48 / 51
第二章
四話 危険な再会
しおりを挟む
有料となったレジ袋を受け取ると、金額が所持金を凌駕してしまうので、ペットボトルを片手に家への歩みを進めている。だが……
ーーーうーん、駄目だ。暑すぎる。
真夏並みの太陽。ぐったりと体の重くなる俺は、コンビニ付近の路地裏の日陰に飛び込みシャツを仰ぐ。以前は友達と沢山来ていたなぁ、と幼少期を追憶していると、ポッと置かれたとある物体に泡を食った。
自動販売機。
昔は絶対になかったはずの場所に、俺がさっきまで求めていた飲料水が詰まった楽園が設置されていた。
ーーーえ、ちょっと待て。
そう、少し待ってほしい。思わず体をギリギリまで接近して中身を覗き込んだ俺は、口をあんぐり開けた。
物陰の自販機とは思えないほど、品揃えが良過ぎる。おまけに全品百円統一。これなら鼻からこの場所に来ればよかったじゃないか。
グチャっと俺の気持ちがたった今踏みつけられた。そんな、がっくりと肩を落とす俺の背後から、ドンっと何か重たい物が落下する音があった。
「たかが飲み物に、随分と不幸そうな顔しとるのぉ」
「うるせえ~、俺が数分前まで欲していた良さげな商品たちが……………え?」
背後から、声。
自販機にもたれ掛かった体は、元に戻せざるを得なかった。
突然の落下音に聞き覚えのある耄碌した喋り方。こんな特徴的な人間は俺の周りに一人した存在しない。
恐る恐る…ではなく勢いよく振り返る。
とんがり帽子を被った背の低い老人。そいつが俺を直視していた。
「よう」
「よう、じゃねえ。腰抜かすわ!」
「じゃあ…久しぶり?」
「挨拶の問題じゃねえよ!俺が言及してんのは、お前の態度だ!」
「相変わらず元気じゃのぉ。お主、そんなハキハキした声して疲れんのか?」
「今まさにお前に疲れてるんだよ!ってか人の話を聞け!!」
路地裏一体に声を張り上げる。
ぜいぜい、と息を憔悴させる俺に、爺さんは小さく笑っていた。
「お前さん、面白いのぉ」
「っ、こっちは、ちっ、と、も、面白く、ない!」
息を整えて爺さんに関心を寄せると、爺さんはそんな俺の顔色に何を感じ取ったのか、憂いの表情を浮かべる。やけに神妙とした雰囲気が押し寄せ、胸騒ぎが落ち着かない俺に爺さんが吐露をする。
「ふうむ……お主、死を考えたことはあるか?」
「は? 今度は何だよ」
「いいから答えるんじゃ」
急き立てるように喋る爺さんを見て、俺は直様答える。
「あるわけないだろ」
「即答か」
そう述べて息を整える爺さん、はっきり言って訳が分からない。ここに彼が出現した意味も、俺に何を話し、何を要求してくるか予想がつかなかった。
だからこそー
「タロットよ、力を貸してもらうぞ」
「? 何言って、」
小声の独り言。爺さんがポケットに手を忍ばせた瞬間、彼は拳銃を構えた。
ーーーやば! 殺されー
「見定めろ」
パンッ!
普通のそれとは明らかに変わった青い噴煙を纏った弾丸が、粉塵を撒き散らして俺に来襲した。
ーーー無茶苦茶だ!
