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第三章
思うつぼ(雅次視点)
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「あ、あにう……ん、ぅっ」
不意に口内に侵入してきた熱い舌に、くちゅりという水音とともに自分のそれを舐められて肩が跳ねた。
「家房に襲われかけて生娘のように怯えて、俺に触れられただけで達ったお前を見て以来、俺が何を考えていたと思う?」
「! そ、れ……ぁ」
あの時射精してしまったこと、ばれて……!
混乱のあまり固まってしまった体を、難なく押し倒される。
その上にすかさず乗り上げられて、
「『この体が、俺しか受けつけなくなるくらい犯し抜いたら、俺のために男に抱かれようだなんて馬鹿なこと、考えなくなるかなあ』」
耳元で囁かれた信じられないその言葉に、体が木っ端みじんに砕け散るほどの衝撃が走った。
「あ、あ、に……っ! ぁ…ああっ」
突如、下肢を撫で上げられて目の前が真っ白になった。
それと同時に襲ってきた、強烈な快感。
「たったこれだけのことで達くのか。あの時も驚いたが……はは。今まで、俺にどれだけ触られても平気だったくせに、意識した途端こんなになるなんて。可愛い奴だよ」
「兄、上。なん、で……あ、あっ」
股間に添えられていた手が再び動き出す。
放った精で汚れた布ごと擦られるその感触に腰が震える。
「雅次。俺は、綺麗でも何でもないよ」
「あ、に……ゃ。そ…こ……だ、め……は、ぁっ」
「例えば七年前、お前が蔦殿と祝言を挙げると言い出した時もそう。俺に隠れてまぐわいまくっていた女との祝言が決まったくせに、俺に無視されたくらいでこの世の終わりのように泣きべそを掻くお前が、どんな顔して女を抱いたのかと……」
「……ぃっ!」
突如、首筋に歯を立てられて身が竦む。
「ここについた、口づけの赤い痕を見ながら、思ったりして」
「ゃ……そ、んな……嘘。ああっ」
信じられなかった。
確かにあの時、兄上はいまだかつてないほどに怒っていた。俺のことを無視するなんて、ありえないこともした。
でもそれは、兄上と義姉の結婚の真相も知らず揶揄したことを怒っているのだと思っていた。
まさか、家房につけられた情事の痕を見られていたことも、それを見た兄上がそんなことを考えていたことも、夢にも思うわけなくて――。
再び顔を上げ、目を白黒させることしかできない俺を見て、兄上が自嘲気味に笑う。
「ひどい男だ。自分は嫁をもらって、子どもができて、お前も早くいい家族ができたらなんて思っていたくせに、このざま」
「あ、あ……だ、め。兄上、動か、さないで……は、ぁっ」
「挙げ句、そんな自分を認めたくなくて、『俺は妻子が一番大事だ』ってお前の嘘に縋りついて、溺れて、お前がこんなになるまで気づきもしないで。本当に、最低だ……っ」
「ああっ」
褌ごと衣服を剥ぎ取られ、直に強く擦られて身悶える。
口もはしたない嬌声しか紡げない。
頭も快感で蕩けかけていたが、それでも辛うじて残った理性は愕然としていた。
いつだって、にこにこと朗らかに笑っていた兄上。
暗い影なんて、どこにも見えなかった。
愛する家族と家臣たちに囲まれて、幸せに満ち満ちているのだと、信じて疑いもしなかった。
なのに……これは誰だ?
こんな男知らない。
俺の知っている綺麗な兄上は、こんなこと絶対言わない。絶対しない。
壊れた。兄上が、壊れてしまった。
誰のせい? 俺か? 俺が、兄上をここまで壊したのか?
バレなければいい。そう思って、兄上が嫌がることを数え切れないほどした。
傷つく嘘を吐いて、騙される兄上にほくそ笑んで、兄上の気持ちを散々踏みにじり、無視してきた。
傷つけて傷つけて、兄上を歪めてしまった。そして最後。
「お前があの男に犯されて地獄に堕ちるくらいなら、俺がお前を犯して地獄に堕ちるほうがいいっ」
家房の文を読んで、完全に壊れてしまった。
だから、本来なら絶対しないはずのこんなことを?
