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第一章
三十七話 ヤバい!
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〈篠崎〉
「西岡くん。無事かな」
「んまあ、心配ないじゃろ。たぶん」
「…」
無言。
今思ったが、私がこの人と二人きりなのは初めてだった。コツコツ足音を響かせる此処は一階へつながる階段。この下が食堂だった。
「すまんのぉ、若いのに無理させおって」
気まずさを破るかの如く、彼は呟くがそれに私は首を振る。
「いいんです……」
「怖くないんか、長山陽葵とは。言っちゃ悪いが印象はよくないじゃろう」
この騒動、本来であれば私という存在を使いたくなかった。そんな意思がこの人からは流れて出る気がする。
この後、たとえ拒絶されても仕方がない、そう諦観した雰囲気に私は違う言葉をかけた。
「印象はよくないけど、正直に言ってて嬉しいです」
「嬉しい?」
「はい。私、去年までずっと孤独な学生生活を送ってて。決して恵まれてるとは思えない周囲に頑張って耐えて、今年もそうだと気を確かめていたんです」
排除されたラノベ好きだけじゃない。凝り固まった態度もその一つ。救われることなんてないと思ってた。
「でもそうじゃなかった。話しかけてくれる人がいた。私を知ったうえで一緒に登校してくれる人がいた。……攻撃されて、学校に行けなくなってそれでも心配してくれる人がいた。
……ここにくるまで諦めてたけど、神様は私に最後のチャンスをくれたんです。だったら、、今度は自分の意志でなんとかしてみようって。自分の力で問題を解決してみようって。それをしたらきっと何かが変わる。そう思いました」
今日は朝から泣いていた。やっと踏み出せると思ったのに、ずっとベッドの上でうずくまっていた。人形を抱きしめていた。全てを投げ捨てることさえ止められた。そんな私になんの価値があるんだって………………。
「これが本当の意味での最後のチャンス。どうなっても構わない、そう思ってます。だって一度終わらせようとしてたから。けど、だったら半端な覚悟で挑むわけにはいけないんです。このチャンスを無駄にしないために……」
「…」
「って、すいません。何話してんだろ、私」
「………成長しとる」
ふと見れば優しそうに微笑む爺さん。
「屋上で泣いていたお嬢ちゃんにはちと酷だと思ったんじゃが、既に乗り越えていたとはな」
「恥ずかしいです」
距離感はぎこちなかったけど会話は普通に成立していた。話しながら、いつの間にか階段を下っていた私たち……突如その刹那、何かが押し寄せた。
「!」
「ほう、数打てば鉄砲も当たるというが、三度目で場所が当たるとは」
辺りの空気が鋼のように重く、氷のように冷たくなる感覚。彼女の居る場所は散策して、ようやく見つけた。
尋常じゃない予感は、こうしてる間にも、刻一刻と際限なく強まっていく。
何かが、いる。
人知を超えた……とてつもなく強大な何かがーここに、ある、と。
そして、じわじわと膨れ上がるその圧倒的な存在感が、私の感覚を無理やり覚醒させ、その肌をぴりぴりとしびれさせていく。
思わずちょっとたじろいだ私を後ろから爺さんが押さえてくれた。
「ありがとうございます」
「よいよい。自分のタイミングで、敵を見据えろ」
「はい」
ぎゅっと手を握りしめ、電気の消える食堂を見渡す。
逆光の差し込むカウンター、その向こう側に一人の女子生徒が悠然と佇んでいた。
何の変哲もない制服をまとった黒髪ロングヘア―の生徒。
長山陽葵、その人だ。
・・・
「んぎゃー!!!」
追われる追われる追われる。部屋から抜け出しどこかへ隠れていようと道を確かめた瞬間、生徒が群れて襲い掛かられた。下手なB級パニック映画よりも阿鼻叫喚な景色にぞっとする暇もない。立ち止まったら飛びつかれゲームオーバー、それだけだ。
「そうだ、確か本棟って別棟と繋がってなかったっけ。運が良ければ逃げられ……」
ガツン!っと後方からの金属音。見ればとんでもない音を立てて接近する生徒の山。一戸の巨大な音の渦が自身の鼓膜を叩く。
意思とか感情はないのだろう。白目をむいた眼球に朦朧とする表情、正気の沙汰ではない。生徒の具合は朝から変わっていな、、いや寧ろ悪化している。互いに互いの体を重ねて無理やり進軍、操られてるのは明確だった。
「あのままじゃ真ん中の生徒が押しつぶされるぞ。何考えてんだ、ナガッチは!!」
そういう俺も逃げるので手いっぱいでとても助けられない。そろそろ足を動かし続けるもの億劫だ。
―――麻酔銃なんて物騒なもん使いたくなかったけど、これじゃあ使ったところで無意味だろうが!
