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第二章
二話 不思議な少女
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「ふあーあ、眠いなぁ」
何だかデジャブの気がするがそんなことはどうでもいい。習慣化した行動は何気なくいつもの光景を呼び覚ますからである。
と、大きく欠伸を垂れながら目を擦る俺の名前は西岡樹。執行人などという胡散臭い組織の連中に絡まれ、事件の中央に向かわされ逃げ回ってるうちに解決していたなんて出来事はこの際捨てておく。
高校生活どころかもはや一般人としての生活をしていたと言われても怪しくなるのは不可抗力だ。学校が再開しなければそれも無くなってしまうが。
なんて思いながら薄地のカーディガンにジーパンという無難な組み合わせで飲み物を買いに駅前に向かっている俺だったが、春先にしては厳しい陽の光に全身がバテそうになっていた。
「暑い、まじで暑い。地球の異常気象はここまで進んでいたのか」
立派に聳え立つ桜の木も今や青々とした葉を咲かせつつある。もしや温暖化も異能力者のせいではあるまいな、と不安に感じるも、世の中の不思議そのものを全て押し付けてはいけないと改める。
ーーー学校復帰まで残り三週間。さて、この期間をどう有効活用するか。
とりあえず顔見知りや数人のクラスメイトには見舞いに行った。一応課題が出ているのでそれにも手をつけなければならない。だが、何より行動すべきなのは…
篠崎さんの頼み、である。
あの日の放課後、篠崎さんから新らしく頼まれたのは「長山さんと仲良くする」と言う全くもって笑えそうな内容だった。本人は真剣そのものだったが。
はっきり言おう。無茶だ。篠崎さんが僧侶ならナガッチはバーサーカー。言葉一つで態度が豹変する。特に俺に対する扱いが最近どんどん狭まっていた。さらに前回の暴走、今の心情として当然ながらあまり話したくない。
ーーーでもなぁ、そしたら頼みは解決されないし。はあ、どうして俺いいよって言ったんだろう。
篠崎さんの言い分も分かる。せっかく出来た交友関係がまた一人の人間によってぶち壊されたらたまったもんじゃない。それだったら今のうちにその可能性のある人物と仲良くなったら良いって言うのも考えとしては悪くなかった。
相手がナガッチという点を除けば。
魔道具に暴走させられていたのであれば大丈夫………なのか? とにかく今はこれをどう対処するか、悩みは尽きなかった。
ーーーいったいどうすりゃ、
「あの、すいません。この辺りに、病院はありますか?」
「……は?」
道路脇を歩く自分に何やら話しかける人間がいた。パッと目をやれば、そこには金髪ショートヘアの言わずもがな外国人美少女がこちらを向いている。
「え、俺に聞いてる?」
「他に誰かいるでしょうか」
ニコッと顔を綻ばせる少女に、ウッと心が締め付けられた。悪意のないその表情、百点満点の笑みに現役高校生はたじろいだ。
「病院だっけ」
「はい」
「……一番近い場所で黒林耳鼻科クリニックがあるけど、」
「ではそこにしましょう」
スムーズに進む話し合い、けれど何か少女は勘違いしてる気がする。二度の返事で立ち去ろうとする少女に「ちょっと待て!」と声を荒げる。
「はい?」
「お前、耳鼻科が何をする場所か分かってる?」
「分かりませんが、行けば教えてくれるでしょう」
そう言って再びその場を去ろうとする少女、今度は彼女の手を捕まえる。
「おい、止まれ」
「どうかしました?」
「どうかしたのはお前だ。病院には色々種類があるんだ。自分が今かかってる病を理解した上で行きたい場所を言ってくれ」
「私は別に病にかかっておりませんよ」
「何なの、お前⁉︎」
ギョッとして俺は少女から離れるように身を仰け反らせた。少女にしてはえらく丁寧な口調でありながら頭はボケているような印象が強い。天然……いやただのバカじゃね?
服装は地味、瞳に宿る感情は乏しく攻撃性が皆無。逆に言えば、薄っすら安心できる包容力が漂っていた。
なるべく疲れを出さず、それでいて言葉を選び核心を迫るよう俺は問いただす。
「なら、何でお前は病院に行きたいんだ」
「そこに患者がいるからです」
「あー、だめだこりゃ」
やっぱりバカだ、という言葉がもう一度迫り上がってきたが、俺はグッと堪える。
1足す1は何かを問われて計算、と答えられたような感じ。言葉の意味が異なっている。酷く天然ボケしてる少女に思わず頭を押さえつつ、一つ質疑を付け加える。
「……だったら、病気でもないお前は病院に行って、患者を見るだけか? もしかして家族のお見舞い?」
「いいえ。お見舞いする家族はおりません。病院へは人探しですよ」
「人探し?」
「ええ、ある方が入院しているのです。どこの病院か忘れましたけど」
それだと人探しにならねえよ、両腕を上げギブアップとアピールする。そういやそうでしたね、と今更すぎる呟きが聞こえたので、俺は本当の意味で呆れ果てた。
「しかし困りましたね。ある人物を探してこい、と言われたのに、これでは怒られてしまいます」
「しょうがないだろ、ちゃんと情報を収集して出直してこい」
「……そうですね、そうさせていただきます」
答える声は、何の気無しの回答だった。ありがとう、と小声で口を開き、少女はゆっくりと俺とは逆方向に進んでいった。
ーーーいったい何だったんだ?
