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第一章
二十九話 異変
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「は⁉︎」
早朝。パチンと目が覚める。メルカリで売る予定の目覚まし時計に目をやるとちょうど六時半。
初日ほど慌てる時間ではないと言いつつ、制服に着替え冷凍庫の中から凍った食パンを取り出した。
オーブントースターで温めてる間に身支度をして「朝ごはんを食べるという作業」以外全て終わった事を確かめて、食パンを口に咥える。
そうして、四十五分に家を出発したのだが……学校の最寄りの駅に着いた瞬間、変な光景を目撃した。
「どうなってるんだ?」
幾度となく頼りない足取りで頭を前にして歩く生徒。酒に溺れたおっさんの如く、フラフラとした体つきはどう見ても映画のワンシーン、又はゾンビ化する酷たらしい病原菌に侵された人そのもの。疑う余地もなく常人とは理屈が違った。
漫画の一枠のような通学路にギョッとする心を落ち着かせるために、ひとまず近場のコンビニに駆け込む。
「はあはあ」
ドアを開き、息を切らせながら出入り口の製品売り場まで至った俺は外の有様を警戒する。
―――実はドラマの撮影だったり……しないな、これ。襲ってはこなさそうだから大丈夫なのか?
今のところ風体が変なのは生徒限定。それも全員ではなく、二割ぐらいの生徒は「なんだ、これ⁉︎」と道端で動転している様子から、生徒主催のイベントとかではなさそうだ。一般人も道端の生徒と似た反応のため、地域恒例の祭りとかでもない。
であれば、いったい何だ?
誰かに噛み付く、襲うなどといった反応は起きてない。周囲にばら撒かれたウイルス性の病気の線は薄い、奇異な生徒に変わった傷や腐敗の痕はぱっと見なさそう。五分程度考え、身の安全をチェックして、恐る恐るコンビニのドアから頭を出した。
「………」
一斉に視線が集まる、、なんて事は起きなかった。ホッとして体全身を完全にドアから離す。出で立ちがおかしい生徒達はこちらなど知らんぷりで一定の速度で歩き続ける。走ったり止まったりせず、常にマイペース且つ程度な歩き方。
―――何だ、まるで誰かに全員が操られてるみたいな…
そんな漫画みたいな展開、とはいえこの状況が漫画そのもの。そこまで考えて俺は、邪魔にならないよう、端に詰め寄って彼らを観察した。数分の間隔で十人前後の生徒が通っていく中、誰もが一方向に進んでいるのを推察。
目線の先には道路を跨ぐ巨大な橋が露わになり全員が全員、あそこを通るのをばっちし立証できた。
橋の名前はこの際どうでもいい。問題はその橋が学校に向かうための通学路の一つで、最も近道だということだ。橋を渡りきれば俺と中谷が初日に並走した交差点付近が出現し、そこで別れ道を行くと東通りに繋がってくる。
こんな場所を過ぎ去る人間はうちの生徒が多く、この時間に通る生徒は間違いなく学校をから来てる! それ以外考えられない、絶対に!
―――と、とにかく逃げる。今は命の方が惜しい。
つうことで、行かないと決意した俺に……携帯の電話がポケットから音を轟かせた。
最近の電話関連は嫌な事例が多いからと重い風情に包まれながら携帯を取る。
相手によっては切ると決意していた俺は、表示された画面を見て少々驚嘆した。
「雲斎…?」
もしかすると、昨日の俺からの電話についてか? そう思い、どこか物怖じしながら応じる。
「もしもし雲斎」
「……」
何やら小さな声で文を呟く雲斎。様子が妙だと感じつつ、必死に呼びかける。
「すまん。電波の調子が悪いかもしれない。面倒だがもうちょっと後に、」
「きて」
「ん? なんて?」
「今すぐに学校に来て」
「は? 今、外が大変―」
「来て…………………たす、……けて」
プツっと言葉を発しようとした瞬間、電話が切られる。
―――よく聞き取れなかったけど、最後途切れそうな声で言ってた。『助けて』って。
内容的にどうやら雲斎は学校に居るらしい。
