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第一章

四十一話 絶対に変わらないもの

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 戦いは終わった。 
 警察が踏み込んでくる二分前、各場所を徘徊していた生徒が一斉に動きを止め、その場に倒れ伏したと言う。警察は不審がってたようだが、上からの圧力でも消され完全に闇の彼方に消されたらしい。 

「あれほど交通整備をしておったのに、哀れ以外の言葉が思いつかんのぉ」 
 
 ナガッチが暴走、そして篠崎さんが彼女の能力を消したその二日後、俺は爺さんから説明を受けた。楽しそうに話す様子を見るに多分コイツの部署が隠ぺいしたのだろう。 
 
 やっぱ能力者って怖え~。 

 ナガッチは執行人専属の能力者病院で保護してるとのこと。
 篠崎さんの能力で消してとはいえ、副作用みたいなものが起こるとは限られない。状況を見ながら対応を改めると言っていた。 
 
 当初、「本当にナガッチを止められたとは……」と信じきれなかった俺に爺さんがこと細かく解説してくれた。篠崎さんがナガッチの心の奥底に入り込み、悪戦苦闘はしたもののなんとか倒し切ったという事実。

 出来事はちょうど俺が中谷を通し切った直後だった。俺が大きな怪我をしないで済んでことに爺さんがびっくりしておりそれに怒鳴り散らかしたのはしょうがないと思う。 
 
 とはいえ、あれから一週間。様々なことが変化した。 
 

 例えば、、 
 

・・・ 


「よう。元気そうだな」 
「へ、見舞いとは。お前らしくねえな」 

 病室で横たわる中谷。とりあえず減らず口を叩くぐらいの元気があることに安心した。
 
 コイツのいる病院は学校近くの大学病院。     
 学校で操られていた人間たちは最寄りの病院で治療中らしい。軽症者が殆どを占める中、一週間ほど療養するようだ。 

「聞いたか、学校の教職員にも被害者がいるらしくて暫くは休校だってよ」 
「うっわ。まったく嬉しくねえ」 
「病院生活かわいそー」 
「思ってねえだろ」 
 
 はは、と笑いながらいつもと同じように会話をする俺たち。何一つ変わってない中谷に、俺は自然と楽しくなってくる。 
 
 今回の事件。半数以上の生徒及び教職員が負傷、生徒が学校外で徘徊する姿が目撃される、被害者一部記憶障害、などのテレビ局が喉から手が出る事件にもかかわらず報道番組では驚くほど扱われなった。

 当時居合わせた目撃者が撮った事件現場も知らないうちに削除され、警察すら証拠を残すことが出来なかった。 

―――絶対、執行人の仕業。一般人にバレちゃいけないからってすげえ本気だ。 
 
 大方、事件は闇に葬られ、真相は遠く彼方へ消されることだろう。よくて二十年後ぐらいに不思議な出来事として取り上げられるのがいいところ。 
 
 巻き込まれた被害者は事件の時の記憶がぽっくり抜け落ちているため、そもそも何が起こってるか理解していない。巻き込まれなかった目撃者の生徒については……。 

「抜かりねえ……」 
「どうした樹」 
「いや、なんでもない」 

 コホン、と咳ばらいをして俺は中谷に向き合う。けったいな顔をしている中谷に俺は指を押し付けた。 

「中谷、お前。俺が電話した時、何があったか聞きたそうにしてたよな」 
「そんなこともあったな」 
「誰にも言ってなかったんだけど、俺ある約束引き受けてるんだ」 
「約束……か」 
 
 中谷が病室の枕に体を預けるのを確認した俺は、今まで明かしてこなかったことを公開した。 
 
 篠崎さんの振る舞い、友達のつくり方。彼女の頼みを俺が引き受けたこと、内緒ながらに自分で考えて実行し途中失敗したこと。雲斎がしゃしゃり出てきて篠崎さんと俺の体制に突っ込んできたこと。三人で作戦を考えナガッチに打ち砕かれたこと。

 その後、行方をくらました篠崎さんを一人で探しに行ったこと。能力者や執行人に関係あること以外、俺が彼女に影響された全部を中谷に開放した。 

「…………」 
 
 顔を俯け、黙ったまま時間が過ぎる。俺も中谷も言葉を発さない。かなりの時間、沈黙は続いた。 

「………………………俺もさ、黙ってことがあったんだ」 
「…」 
「前に電話の時、話したいことがあるって言ったよな」 
「……ああ、そうだったな」 

 篠崎さんの居場所を探していた時、コイツが何かを言おうとしていた。 

 もしかして、俺が秘密にしていたのと同様に中谷にも隠していたことがあったのか。 

「実はな、去年の三月ごろナガッチと仲良くなったんだよ」 
「!」 

―――マジか! そんな片鱗分かんなかったぞ! 
 
 こっちの内心を見通すかの如く得意げに中谷は話す。 

「三週間ぐらいで意気投合して、なんかいいなって思ったとき言われたんだよ。『あんた、西岡と友達よな』って。そんとき目が覚めた。俺はナガッチに利用されてるんだって。…… でも、無理だったんだよ」 
「中谷……」 
「彼女と離れようとしても気持ちが離れられない。どんどんとのめり込んでしまう。気が付けば、俺はお前とナガッチを支援する立場に座っていた」 
「お前、だから」 
「そうさ。俺はナガッチを援護する発言ばっかして、お前らをくっつけようとしてたんだ!」 
 
 大きな声で告げるコイツを俺は責められない。そりゃ俺の気持ちを無視してこんな事やってたら文句の一つも言いたくなるけど、 

―――ナガッチの好感度を操作する能力、中谷もその犠牲になったってことかよ。どうりで掃除や朝の時と言い、ナガッチを守るようなセリフを吐いてたのか。 

「すまん、樹。俺は……」 
「いいよ、気にすんな。アイツの言動は俺でも止めるもむずいし、つーかお前やナガッチが何言おうとこっちの気持ちはずっと低空飛行だから」 
「いいのか?」 
「全然。つうか今の沈黙ってそれ悩んでくれてたのか。なら、それを思い悩み時点でお前は俺の親友だ。何年の付き合いだと思ってる、あんま馬鹿にすんじゃねえ」  

 そう言って笑い飛ばすと俺はずっと気になってた事実を話した。 

「そういやお前、事件のとき学校に居たらしいけど、俺と電話した時下校中じゃなかったか?」 
「ああ、電話の少しあとに学校に隠しっぱなしにしてたものがあったのを思い出してな」 
「ほうほう、隠しっぱなしに………ねえ」 
 
 言いながらガサガサとそばにあったカバンを弄る中谷に俺は不思議と青筋が現れていた。 
 
 その数秒後、 

「あったあった。これこれ、お前のロッカーの鍵ー」 
「てめえふざけんじゃねえぞ‼」 
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