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第二章
四話 危険な再会
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有料となったレジ袋を受け取ると、金額が所持金を凌駕してしまうので、ペットボトルを片手に家への歩みを進めている。だが……
ーーーうーん、駄目だ。暑すぎる。
真夏並みの太陽。ぐったりと体の重くなる俺は、コンビニ付近の路地裏の日陰に飛び込みシャツを仰ぐ。以前は友達と沢山来ていたなぁ、と幼少期を追憶していると、ポッと置かれたとある物体に泡を食った。
自動販売機。
昔は絶対になかったはずの場所に、俺がさっきまで求めていた飲料水が詰まった楽園が設置されていた。
ーーーえ、ちょっと待て。
そう、少し待ってほしい。思わず体をギリギリまで接近して中身を覗き込んだ俺は、口をあんぐり開けた。
物陰の自販機とは思えないほど、品揃えが良過ぎる。おまけに全品百円統一。これなら鼻からこの場所に来ればよかったじゃないか。
グチャっと俺の気持ちがたった今踏みつけられた。そんな、がっくりと肩を落とす俺の背後から、ドンっと何か重たい物が落下する音があった。
「たかが飲み物に、随分と不幸そうな顔しとるのぉ」
「うるせえ~、俺が数分前まで欲していた良さげな商品たちが……………え?」
背後から、声。
自販機にもたれ掛かった体は、元に戻せざるを得なかった。
突然の落下音に聞き覚えのある耄碌した喋り方。こんな特徴的な人間は俺の周りに一人した存在しない。
恐る恐る…ではなく勢いよく振り返る。
とんがり帽子を被った背の低い老人。そいつが俺を直視していた。
「よう」
「よう、じゃねえ。腰抜かすわ!」
「じゃあ…久しぶり?」
「挨拶の問題じゃねえよ!俺が言及してんのは、お前の態度だ!」
「相変わらず元気じゃのぉ。お主、そんなハキハキした声して疲れんのか?」
「今まさにお前に疲れてるんだよ!ってか人の話を聞け!!」
路地裏一体に声を張り上げる。
ぜいぜい、と息を憔悴させる俺に、爺さんは小さく笑っていた。
「お前さん、面白いのぉ」
「っ、こっちは、ちっ、と、も、面白く、ない!」
息を整えて爺さんに関心を寄せると、爺さんはそんな俺の顔色に何を感じ取ったのか、憂いの表情を浮かべる。やけに神妙とした雰囲気が押し寄せ、胸騒ぎが落ち着かない俺に爺さんが吐露をする。
「ふうむ……お主、死を考えたことはあるか?」
「は? 今度は何だよ」
「いいから答えるんじゃ」
急き立てるように喋る爺さんを見て、俺は直様答える。
「あるわけないだろ」
「即答か」
そう述べて息を整える爺さん、はっきり言って訳が分からない。ここに彼が出現した意味も、俺に何を話し、何を要求してくるか予想がつかなかった。
だからこそー
「タロットよ、力を貸してもらうぞ」
「? 何言って、」
小声の独り言。爺さんがポケットに手を忍ばせた瞬間、彼は拳銃を構えた。
ーーーやば! 殺されー
「見定めろ」
パンッ!
普通のそれとは明らかに変わった青い噴煙を纏った弾丸が、粉塵を撒き散らして俺に来襲した。
ーーー無茶苦茶だ!
