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第二章
七話 伝えられる現状
しおりを挟む再び時刻は路地裏の会話へ。
所々省かれながらも爺さんからの話を聞き終えると、俺は悲鳴を上げた。
「俺も任務について行くだぁ⁉︎」
勘違いしないでほしいのだが、学校での事件の際に俺が奔走していたのは状況に追い込まれていたからだ。篠崎さんが闘っている間にぽけ~と突っ立ってるだけなど自身の心情に反した。
結果的にそれが上手くいったのもあり今の俺には多少なりと自負心がある。
だが、それが俺自身が事件に飛び出していくのとイコールにはならない。殺されるかもしれない死闘を避けて通るなら喜んで回り道をする人間だ。
そんな奴が任務に着いて行きたいと言うか?………答えはNOである。
というわけで、俺は滅茶苦茶拒否反応を示す。
「くそ嫌なんだが。死ぬじゃんそれ、大体なんで毎度執行人の仕事に巻き込まれるんだ。断固として断る!」
俺の宣言に爺さんは眉をひそめた。まさかあんなに前回積極的だった俺が弱音を吐くなんて思わなかったからか。「ふうむ」と堂々とした俺を眺めて、ある一点のみ思考する。
俺の意見を一蹴りしながら。
「お主の不承諾の意思は通らん。これを受けなければお主は我々の保護から外れる。これがどういう意味かわからんほど未熟ではあるまい?」
「……」
そう、つまりは格好の餌だ。少なからず異能力者である俺は敵から狙われる可能性が大、襲われてしまえば守ってくる人間が居ないので一方的にやられてしまうということ。
ーーー要するに、ここで断ってこれから一人でいるのと爺さんと一緒にいたのでは両方危険だけど、爺さんの方は死ぬ可能性は減るってことか。
なんだ、それでは……
「一種の脅迫、そう思われても仕方がなかろう」
「っ、自覚はあったのか」
思い返してみれば納得がいく。何せ学校中を混乱に陥れた事件を告発せず無理やり誤魔化すような連中だ。人一人に掛ける人材などたかが知れている。せいぜい、自分達の安全が脅かされない程度に保護しているだけかもしれない。
脳みそが冷たくなって、諸々がどうでもよくなった俺はぞんざいに彼の命令を承諾した。
「分かった。任務についていく。だから具体的なことを教えろ。一人で暴れた生徒の大群に襲われたりしないやつをな」
「あれは例外じゃよ。あれがわしの仕事を一番減らせ…、おほん!効率の良いやり方だったんじゃ」
「おい、待ちやがれ。てめえあれ以外に手があったのかよ!」
「あるにはあった。じゃが、それだと篠崎さんがより危なくなるからのぉ。あれが一番良い手段じゃった。お主もそれを望んでおったじゃろう」
ぐっと口を噛み、握り拳を緩ませる。確かにその通り、俺に爺さんが回されていれば作戦が成功していたか不明だった。
ーーーはぁ、悪い癖だ。昔の話を掘り返しちまった、最善なんてその時にしか選べないのに。
「今がよければそれで満足しよう」、篠崎さんにも言われたこと。どうも俺はまだ負い目があるようだった。
頬を叩き、一度落ち着かせた後、再度問いかける。
「すまん、脱線した。任務について詳しく」
「左様。簡単に言って、お主にはわしと共に教会に侵入してほしい」
暫くの時間。話された爺さんの内容を簡略化すると、
敵の本拠地が教会にあり、そこに居るケンリック=ウェルトマンを討つのが爺さんに言い渡された任務。一人の少女が仲間に付いており、彼女がそいつのとっての唯一の戦力だという。
「そのケンリックって奴はどんな悪事をしてるんだ?」
執行人から命を狙われてるなら何かしらの悪事を犯したのだろう、そう思い尋ねると重い台詞が帰ってきた。
「奴は、今まで実に26人の異能力者を殺しておる」
「! 26人だと!?」
国内のどんな凶悪殺人者よりも多い気がする。そんな悪行、表に上がれば日本中がパニックに陥る。執行人が隠蔽をしているのも有るだろうが、恐らく……
「そいつ、かなりの使い手なのか?」
「その通り。幾度となく執行人も返り討ちにされているんじゃ。最近はめっきり殺しは減っていたんじゃが、わしらの管轄の一つであった病院が襲撃に遭い、一人の子供が攫われた」
堪らなく嫌な予感が俺の全身を駆け巡る。まさか、そんな訳ない、そんな否定が出てくる前に、爺さんの嗄れた声が響く。
「長山陽葵、高校を騒がせた異能力者が現在行方不明になっておる」
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