逃げ腰になる俺は偶々真下に備え付けられたマンホールにうっかり足を滑らせる。
「ほう」
間一髪。
弾丸はギリギリ頭上を通過していった。俺は尻餅を突きながら躍起に吠える。
「何しやがんだ!」
「なんじゃ、このぐらいで根を上げてもらっては困るぞ」
第二試練、と言った具合に爺さんが拳銃を仕舞い、今度は二枚のカードを公然と示した。
「見定めろ」
そう語って空中に二枚とも放り投げると、空の高みで両者青に光り輝く。これで夜なら星に見えたな、と思い遣った直後、合体して一直線にこっちの方角へ光線が到来する。
「ちょ、ちょっと待て!」
慌てて路地裏から遠ざかろうするも間に合わない。
一気に目前まで差を詰めた光は、俺そのものを焼くほどの高熱を……
「え?」
発生させることなく、今度は消滅した。
「……そうなるか。なら、これではどうじゃ」
光が何かに阻まれるように消えた刹那、最後の第三試練が俺に訪れる。
先刻まで居た位置から姿が無くなっていた爺さんは、気が付けば後ろに立ちすくんでいた。
「チェックメイト」
銃口が向けられる。唖然とする俺にカチっという音が鳴り響いた。安全バーを引く動作から一番目に使っていた銃とは違うことが理解できる。
そうして、人差し指が引き金を押そうとした時、
バチン!
爺さんの手から拳銃が放り飛ばされた。
「なんと! 確かにこれは異能力者の域を超えておるな」
あり得ない不可思議な法則、それが生じたにも関わらず爺さんはどこか面白そうな顔をしていた。
ーーーなんだ…、一体何が起きてるんだ。
恐怖に顔つきが染まって一歩も動けなくなる。というか、今この瞬間に何一つ信用できる事柄がなくなった予感が俺の心のうちにあった。
「……どうして、だ、どうして俺を殺そうとする、」
一緒に共闘しただろ、なんて図々しいことは言わない。執行人という役職である以上、何か事情があるのかも知れないから。
けれども、同じ人間を殺すという心情がどういうものなのか、サッパリ飲み込めない俺自身にとって、爺さんが何食わぬ態度なのに戦慄していた。
強張り、震え、ろくに身動きがとれない自身の有り様を見て、爺さんは申し訳なさそうに顔を俯ける。
出てきた言葉は、
「いやぁ~すまんのぉ。不本意ながらお前さんを試させて」
「……は?」
「簡単に言って、お主を攻撃する理由は無くなったと言うわけじゃ」
ーーーうーん、駄目だ。暑すぎる。
真夏並みの太陽。ぐったりと体の重くなる俺は、コンビニ付近の路地裏の日陰に飛び込みシャツを仰ぐ。以前は友達と沢山来ていたなぁ、と幼少期を追憶していると、ポッと置かれたとある物体に泡を食った。
自動販売機。
昔は絶対になかったはずの場所に、俺がさっきまで求めていた飲料水が詰まった楽園が設置されていた。
ーーーえ、ちょっと待て。
そう、少し待ってほしい。思わず体をギリギリまで接近して中身を覗き込んだ俺は、口をあんぐり開けた。
物陰の自販機とは思えないほど、品揃えが良過ぎる。おまけに全品百円統一。これなら鼻からこの場所に来ればよかったじゃないか。
グチャっと俺の気持ちがたった今踏みつけられた。そんな、がっくりと肩を落とす俺の背後から、ドンっと何か重たい物が落下する音があった。
「たかが飲み物に、随分と不幸そうな顔しとるのぉ」
「うるせえ~、俺が数分前まで欲していた良さげな商品たちが……………え?」
背後から、声。
自販機にもたれ掛かった体は、元に戻せざるを得なかった。
突然の落下音に聞き覚えのある耄碌した喋り方。こんな特徴的な人間は俺の周りに一人した存在しない。
恐る恐る…ではなく勢いよく振り返る。
とんがり帽子を被った背の低い老人。そいつが俺を直視していた。
「よう」
「よう、じゃねえ。腰抜かすわ!」
「じゃあ…久しぶり?」
「挨拶の問題じゃねえよ!俺が言及してんのは、お前の態度だ!」
「相変わらず元気じゃのぉ。お主、そんなハキハキした声して疲れんのか?」
「今まさにお前に疲れてるんだよ!ってか人の話を聞け!!」
路地裏一体に声を張り上げる。
ぜいぜい、と息を憔悴させる俺に、爺さんは小さく笑っていた。
「お前さん、面白いのぉ」
「っ、こっちは、ちっ、と、も、面白く、ない!」
息を整えて爺さんに関心を寄せると、爺さんはそんな俺の顔色に何を感じ取ったのか、憂いの表情を浮かべる。やけに神妙とした雰囲気が押し寄せ、胸騒ぎが落ち着かない俺に爺さんが吐露をする。
「ふうむ……お主、死を考えたことはあるか?」
「は? 今度は何だよ」
「いいから答えるんじゃ」
急き立てるように喋る爺さんを見て、俺は直様答える。
「あるわけないだろ」
「即答か」
そう述べて息を整える爺さん、はっきり言って訳が分からない。ここに彼が出現した意味も、俺に何を話し、何を要求してくるか予想がつかなかった。
だからこそー
「タロットよ、力を貸してもらうぞ」
「? 何言って、」
小声の独り言。爺さんがポケットに手を忍ばせた瞬間、彼は拳銃を構えた。
ーーーやば! 殺されー
「見定めろ」
パンッ!