押し寄せる生徒の大群のたかが一人を行動不能にしたところで、残る連中に追いつかれる。まさにジレンマ、そのもの。
「がああああああああ!!」
「うるせえ! 気色悪い叫び声上げやがって。せめて女子の萌えボイスを聞かせやがれ!」
そんな間にも背後から無数の殺人兵器と化した者が迫りくる。着実に、集合体のごり押しで。必殺の距離へと詰めてくる。
だが、希望はある。
今走る幅の広い廊下、此処の行きつく先のコーナーには階段が二つ。屋上へ繋がる上階段と二階へと繋がる下階段。仕掛けるには此処しかない。
ちゃんと付いて来てるのを確認し、一足早く上階段に乗り込む。スロープを掴んで態勢を反転、生徒の山に体を向けると、
「食らいやがれ!」
がくがくと震える手で銃を発射した。
押し寄せる生徒の一人を行動不能にしても意味がない?―ただの廊下ならそうだが俺が居るのは階段。それも登り。そこに体を重ねて無理やり進軍する生徒たちが来たらどうなるか。
「ぎゅあああああああ」
「へ、ざまみろ」
一人が倒れ、それを巻き込んでいた他の奴らがバランスを崩して階段から落っこちる。平坦な道じゃない、体制を戻すには時間が掛かるという寸法。
「お先、行かせてもらうぜ」
捨てセリフを吐き、俺は残った体力をフル活用させ二階に走った。
「西岡くん。無事かな」
「んまあ、心配ないじゃろ。たぶん」
「…」
無言。
今思ったが、私がこの人と二人きりなのは初めてだった。コツコツ足音を響かせる此処は一階へつながる階段。この下が食堂だった。
「すまんのぉ、若いのに無理させおって」
気まずさを破るかの如く、彼は呟くがそれに私は首を振る。
「いいんです……」
「怖くないんか、長山陽葵とは。言っちゃ悪いが印象はよくないじゃろう」
この騒動、本来であれば私という存在を使いたくなかった。そんな意思がこの人からは流れて出る気がする。
この後、たとえ拒絶されても仕方がない、そう諦観した雰囲気に私は違う言葉をかけた。
「印象はよくないけど、正直に言ってて嬉しいです」
「嬉しい?」
「はい。私、去年までずっと孤独な学生生活を送ってて。決して恵まれてるとは思えない周囲に頑張って耐えて、今年もそうだと気を確かめていたんです」
排除されたラノベ好きだけじゃない。凝り固まった態度もその一つ。救われることなんてないと思ってた。
「でもそうじゃなかった。話しかけてくれる人がいた。私を知ったうえで一緒に登校してくれる人がいた。……攻撃されて、学校に行けなくなってそれでも心配してくれる人がいた。
……ここにくるまで諦めてたけど、神様は私に最後のチャンスをくれたんです。だったら、、今度は自分の意志でなんとかしてみようって。自分の力で問題を解決してみようって。それをしたらきっと何かが変わる。そう思いました」
今日は朝から泣いていた。やっと踏み出せると思ったのに、ずっとベッドの上でうずくまっていた。人形を抱きしめていた。全てを投げ捨てることさえ止められた。そんな私になんの価値があるんだって………………。
「これが本当の意味での最後のチャンス。どうなっても構わない、そう思ってます。だって一度終わらせようとしてたから。けど、だったら半端な覚悟で挑むわけにはいけないんです。このチャンスを無駄にしないために……」
「…」
「って、すいません。何話してんだろ、私」
「………成長しとる」
ふと見れば優しそうに微笑む爺さん。
「屋上で泣いていたお嬢ちゃんにはちと酷だと思ったんじゃが、既に乗り越えていたとはな」
「恥ずかしいです」