逃げ腰になる俺は偶々真下に備え付けられたマンホールにうっかり足を滑らせる。
「ほう」
間一髪。
弾丸はギリギリ頭上を通過していった。俺は尻餅を突きながら躍起に吠える。
「何しやがんだ!」
「なんじゃ、このぐらいで根を上げてもらっては困るぞ」
第二試練、と言った具合に爺さんが拳銃を仕舞い、今度は二枚のカードを公然と示した。
「見定めろ」
そう語って空中に二枚とも放り投げると、空の高みで両者青に光り輝く。これで夜なら星に見えたな、と思い遣った直後、合体して一直線にこっちの方角へ光線が到来する。
「ちょ、ちょっと待て!」
慌てて路地裏から遠ざかろうするも間に合わない。
一気に目前まで差を詰めた光は、俺そのものを焼くほどの高熱を……
「え?」
発生させることなく、今度は消滅した。
「……そうなるか。なら、これではどうじゃ」
光が何かに阻まれるように消えた刹那、最後の第三試練が俺に訪れる。
先刻まで居た位置から姿が無くなっていた爺さんは、気が付けば後ろに立ちすくんでいた。
「チェックメイト」
銃口が向けられる。唖然とする俺にカチっという音が鳴り響いた。安全バーを引く動作から一番目に使っていた銃とは違うことが理解できる。
そうして、人差し指が引き金を押そうとした時、
バチン!
爺さんの手から拳銃が放り飛ばされた。
「なんと! 確かにこれは異能力者の域を超えておるな」
あり得ない不可思議な法則、それが生じたにも関わらず爺さんはどこか面白そうな顔をしていた。
ーーーなんだ…、一体何が起きてるんだ。
恐怖に顔つきが染まって一歩も動けなくなる。というか、今この瞬間に何一つ信用できる事柄がなくなった予感が俺の心のうちにあった。
「……どうして、だ、どうして俺を殺そうとする、」
一緒に共闘しただろ、なんて図々しいことは言わない。執行人という役職である以上、何か事情があるのかも知れないから。
けれども、同じ人間を殺すという心情がどういうものなのか、サッパリ飲み込めない俺自身にとって、爺さんが何食わぬ態度なのに戦慄していた。
強張り、震え、ろくに身動きがとれない自身の有り様を見て、爺さんは申し訳なさそうに顔を俯ける。
出てきた言葉は、
「いやぁ~すまんのぉ。不本意ながらお前さんを試させて」
「……は?」
「簡単に言って、お主を攻撃する理由は無くなったと言うわけじゃ」
ーーーうーん、駄目だ。暑すぎる。
真夏並みの太陽。ぐったりと体の重くなる俺は、コンビニ付近の路地裏の日陰に飛び込みシャツを仰ぐ。以前は友達と沢山来ていたなぁ、と幼少期を追憶していると、ポッと置かれたとある物体に泡を食った。
自動販売機。
昔は絶対になかったはずの場所に、俺がさっきまで求めていた飲料水が詰まった楽園が設置されていた。
ーーーえ、ちょっと待て。
そう、少し待ってほしい。思わず体をギリギリまで接近して中身を覗き込んだ俺は、口をあんぐり開けた。
物陰の自販機とは思えないほど、品揃えが良過ぎる。おまけに全品百円統一。これなら鼻からこの場所に来ればよかったじゃないか。
グチャっと俺の気持ちがたった今踏みつけられた。そんな、がっくりと肩を落とす俺の背後から、ドンっと何か重たい物が落下する音があった。
「たかが飲み物に、随分と不幸そうな顔しとるのぉ」
「うるせえ~、俺が数分前まで欲していた良さげな商品たちが……………え?」
背後から、声。
自販機にもたれ掛かった体は、元に戻せざるを得なかった。
突然の落下音に聞き覚えのある耄碌した喋り方。こんな特徴的な人間は俺の周りに一人した存在しない。
恐る恐る…ではなく勢いよく振り返る。
とんがり帽子を被った背の低い老人。そいつが俺を直視していた。
「よう」
「よう、じゃねえ。腰抜かすわ!」
「じゃあ…久しぶり?」
「挨拶の問題じゃねえよ!俺が言及してんのは、お前の態度だ!」