普通のそれとは明らかに変わった青い噴煙を纏った弾丸が、粉塵を撒き散らして俺に来襲した。
ーーー無茶苦茶だ!
逃げ腰になる俺は偶々真下に備え付けられたマンホールにうっかり足を滑らせる。
「ほう」
間一髪。
弾丸はギリギリ頭上を通過していった。俺は尻餅を突きながら躍起に吠える。
「何しやがんだ!」
「なんじゃ、このぐらいで根を上げてもらっては困るぞ」
第二試練、と言った具合に爺さんが拳銃を仕舞い、今度は二枚のカードを公然と示した。
「見定めろ」
そう語って空中に二枚とも放り投げると、空の高みで両者青に光り輝く。これで夜なら星に見えたな、と思い遣った直後、合体して一直線にこっちの方角へ光線が到来する。
「ちょ、ちょっと待て!」
慌てて路地裏から遠ざかろうするも間に合わない。
一気に目前まで差を詰めた光は、俺そのものを焼くほどの高熱を……
「え?」
発生させることなく、今度は消滅した。
「……そうなるか。なら、これではどうじゃ」
光が何かに阻まれるように消えた刹那、最後の第三試練が俺に訪れる。
先刻まで居た位置から姿が無くなっていた爺さんは、気が付けば後ろに立ちすくんでいた。
「チェックメイト」
銃口が向けられる。唖然とする俺にカチっという音が鳴り響いた。安全バーを引く動作から一番目に使っていた銃とは違うことが理解できる。
そうして、人差し指が引き金を押そうとした時、
バチン!
爺さんの手から拳銃が放り飛ばされた。
「なんと! 確かにこれは異能力者の域を超えておるな」
あり得ない不可思議な法則、それが生じたにも関わらず爺さんはどこか面白そうな顔をしていた。
ーーーなんだ…、一体何が起きてるんだ。
恐怖に顔つきが染まって一歩も動けなくなる。というか、今この瞬間に何一つ信用できる事柄がなくなった予感が俺の心のうちにあった。
「……どうして、だ、どうして俺を殺そうとする、」
一緒に共闘しただろ、なんて図々しいことは言わない。執行人という役職である以上、何か事情があるのかも知れないから。
けれども、同じ人間を殺すという心情がどういうものなのか、サッパリ飲み込めない俺自身にとって、爺さんが何食わぬ態度なのに戦慄していた。
強張り、震え、ろくに身動きがとれない自身の有り様を見て、爺さんは申し訳なさそうに顔を俯ける。
出てきた言葉は、
「いやぁ~すまんのぉ。不本意ながらお前さんを試させて」
「……は?」
「簡単に言って、お主を攻撃する理由は無くなったと言うわけじゃ」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。


【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる