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第三章

警告(高雅視点)

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「……貞保殿が?」
 意外な名前に、思わず訊き返す。

 喜勢貞保。我が妻、乃絵の弟にして、弱冠十九歳にして幕府の官僚に任じられた天才山吹。
 そして、俺のことをとことん目の敵にしている。

 最初は、両家の利害関係を鑑み、俺と乃絵は結婚すべきだと発言していたが、俺が「もっと姉の幸せを考えろ」などと甘っちょろいことを言ったものだから、その後は百八十度意見を変えて、

 ――姉上が貴様の嫁になるなど断じて認めん! 貴様のような清くて正しい男が、姉上を幸せにできるものかっ。

 ずっと、そう言い続けていた。
 俺たちが夫婦になってもその態度は変わらず、

 ――姉上、高雅との暮らしが嫌になったら言ってくださいね? 即座にお迎えに上がります。
 というような文を乃絵に頻繁に送りつけてくるが、俺には文一つ寄越したことはない。

 その貞保が俺に文?
 一体どういう風の吹き回しだ。

 見当もつかない。だが、無性に嫌な予感がした。

 貞保は子どもの頃からとても聡明だった。
 それに、無意味なことも決してしない。どんな些細なことでも、必ず何らかの意味がある。

 俺たちの結婚を大層反対したのも……今にして思えば、現状のようなことになると見越していたのかもしれない。

 もしそうなら、

 胸がざわついて、急いで受け取った文を開いた。すると。

『お前が今の局面を生き残る道は一つだけ。まず、

「……っ」



 文を持っている手が震え始める。

『今すぐ選べ。そうでなければ手遅れになる。。願わくば、前者を選んでほしい。その暁には、我ら喜勢が全力で助力する』

 たまらず、文を破り捨てていた。

 この男は、何も知らない部外者の分際で何を言っているんだっ? 

 雅次に父を殺させて誅伐しろ?
 龍王丸を家房に差し出せ?

 そうしなければ雅次に殺される?

「ふざけるなっ」

 お前に雅次の何が分かる。
 雅次にはそんなこと絶対にできない。

 いっそ、そうできる性分であったらどれだけ良かったかと思ってしまうほどに、俺のことが大事過ぎて、今にも窒息してしまいそうなのに……っ。

「殿っ」

 強い呼びかけに、文の残骸を踏みにじっていた足を止める。
 振り返ると、目を見開いた作左が立っていた。

「どう、なさったのですか。何かあった」

「何か用か」
 貞保への怒りを懸命に抑えつつ訊き返すと、作左は小さく肩を震わせた。

「っ……はい。ただいま静谷より報せがありまして、……っ」

「本当か」
 思わず駆け寄り、作左の腕を掴む。

「雅次は、静谷に戻れたのか? 怪我や病などは」

「は、はい。ご息災とのこと……あ」

「……よ、かった」
 その場に崩れ落ち、息を吐く。

 体に怪我はなくても、心のほうは傷だらけかもしれない。
 それでも、このまま家房の許にいるよりは全然ましだ。

 静谷ならば、雅次を傷つける者はいない。
 山吹至上主義の父が、山吹に変じた雅次を温かく迎え入れるはず。

 これで、ひとまずは安心。
 よかった。本当によかった。

 ひとしきり安心した後、俺は勢いよく立ち上がった。

「これより桃井を攻めるっ。即刻出陣の支度をいたせ!」

 これまでは、高垣に雅次がいるからと過激なことはできなかったが、雅次が無事静谷に戻ったのであれば、もう容赦しない。

 雅次、待っていろ。すぐに戻るからな。

 俺の頭は完全にその思考で塗り潰された。
 貞保の警告など、忘却の彼方。

 後で、
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