「相変わらず元気じゃのぉ。お主、そんなハキハキした声して疲れんのか?」
「今まさにお前に疲れてるんだよ!ってか人の話を聞け!!」
路地裏一体に声を張り上げる。
ぜいぜい、と息を憔悴させる俺に、爺さんは小さく笑っていた。
「お前さん、面白いのぉ」
「っ、こっちは、ちっ、と、も、面白く、ない!」
息を整えて爺さんに関心を寄せると、爺さんはそんな俺の顔色に何を感じ取ったのか、憂いの表情を浮かべる。やけに神妙とした雰囲気が押し寄せ、胸騒ぎが落ち着かない俺に爺さんが吐露をする。
「ふうむ……お主、死を考えたことはあるか?」
「は? 今度は何だよ」
「いいから答えるんじゃ」
急き立てるように喋る爺さんを見て、俺は直様答える。
「あるわけないだろ」
「即答か」
そう述べて息を整える爺さん、はっきり言って訳が分からない。ここに彼が出現した意味も、俺に何を話し、何を要求してくるか予想がつかなかった。
だからこそー
「タロットよ、力を貸してもらうぞ」
「? 何言って、」
小声の独り言。爺さんがポケットに手を忍ばせた瞬間、彼は拳銃を構えた。
ーーーやば! 殺されー
「見定めろ」
パンッ!
普通のそれとは明らかに変わった青い噴煙を纏った弾丸が、粉塵を撒き散らして俺に来襲した。
ーーー無茶苦茶だ!
逃げ腰になる俺は偶々真下に備え付けられたマンホールにうっかり足を滑らせる。
「ほう」
間一髪。
弾丸はギリギリ頭上を通過していった。俺は尻餅を突きながら躍起に吠える。
「何しやがんだ!」
「なんじゃ、このぐらいで根を上げてもらっては困るぞ」
第二試練、と言った具合に爺さんが拳銃を仕舞い、今度は二枚のカードを公然と示した。
「見定めろ」
そう語って空中に二枚とも放り投げると、空の高みで両者青に光り輝く。これで夜なら星に見えたな、と思い遣った直後、合体して一直線にこっちの方角へ光線が到来する。
「ちょ、ちょっと待て!」
慌てて路地裏から遠ざかろうするも間に合わない。
一気に目前まで差を詰めた光は、俺そのものを焼くほどの高熱を……
「え?」
発生させることなく、今度は消滅した。
「……そうなるか。なら、これではどうじゃ」
光が何かに阻まれるように消えた刹那、最後の第三試練が俺に訪れる。
先刻まで居た位置から姿が無くなっていた爺さんは、気が付けば後ろに立ちすくんでいた。
「チェックメイト」
銃口が向けられる。唖然とする俺にカチっという音が鳴り響いた。安全バーを引く動作から一番目に使っていた銃とは違うことが理解できる。
そうして、人差し指が引き金を押そうとした時、
バチン!
爺さんの手から拳銃が放り飛ばされた。
「なんと! 確かにこれは異能力者の域を超えておるな」
あり得ない不可思議な法則、それが生じたにも関わらず爺さんはどこか面白そうな顔をしていた。
ーーーなんだ…、一体何が起きてるんだ。
恐怖に顔つきが染まって一歩も動けなくなる。というか、今この瞬間に何一つ信用できる事柄がなくなった予感が俺の心のうちにあった。
「……どうして、だ、どうして俺を殺そうとする、」
一緒に共闘しただろ、なんて図々しいことは言わない。執行人という役職である以上、何か事情があるのかも知れないから。
けれども、同じ人間を殺すという心情がどういうものなのか、サッパリ飲み込めない俺自身にとって、爺さんが何食わぬ態度なのに戦慄していた。
強張り、震え、ろくに身動きがとれない自身の有り様を見て、爺さんは申し訳なさそうに顔を俯ける。
出てきた言葉は、
「いやぁ~すまんのぉ。不本意ながらお前さんを試させて」
「……は?」
「簡単に言って、お主を攻撃する理由は無くなったと言うわけじゃ」
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