19 / 51
第一章
十九話 不善
しおりを挟む
今日も今日とて鍵がないため、なくなく体育館履きを代わりに教室のドアに手を掛けた。
作戦を要綱しておく。ざっくりとした順序は昨日立てた作戦の通りだが、先陣を切ってするのは那覇士さんとの関係修復だ。
『那覇士さんは、家で娯楽を禁止されてる。その真相に至らなかったことをまずは謝る。交流を深めていくのはそれからよ』
『具体的にどう言えばいいの?』
『軽ーく言うのはあんまりだから。そうね、アタシが放課後に呼び止めるからその時に言うのがベストかしら』
『わかった、やってみる』
―――朝の段階で那覇市さんの気分が沈んでいたらなるべく平常に戻してほしい、って言われても気まずさMAXだし、どうするべきか。
篠崎さんばかり構うわけにもいかない。こちとら男子のクラス関係に指先ひとつ浸かってないので、そろそろ顔を出さないといけない。中谷が捌いてくれてると言っても限度があるはずだ。
兎にも角にも悩むのは後、教室の雰囲気で決めよう、とドアをオープンさせれば……信じられない光景が広がっていた。
「那覇士さん、よかったら本を貸し出すけど、好きなジャンルは何や」
「好きな、ジャンル……?」
「正直に言いなさいな。お嬢が困ってるでしょ」
「そうよ、言わない方が迷惑だとどうして気づかないの、ねえお嬢」
俺の後ろから来たナガッチが何故俺より早く来てるか、そんな些細な事情はどうでもよかった。問題なのは、どうして那覇士とナガッチが一緒に話しているのか、だ。
「そんな顔をするってことはお前も知らねえんだな、樹」
「中谷……」
肩に手を当てた中谷に俺は視線を合わせる。柄にもなく疑問を乏しているあたりコイツも知らないのだろう。前触れもないことがらのなのか、教室中が驚愕するムードに飲まれ誰もが彼女達に注目していた。
「いつからだ、あれ」
「俺が教室に入った時は既に。けど那覇士さん側が遠慮しがちなのか、なんか噛み合ってないんだよ」
「取り巻きが邪魔。あいつら名前なんだっけ?」
「親分に付き従う子分共の名前を把握してるわけないだろ」
テヘヘ、舌を出す中谷。右手で頭を叩くと、痛ーいとわざとらしく振る舞いながら俺に体を近づける。
「篠崎さんは今どこにいる?」
「今日は雲斎と同伴して来るって言ってたけど。って、何故篠崎さん…?」
「いいから。お前は今日一日、篠崎さんに近づくな。でないとえらくまずいことが起こる」
「まずいこと…? それって一体」
ガラガラ!
閉められたドアが開かれ、困惑した雰囲気に入り込むように二人組が入室する。
俺と中谷が会話を中断し、音に視線を持っていくと、最近見知った女子の顔が二人分確認できた。
「篠崎さん…」
「ばか⁉︎ お前!!」
口を開いた瞬刻、中谷が先刻の的を向いて顔色を悪くするが、いちいち耳に入らなかった。
それよりも、雲斎と共に登校できた彼女に興味が向ける。
「なにはともあれ、まずは第一歩だな」
「うん」
心地良さそうに口元を緩ませる彼女からポカポカしたオーラが吹き出した。それを受け止めつつ彼女に近づく俺は次の刹那、横から何者かに引っ張られた。
「いで⁉︎ 雲斎なにするんー」
「あなた、アホなの!! 三人で決めた約束を半日で忘れるなんてどこまで頭がポンコツにできてるのかしら!!」
小声だが迫力ある言動に怖気付いて、思わず昨日の記憶を振り返る。
『学校で俺が篠崎さんと仲良くするのは禁止と言われ、挙げ句の果てに俺は後方支援という立場に成り下がる』
酷くやばい予感がするのだが、自分は何やら作戦を根本から覆しかねないことをたった今、行わなかったか。
「………………挨拶程度ならいいだろ」
「んなわけないでしょ!!」
ガツンっと勢いよくヘッドバンドを食らわせられ涙目になる俺を、篠崎さんが介護しようとしたところで……「貴方も同罪」と彼女も小突かれてしまった。
「……痛い」
「痛くなかったらやってないわよ」
そう言って溜息を吐く彼女に、俺は当初から感じてた疑惑を鋭く叩きつけた。
「そもそもどうして話しちゃいけないんだ。俺が誰と話してようが篠崎さんの交友関係は全く変化しないと思うけど」
「それが変化するから言ってるのよ」
これからのように。
そう、小声で言い終わると同時に近づいてくる数人の足音。目線を転向すると感心の核が詰め寄って来ていた。
「そんな低音で話さなくてもいいよな、雲斎」