学校外でこれだけ異様な情景が広がっているのだ。歩く不気味な生徒がやってくるのも学校だし非常に危ない事件が起きているのかもしれない。だがここで助けに行ったところでそれは救いになるのか。寧ろ俺まで被害に遭って本末転倒な気もするが……
―――いや、違うな。なにかと理由をつけて行かないようにしてるだけか。
万が一、雲斎その他大勢の生徒が大変な目に巻き込まれているのだとしたら、ここで俺が留意するのは常識的に正解。
では、自分自身の心情も考慮して考えると………話は逸脱して変わってくる。何年経ってもこの場で足を踏み出さなかった自分に一生、後悔という重りを嵌めることになるのは嫌だ。蹲って身の安全しか守れない人間にはなりたくない。篠崎さんの為にも雲斎は助けたい。
心の中での方針が変わった。怖いけど……、念のため、警察に連絡を入れてから俺自身も乗り込もう。行った先でできる事の一つや二つぐらい、ある筈だ。辺りに頭のおかしい人間が徘徊する中、道を同じくして俺も進んだ。
*****
〈謎の二人組〉
「やはり上とは連絡が取れんか」
「大丈夫かな?」
「向こうは心配ないじゃろう、何せ強者揃いだからの」
瞼を閉じてとんがり帽子を被った少女は、自分と同様にとんがり帽子を付けた老人に軽く忠告を入れられる。彼は少女を気にかけながら、気を感じ取る。
「余りにも大きすぎる。これでは使用者自身も制御不能になりかねんぞ」
「多分既になってる。私たちが普段使うやつとは桁が大きく違う、今はいいけど行使をやめる時、ストップすられないかも」
目元を細めて事態を把握する少女。二人がいる場所は前と同じ東通りの高台。学校付近の状況が明らかに異なることを聞きつけた二人は場面を推察し、現時点の在り方に身構える。
「……本当に言う通りになった」
「だからこそ、わしらはこの状況を打倒せねばなるまい」
「最小限の犠牲で物事を完遂する」
「その通り。……敵の寝首を掻いてやるまで」
少女は顔を学校の方角に向け、自分が能力範囲をそっと眺め持続する。
だがそれも直ぐに打ち消された。
「爺じ、学校に正気な人間が入ってきてる」
「皆逃げ帰っておる、正気な奴などこの辺りは残ってなかったはずじゃ」
「でも居るの。制服だから生徒みたいだし」
「生徒じゃと!」
物珍しい出来事に老人は興味を持ち、その生徒に身なりを問いかける。
「えーと、………ああ、ミィがマークしてたやつ。爺じは会ってたと思う」
「西岡樹……か?」
「うん」
「あの男、やはりイレギュラーか。……ミィ、一つ思いついたのじゃが」
「りょ」
「まだ何も言っとらんが」
早朝。パチンと目が覚める。メルカリで売る予定の目覚まし時計に目をやるとちょうど六時半。
初日ほど慌てる時間ではないと言いつつ、制服に着替え冷凍庫の中から凍った食パンを取り出した。
オーブントースターで温めてる間に身支度をして「朝ごはんを食べるという作業」以外全て終わった事を確かめて、食パンを口に咥える。
そうして、四十五分に家を出発したのだが……学校の最寄りの駅に着いた瞬間、変な光景を目撃した。
「どうなってるんだ?」
幾度となく頼りない足取りで頭を前にして歩く生徒。酒に溺れたおっさんの如く、フラフラとした体つきはどう見ても映画のワンシーン、又はゾンビ化する酷たらしい病原菌に侵された人そのもの。疑う余地もなく常人とは理屈が違った。
漫画の一枠のような通学路にギョッとする心を落ち着かせるために、ひとまず近場のコンビニに駆け込む。
「はあはあ」
ドアを開き、息を切らせながら出入り口の製品売り場まで至った俺は外の有様を警戒する。
―――実はドラマの撮影だったり……しないな、これ。襲ってはこなさそうだから大丈夫なのか?
今のところ風体が変なのは生徒限定。それも全員ではなく、二割ぐらいの生徒は「なんだ、これ⁉︎」と道端で動転している様子から、生徒主催のイベントとかではなさそうだ。一般人も道端の生徒と似た反応のため、地域恒例の祭りとかでもない。
であれば、いったい何だ?
