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第三章

禁忌の想像(雅次視点)

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「あの男を穢すためならこの身を使ってもよいが、愛する弟の舅より、愛する弟自身を犯すほうがずっとずっと、汚らわしくて罪深い。そうだろう? 月丸」

 この変態は、一体何を言っているのだ。

  

「そんな……そのようなこと、あの兄上にできるわけ」

「できるさ。お前が酒でも飲もうとあの男を誘い出し、一服盛った後、あの男に馬乗りになって腰を振ればいいだけのことだ」

「な……っ」
 無造作に尻を掴まれて、息が詰まる。

「簡単なことだろう? 月丸。男の一物の挿入れ方も、腰の振り方も、わしが優しくたくさん教えてやったお前なら……大丈夫だ。お前の可愛い菊座とあの腰の振り方をもってすれば、どんな男も夢中になって貪ってくるよ。このわしが保証する」

 袴越しに尻の谷間を指で突きながら、ぬめりと嗤って告げられたその言葉に、全身の血液が沸騰した。

 家房に命令されるままにした、己のあられもない痴態の数々が、走馬灯のように脳裏を駆け巡ったせい?
 
 それもある。
 だが、一瞬……考えてしまったのだ。

 ……なんてっ。
 
 駄目だ。
 こんなこと、絶対考えちゃいけない!

「『弟の中で達くのはどんな心地でございますか? 兄上』と、訊かれながらお前に搾り取られたら、あの男はどんな顔をするか」

「あ、あ……それ、は」

「いや。それか、あの男のほうからお前を襲いたくなる薬も面白いかもしれん。その時は、思い切り嫌がる素振りをみせるのだぞ? 『兄上やめて』『嫌でございます』と泣く弟を無理矢理犯す……うん! そっちもいい。捨てがたい」

「家房様!」
 とんでもないことを夢心地に口ずさむ家房の名を、雅次はほとんど悲鳴に近い声で呼んだ。

「お願いでございます。もうお許しください。さようなお言葉、戯言とはもうせ、家房様の口から聞きとうありません」

「何? 戯言とな?」
 首を傾げる家房に、雅次は必死に頷く。

「は、はい。家房様は生涯、家房様だけの月丸でいてくれ。そのためなら娘も捧げるとおっしゃってくださったではありませぬか。それなのに……っ」

 いつものように必死で媚びを売っていると、顎を掴まれた。

「月丸。お前、わしのことが好きであろう?」

「は、はい。ですから」

「だったら、わしの望みを叶えておくれ」
「……っ!」

「わしは見たいのだよ。あの清廉潔白な男が自ら悪徳を犯すさまを。それによって、あの内より溢れ出る輝きが色を変えていくさまを。ああ、想像するだけでぞくぞくする」

 情欲に血走った山吹の瞳に、俺は戦慄した。

「家房様、どうかお許しください。それだけは……ぃっ」

 乱暴に押し倒される。

「月丸。何をそんなに怖がっているんだい? 怖いことなど何もないのに」

「い、家房様。やめて、ください。俺は……あ」

 突然、何も見えなくなった。
 掌で両の目を塞がれてしまったのだ。

「ほら。想像してごらん。例えば、あの男はどんなふうにお前に口づけするだろうね? 可愛い可愛い弟が相手だから、こんな感じか」

 そんな言葉とともに、唇に生暖かいぬめったものが触れてきた。
 気持ち悪いばかりの家房の唇。

 だが、今はまるで違った感触を覚える。

  

 考えるな。
 これは、家房の唇だ。なめくじのように醜く、おぞましい家房の――。

 必死で、そう思おうとした。

 それなのに、視界を塞がれた状態で、家房が変なことを言うせいか、兄上の顔を振り払うことができない。

「や、めて。こんな……い、や……んんぅ」

 拒絶の言葉を口にし、振り払おうとした。

 それなのに、なぜか体は金縛りにあったかのごとく動けない。

 それどころか、いつもは気持ち悪いばかりの舌が歯列をなぞり、ねっとりと舌を絡めてくると、体が燃えるように熱くなった。

 それは、いまだかつて感じたことのない未知のものだった。

 単純に擦られて勃起する動物的なそれとはまるで違う。
 触れられてもいないのに、胸の奥底が沸き立ち、眩暈がするほどに興奮する。

 これが、兄上の唇だったらと思うだけで……ああ。

 これは、何だ? 

 こんなの知らない。
 こんなに気持ち良くて心地いい感覚……っ。

 嫌だ嫌だ。知りたくない。
 これ以上は駄目だ。怖い……。

『失礼いたします』
「……っ!」

 突如耳に届いたその声に、口から心臓が飛び出しそうになった。
 
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