距離感はぎこちなかったけど会話は普通に成立していた。話しながら、いつの間にか階段を下っていた私たち……突如その刹那、何かが押し寄せた。
「!」
「ほう、数打てば鉄砲も当たるというが、三度目で場所が当たるとは」
辺りの空気が鋼のように重く、氷のように冷たくなる感覚。彼女の居る場所は散策して、ようやく見つけた。
尋常じゃない予感は、こうしてる間にも、刻一刻と際限なく強まっていく。
何かが、いる。
人知を超えた……とてつもなく強大な何かがーここに、ある、と。
そして、じわじわと膨れ上がるその圧倒的な存在感が、私の感覚を無理やり覚醒させ、その肌をぴりぴりとしびれさせていく。
思わずちょっとたじろいだ私を後ろから爺さんが押さえてくれた。
「ありがとうございます」
「よいよい。自分のタイミングで、敵を見据えろ」
「はい」
ぎゅっと手を握りしめ、電気の消える食堂を見渡す。
逆光の差し込むカウンター、その向こう側に一人の女子生徒が悠然と佇んでいた。
何の変哲もない制服をまとった黒髪ロングヘア―の生徒。
長山陽葵、その人だ。
・・・
「んぎゃー!!!」
追われる追われる追われる。部屋から抜け出しどこかへ隠れていようと道を確かめた瞬間、生徒が群れて襲い掛かられた。下手なB級パニック映画よりも阿鼻叫喚な景色にぞっとする暇もない。立ち止まったら飛びつかれゲームオーバー、それだけだ。
「そうだ、確か本棟って別棟と繋がってなかったっけ。運が良ければ逃げられ……」
ガツン!っと後方からの金属音。見ればとんでもない音を立てて接近する生徒の山。一戸の巨大な音の渦が自身の鼓膜を叩く。
意思とか感情はないのだろう。白目をむいた眼球に朦朧とする表情、正気の沙汰ではない。生徒の具合は朝から変わっていな、、いや寧ろ悪化している。互いに互いの体を重ねて無理やり進軍、操られてるのは明確だった。
「あのままじゃ真ん中の生徒が押しつぶされるぞ。何考えてんだ、ナガッチは!!」
そういう俺も逃げるので手いっぱいでとても助けられない。そろそろ足を動かし続けるもの億劫だ。
―――麻酔銃なんて物騒なもん使いたくなかったけど、これじゃあ使ったところで無意味だろうが!
押し寄せる生徒の大群のたかが一人を行動不能にしたところで、残る連中に追いつかれる。まさにジレンマ、そのもの。
「がああああああああ!!」
「うるせえ! 気色悪い叫び声上げやがって。せめて女子の萌えボイスを聞かせやがれ!」
そんな間にも背後から無数の殺人兵器と化した者が迫りくる。着実に、集合体のごり押しで。必殺の距離へと詰めてくる。
だが、希望はある。
今走る幅の広い廊下、此処の行きつく先のコーナーには階段が二つ。屋上へ繋がる上階段と二階へと繋がる下階段。仕掛けるには此処しかない。
ちゃんと付いて来てるのを確認し、一足早く上階段に乗り込む。スロープを掴んで態勢を反転、生徒の山に体を向けると、
「食らいやがれ!」
がくがくと震える手で銃を発射した。
押し寄せる生徒の一人を行動不能にしても意味がない?―ただの廊下ならそうだが俺が居るのは階段。それも登り。そこに体を重ねて無理やり進軍する生徒たちが来たらどうなるか。
「ぎゅあああああああ」
「へ、ざまみろ」
一人が倒れ、それを巻き込んでいた他の奴らがバランスを崩して階段から落っこちる。平坦な道じゃない、体制を戻すには時間が掛かるという寸法。
「お先、行かせてもらうぜ」
捨てセリフを吐き、俺は残った体力をフル活用させ二階に走った。
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