誰かに噛み付く、襲うなどといった反応は起きてない。周囲にばら撒かれたウイルス性の病気の線は薄い、奇異な生徒に変わった傷や腐敗の痕はぱっと見なさそう。五分程度考え、身の安全をチェックして、恐る恐るコンビニのドアから頭を出した。
「………」
一斉に視線が集まる、、なんて事は起きなかった。ホッとして体全身を完全にドアから離す。出で立ちがおかしい生徒達はこちらなど知らんぷりで一定の速度で歩き続ける。走ったり止まったりせず、常にマイペース且つ程度な歩き方。
―――何だ、まるで誰かに全員が操られてるみたいな…
そんな漫画みたいな展開、とはいえこの状況が漫画そのもの。そこまで考えて俺は、邪魔にならないよう、端に詰め寄って彼らを観察した。数分の間隔で十人前後の生徒が通っていく中、誰もが一方向に進んでいるのを推察。
目線の先には道路を跨ぐ巨大な橋が露わになり全員が全員、あそこを通るのをばっちし立証できた。
橋の名前はこの際どうでもいい。問題はその橋が学校に向かうための通学路の一つで、最も近道だということだ。橋を渡りきれば俺と中谷が初日に並走した交差点付近が出現し、そこで別れ道を行くと東通りに繋がってくる。
こんな場所を過ぎ去る人間はうちの生徒が多く、この時間に通る生徒は間違いなく学校をから来てる! それ以外考えられない、絶対に!
―――と、とにかく逃げる。今は命の方が惜しい。
つうことで、行かないと決意した俺に……携帯の電話がポケットから音を轟かせた。
最近の電話関連は嫌な事例が多いからと重い風情に包まれながら携帯を取る。
相手によっては切ると決意していた俺は、表示された画面を見て少々驚嘆した。
「雲斎…?」
もしかすると、昨日の俺からの電話についてか? そう思い、どこか物怖じしながら応じる。
「もしもし雲斎」
「……」
何やら小さな声で文を呟く雲斎。様子が妙だと感じつつ、必死に呼びかける。
「すまん。電波の調子が悪いかもしれない。面倒だがもうちょっと後に、」
「きて」
「ん? なんて?」
「今すぐに学校に来て」
「は? 今、外が大変―」
「来て…………………たす、……けて」
プツっと言葉を発しようとした瞬間、電話が切られる。
―――よく聞き取れなかったけど、最後途切れそうな声で言ってた。『助けて』って。
内容的にどうやら雲斎は学校に居るらしい。
学校外でこれだけ異様な情景が広がっているのだ。歩く不気味な生徒がやってくるのも学校だし非常に危ない事件が起きているのかもしれない。だがここで助けに行ったところでそれは救いになるのか。寧ろ俺まで被害に遭って本末転倒な気もするが……
―――いや、違うな。なにかと理由をつけて行かないようにしてるだけか。
万が一、雲斎その他大勢の生徒が大変な目に巻き込まれているのだとしたら、ここで俺が留意するのは常識的に正解。
では、自分自身の心情も考慮して考えると………話は逸脱して変わってくる。何年経ってもこの場で足を踏み出さなかった自分に一生、後悔という重りを嵌めることになるのは嫌だ。蹲って身の安全しか守れない人間にはなりたくない。篠崎さんの為にも雲斎は助けたい。
心の中での方針が変わった。怖いけど……、念のため、警察に連絡を入れてから俺自身も乗り込もう。行った先でできる事の一つや二つぐらい、ある筈だ。辺りに頭のおかしい人間が徘徊する中、道を同じくして俺も進んだ。
*****
〈謎の二人組〉
「やはり上とは連絡が取れんか」
「大丈夫かな?」
「向こうは心配ないじゃろう、何せ強者揃いだからの」
瞼を閉じてとんがり帽子を被った少女は、自分と同様にとんがり帽子を付けた老人に軽く忠告を入れられる。彼は少女を気にかけながら、気を感じ取る。
「余りにも大きすぎる。これでは使用者自身も制御不能になりかねんぞ」
「多分既になってる。私たちが普段使うやつとは桁が大きく違う、今はいいけど行使をやめる時、ストップすられないかも」
目元を細めて事態を把握する少女。二人がいる場所は前と同じ東通りの高台。学校付近の状況が明らかに異なることを聞きつけた二人は場面を推察し、現時点の在り方に身構える。
「……本当に言う通りになった」
「だからこそ、わしらはこの状況を打倒せねばなるまい」
「最小限の犠牲で物事を完遂する」
「その通り。……敵の寝首を掻いてやるまで」
少女は顔を学校の方角に向け、自分が能力範囲をそっと眺め持続する。
だがそれも直ぐに打ち消された。
「爺じ、学校に正気な人間が入ってきてる」
「皆逃げ帰っておる、正気な奴などこの辺りは残ってなかったはずじゃ」
「でも居るの。制服だから生徒みたいだし」
「生徒じゃと!」
物珍しい出来事に老人は興味を持ち、その生徒に身なりを問いかける。
「えーと、………ああ、ミィがマークしてたやつ。爺じは会ってたと思う」
「西岡樹……か?」
「うん」
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