ああ、これでは。
――犯すのだよ、あの男が。しかも、決して手を出してはならぬ禁忌の相手を……お前だよ、月丸。
家房の思うつぼ。
不意に口内に侵入してきた熱い舌に、くちゅりという水音とともに自分のそれを舐められて肩が跳ねた。
「家房に襲われかけて生娘のように怯えて、俺に触れられただけで達ったお前を見て以来、俺が何を考えていたと思う?」
「! そ、れ……ぁ」
あの時射精してしまったこと、ばれて……!
混乱のあまり固まってしまった体を、難なく押し倒される。
その上にすかさず乗り上げられて、
「『この体が、俺しか受けつけなくなるくらい犯し抜いたら、俺のために男に抱かれようだなんて馬鹿なこと、考えなくなるかなあ』」
耳元で囁かれた信じられないその言葉に、体が木っ端みじんに砕け散るほどの衝撃が走った。
「あ、あ、に……っ! ぁ…ああっ」
突如、下肢を撫で上げられて目の前が真っ白になった。
それと同時に襲ってきた、強烈な快感。
「たったこれだけのことで達くのか。あの時も驚いたが……はは。今まで、俺にどれだけ触られても平気だったくせに、意識した途端こんなになるなんて。可愛い奴だよ」
「兄、上。なん、で……あ、あっ」
股間に添えられていた手が再び動き出す。
放った精で汚れた布ごと擦られるその感触に腰が震える。
「雅次。俺は、綺麗でも何でもないよ」
「あ、に……ゃ。そ…こ……だ、め……は、ぁっ」
「例えば七年前、お前が蔦殿と祝言を挙げると言い出した時もそう。俺に隠れてまぐわいまくっていた女との祝言が決まったくせに、俺に無視されたくらいでこの世の終わりのように泣きべそを掻くお前が、どんな顔して女を抱いたのかと……」
「……ぃっ!」
突如、首筋に歯を立てられて身が竦む。
「ここについた、口づけの赤い痕を見ながら、思ったりして」
「ゃ……そ、んな……嘘。ああっ」
信じられなかった。
確かにあの時、兄上はいまだかつてないほどに怒っていた。俺のことを無視するなんて、ありえないこともした。
でもそれは、兄上と義姉の結婚の真相も知らず揶揄したことを怒っているのだと思っていた。
まさか、家房につけられた情事の痕を見られていたことも、それを見た兄上がそんなことを考えていたことも、夢にも思うわけなくて――。
再び顔を上げ、目を白黒させることしかできない俺を見て、兄上が自嘲気味に笑う。
「ひどい男だ。自分は嫁をもらって、子どもができて、お前も早くいい家族ができたらなんて思っていたくせに、このざま」
「あ、あ……だ、め。兄上、動か、さないで……は、ぁっ」
「挙げ句、そんな自分を認めたくなくて、『俺は妻子が一番大事だ』ってお前の嘘に縋りついて、溺れて、お前がこんなになるまで気づきもしないで。本当に、最低だ……っ」
「ああっ」
褌ごと衣服を剥ぎ取られ、直に強く擦られて身悶える。
口もはしたない嬌声しか紡げない。
頭も快感で蕩けかけていたが、それでも辛うじて残った理性は愕然としていた。
いつだって、にこにこと朗らかに笑っていた兄上。
暗い影なんて、どこにも見えなかった。
愛する家族と家臣たちに囲まれて、幸せに満ち満ちているのだと、信じて疑いもしなかった。
なのに……これは誰だ?
こんな男知らない。
俺の知っている綺麗な兄上は、こんなこと絶対言わない。絶対しない。
壊れた。兄上が、壊れてしまった。
誰のせい? 俺か? 俺が、兄上をここまで壊したのか?
バレなければいい。そう思って、兄上が嫌がることを数え切れないほどした。
傷つく嘘を吐いて、騙される兄上にほくそ笑んで、兄上の気持ちを散々踏みにじり、無視してきた。
傷つけて傷つけて、兄上を歪めてしまった。そして最後。
「お前があの男に犯されて地獄に堕ちるくらいなら、俺がお前を犯して地獄に堕ちるほうがいいっ」
家房の文を読んで、完全に壊れてしまった。
だから、本来なら絶対しないはずのこんなことを?
ああ、これでは。
――犯すのだよ、あの男が。しかも、決して手を出してはならぬ禁忌の相手を……お前だよ、月丸。
家房の思うつぼ。
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