だ、これ。きょろきょろと2人を交互に見上げる。
私の戸惑う視線に気づいたのか、ヴァルターがこちらに顔を向けてくれた。
「妹の日用品を、よくここで買ってるんだよ」
あぁ、なるほど。そういう設定だったんだ。
彼は女性の方へ向き直り、私を示す。
「エレノ――エレンっていいます」
また間違えかけてる……ヴァルター、私よりずっとガバガバ。
さすがに今度こそ怪しまれるのでは、とおそるおそる視線を彼女に合わせる。
しかし女性はにこにこと微笑んでいるだけで、大して気に留めている様子ではなかった。
え、こんなガバガバでいいの……? 通用してしまうの?
唖然と口を半開きにしていたら、鈴の音が再び聞こえてきた。同時にガタン! と勢いよく扉の閉まる音が響く。
「おかーさん、おつかい終わった!」
「シェラー、静かに閉めなさいよ。いつも言ってるでしょ」
女性は眉をつり上げるが、叱りおえるとすぐに「おかえり」と彼女と同じオレンジの髪色の女の子を迎える。
……シェラー? さっき、その名前を聞いたような。
「あーっ!!」
ゴトンッと両手に持っていたカゴを落とし、彼女はとびっきり高い声を発した。
キーンと頭に響く。側頭部に思わず手を当てた。
「ヴァルター!! ひさしぶりね!」
「シェラー、相変わらず騒々しいな」
無遠慮に言うもの、彼は変わらず笑っている。
なるほど、大人と子供に対して態度を使い分けているのか。まあおかしいことではないけれど、随分と変えるんだなぁ。
シェラーと呼ばれたその女の子は、目をきらきらと輝かせている。もしかして、ヴァルターのことが好きなのかな。
で、でも子供をライバル視するのもちょっと……うーん、でもなんか、モヤモヤする。私の心、狭くなりすぎじゃないか。
「ヴァルター、ぜんぜん成長してないわね」
「失礼だぞ」
「いいのよそれで! あたしが大きくなるまでそのままでいてもらわないと、王子さまだっこできないでしょ!」
すねるような口調で「クルトももっとかわいげがあればいいのにっ」と続けてこぼす。
何を言ってるんだ、この子。
確かにヴァルターの顔立ちは幼い。
正確な身長はわからないけど、男性としては少し小柄に見えるし、170cmもないかもしれない。もちろん私よりはずっと高いけれど。
彼の特徴を踏まえた上でも……シェラーの言っていることが理解できない。
もしかして私が知らないだけで、それが標準の考え方? それとも流行り?
うーん、と唸りながら考え込んでいると、彼女が私の目の前に立つ。
じーっと深く、覗き込むように見てくる。
「あなた、男の子?」
「え……あ、うん」
しどろもどろになりながらも、小さく頷く。
「ふーん……うん、なかなかかわいいわね」
「……え?」
「ヴァルターほどじゃないけど、あなたも悪くないわ」
え、ぼく、狙われてる……?
一瞬身震いがして、ヴァルターの後ろにサッと隠れる。
するとシェラーがぷくーっと頬を膨らませた。ハムスターのようで不覚にも可愛いと思ってしまった。
「なんでにげるのよー!」
「お前が変な誤解招くようなこと言うからじゃないか」
「ごめんねー。ウチの子だいぶ頭おかしいから、無視していいわよ」
「ちょっと! ムスメにたいしてシツレーよ、おかーさん!」
軽い親子喧嘩がはじまり、シェラーの関心が私から逸れたことでほっと胸を撫でおろす。
そろりとヴァルターの背後から抜けて見上げると、彼は明るく笑んだ。
「なかなか楽しいやつらだろ」
「それは……そうかも、です」
慣れるまでは一苦労しそう。だけど同時に子供ゆえの純真さは、大人の付き合いとは異なり安心感を覚える。
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