何だかデジャブの気がするがそんなことはどうでもいい。習慣化した行動は何気なくいつもの光景を呼び覚ますからである。
と、大きく欠伸を垂れながら目を擦る俺の名前は西岡樹。執行人などという胡散臭い組織の連中に絡まれ、事件の中央に向かわされ逃げ回ってるうちに解決していたなんて出来事はこの際捨てておく。
高校生活どころかもはや一般人としての生活をしていたと言われても怪しくなるのは不可抗力だ。学校が再開しなければそれも無くなってしまうが。
なんて思いながら薄地のカーディガンにジーパンという無難な組み合わせで飲み物を買いに駅前に向かっている俺だったが、春先にしては厳しい陽の光に全身がバテそうになっていた。
「暑い、まじで暑い。地球の異常気象はここまで進んでいたのか」
立派に聳え立つ桜の木も今や青々とした葉を咲かせつつある。もしや温暖化も異能力者のせいではあるまいな、と不安に感じるも、世の中の不思議そのものを全て押し付けてはいけないと改める。
ーーー学校復帰まで残り三週間。さて、この期間をどう有効活用するか。
とりあえず顔見知りや数人のクラスメイトには見舞いに行った。一応課題が出ているのでそれにも手をつけなければならない。だが、何より行動すべきなのは…
篠崎さんの頼み、である。
あの日の放課後、篠崎さんから新らしく頼まれたのは「長山さんと仲良くする」と言う全くもって笑えそうな内容だった。本人は真剣そのものだったが。
はっきり言おう。無茶だ。篠崎さんが僧侶ならナガッチはバーサーカー。言葉一つで態度が豹変する。特に俺に対する扱いが最近どんどん狭まっていた。さらに前回の暴走、今の心情として当然ながらあまり話したくない。
ーーーでもなぁ、そしたら頼みは解決されないし。はあ、どうして俺いいよって言ったんだろう。
篠崎さんの言い分も分かる。せっかく出来た交友関係がまた一人の人間によってぶち壊されたらたまったもんじゃない。それだったら今のうちにその可能性のある人物と仲良くなったら良いって言うのも考えとしては悪くなかった。
相手がナガッチという点を除けば。
魔道具に暴走させられていたのであれば大丈夫………なのか? とにかく今はこれをどう対処するか、悩みは尽きなかった。
ーーーいったいどうすりゃ、
「あの、すいません。この辺りに、病院はありますか?」
「……は?」
道路脇を歩く自分に何やら話しかける人間がいた。パッと目をやれば、そこには金髪ショートヘアの言わずもがな外国人美少女がこちらを向いている。
「え、俺に聞いてる?」
「他に誰かいるでしょうか」
ニコッと顔を綻ばせる少女に、ウッと心が締め付けられた。悪意のないその表情、百点満点の笑みに現役高校生はたじろいだ。
「病院だっけ」
「はい」
「……一番近い場所で黒林耳鼻科クリニックがあるけど、」
「ではそこにしましょう」
スムーズに進む話し合い、けれど何か少女は勘違いしてる気がする。二度の返事で立ち去ろうとする少女に「ちょっと待て!」と声を荒げる。
「はい?」
「お前、耳鼻科が何をする場所か分かってる?」
「分かりませんが、行けば教えてくれるでしょう」
そう言って再びその場を去ろうとする少女、今度は彼女の手を捕まえる。
「おい、止まれ」
「どうかしました?」
「どうかしたのはお前だ。病院には色々種類があるんだ。自分が今かかってる病を理解した上で行きたい場所を言ってくれ」
「私は別に病にかかっておりませんよ」
「何なの、お前⁉︎」
ギョッとして俺は少女から離れるように身を仰け反らせた。少女にしてはえらく丁寧な口調でありながら頭はボケているような印象が強い。天然……いやただのバカじゃね?
服装は地味、瞳に宿る感情は乏しく攻撃性が皆無。逆に言えば、薄っすら安心できる包容力が漂っていた。
なるべく疲れを出さず、それでいて言葉を選び核心を迫るよう俺は問いただす。
「なら、何でお前は病院に行きたいんだ」
「そこに患者がいるからです」
「あー、だめだこりゃ」
やっぱりバカだ、という言葉がもう一度迫り上がってきたが、俺はグッと堪える。
1足す1は何かを問われて計算、と答えられたような感じ。言葉の意味が異なっている。酷く天然ボケしてる少女に思わず頭を押さえつつ、一つ質疑を付け加える。
「……だったら、病気でもないお前は病院に行って、患者を見るだけか? もしかして家族のお見舞い?」
「いいえ。お見舞いする家族はおりません。病院へは人探しですよ」
「人探し?」
「ええ、ある方が入院しているのです。どこの病院か忘れましたけど」
それだと人探しにならねえよ、両腕を上げギブアップとアピールする。そういやそうでしたね、と今更すぎる呟きが聞こえたので、俺は本当の意味で呆れ果てた。
「しかし困りましたね。ある人物を探してこい、と言われたのに、これでは怒られてしまいます」
「しょうがないだろ、ちゃんと情報を収集して出直してこい」
「……そうですね、そうさせていただきます」
答える声は、何の気無しの回答だった。ありがとう、と小声で口を開き、少女はゆっくりと俺とは逆方向に進んでいった。
ーーーいったい何だったんだ?
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