作戦を要綱しておく。ざっくりとした順序は昨日立てた作戦の通りだが、先陣を切ってするのは那覇士さんとの関係修復だ。
『那覇士さんは、家で娯楽を禁止されてる。その真相に至らなかったことをまずは謝る。交流を深めていくのはそれからよ』
『具体的にどう言えばいいの?』
『軽ーく言うのはあんまりだから。そうね、アタシが放課後に呼び止めるからその時に言うのがベストかしら』
『わかった、やってみる』
―――朝の段階で那覇市さんの気分が沈んでいたらなるべく平常に戻してほしい、って言われても気まずさMAXだし、どうするべきか。
篠崎さんばかり構うわけにもいかない。こちとら男子のクラス関係に指先ひとつ浸かってないので、そろそろ顔を出さないといけない。中谷が捌いてくれてると言っても限度があるはずだ。
兎にも角にも悩むのは後、教室の雰囲気で決めよう、とドアをオープンさせれば……信じられない光景が広がっていた。
「那覇士さん、よかったら本を貸し出すけど、好きなジャンルは何や」
「好きな、ジャンル……?」
「正直に言いなさいな。お嬢が困ってるでしょ」
「そうよ、言わない方が迷惑だとどうして気づかないの、ねえお嬢」
俺の後ろから来たナガッチが何故俺より早く来てるか、そんな些細な事情はどうでもよかった。問題なのは、どうして那覇士とナガッチが一緒に話しているのか、だ。
「そんな顔をするってことはお前も知らねえんだな、樹」
「中谷……」
肩に手を当てた中谷に俺は視線を合わせる。柄にもなく疑問を乏しているあたりコイツも知らないのだろう。前触れもないことがらのなのか、教室中が驚愕するムードに飲まれ誰もが彼女達に注目していた。
「いつからだ、あれ」
「俺が教室に入った時は既に。けど那覇士さん側が遠慮しがちなのか、なんか噛み合ってないんだよ」
「取り巻きが邪魔。あいつら名前なんだっけ?」
「親分に付き従う子分共の名前を把握してるわけないだろ」
テヘヘ、舌を出す中谷。右手で頭を叩くと、痛ーいとわざとらしく振る舞いながら俺に体を近づける。
「篠崎さんは今どこにいる?」
「今日は雲斎と同伴して来るって言ってたけど。って、何故篠崎さん…?」
「いいから。お前は今日一日、篠崎さんに近づくな。でないとえらくまずいことが起こる」
「まずいこと…? それって一体」
ガラガラ!
閉められたドアが開かれ、困惑した雰囲気に入り込むように二人組が入室する。
俺と中谷が会話を中断し、音に視線を持っていくと、最近見知った女子の顔が二人分確認できた。
「篠崎さん…」
「ばか⁉︎ お前!!」
口を開いた瞬刻、中谷が先刻の的を向いて顔色を悪くするが、いちいち耳に入らなかった。
それよりも、雲斎と共に登校できた彼女に興味が向ける。
「なにはともあれ、まずは第一歩だな」
「うん」
心地良さそうに口元を緩ませる彼女からポカポカしたオーラが吹き出した。それを受け止めつつ彼女に近づく俺は次の刹那、横から何者かに引っ張られた。
「いで⁉︎ 雲斎なにするんー」
「あなた、アホなの!! 三人で決めた約束を半日で忘れるなんてどこまで頭がポンコツにできてるのかしら!!」
小声だが迫力ある言動に怖気付いて、思わず昨日の記憶を振り返る。
『学校で俺が篠崎さんと仲良くするのは禁止と言われ、挙げ句の果てに俺は後方支援という立場に成り下がる』
酷くやばい予感がするのだが、自分は何やら作戦を根本から覆しかねないことをたった今、行わなかったか。
「………………挨拶程度ならいいだろ」
「んなわけないでしょ!!」
ガツンっと勢いよくヘッドバンドを食らわせられ涙目になる俺を、篠崎さんが介護しようとしたところで……「貴方も同罪」と彼女も小突かれてしまった。
「……痛い」
「痛くなかったらやってないわよ」
そう言って溜息を吐く彼女に、俺は当初から感じてた疑惑を鋭く叩きつけた。
「そもそもどうして話しちゃいけないんだ。俺が誰と話してようが篠崎さんの交友関係は全く変化しないと思うけど」
「それが変化するから言ってるのよ」
これからのように。
そう、小声で言い終わると同時に近づいてくる数人の足音。目線を転向すると感心の核が詰め寄って来ていた。
「そんな低音で話さなくてもいいよな、雲斎」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる