青と春の少年タロット〜どうやら世界には異能の力があるらしい〜

柄山勇

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第一章

十八話 不吉の前触れ

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「ふあーあ、寝みいなあ。あれ、デジャブか?」 
 
 まあいい。三人の会話はそんなに時間を埋めつかさなかったが、事後の動画視聴で夜更かししてしまったのが痛い。朝の登下校は必然に目が覚める方式なのにこんな睡眠不足は久々だった。 
 
 学校生活三日目。序盤の踏み込みにして早くも下落しそうな事件が続き、こうも巻き込まれるのは何気に初かもしれない。 

―――今日から作戦の決行日。何事もなく篠崎さんがクラスに溶け込めたら苦労しないんだけどなー。 
 
 なにぶん、今まで積み重なった環境が元凶か。はたまたそれ以前の問題か。推察は出来ないが、辛い毎日が幕を開けることは間違いない。 

「お、西岡」 
「……」 

 ったく、一番聞きたくない声の主が現れたやがった。 
    一年の頃沈黙を保ったまま無視していたら、その後の扱いがマジで面倒になった事例があるので、仕方なく俺は嫌味を返すべく、不機嫌オーラを焚き付ける。 

「天下の弓道部部長候補兼生徒会役員様 きゅうどうぶぶちょうこうほけんせいとかいやくいんさまが俺に何のようだ?」 
「そんな言い方しなくてもええやろ。去年からの好みやし」 
「そうだったな」 

    長山陽葵ながやまひまり、通称ナガッチ。 
 
 だめだ、どうも生理的に合わない。元からこうやってぐいぐい来るタイプは苦手意識が強い。とっとと用件終わらせて帰らせよう。 

「それで、奇遇もなにもアンタがこんな中途半端な時間に合わせてるってのは予想できるから、そうまでしたわけを教えてくれ」 
「随分とあーしのこと理解しとるんちゃう、もしかして運命の糸で繋がってる?」 
 
 はは、マジできしょ、気色悪い。どんな神経してたらそんな結論に辿り着くんだ、毒薔薇の毒ぐらい敬遠する代物なんだが。 
  
 ゾッとする物言いに寒気がもたらされるも、耐えながら彼女の言葉を急かす。すると、彼女は不気味に微笑みながら口元に手を当てた。 

「そうやなあ、聞きたいことだけ尋ねるのもアレやから、決定事項だけ伝えとくわ」 
「アンタの事項なんてクソほどどうでもいいんだが」 
「別に照れなくても良いんや」  

 なんで、お前みたいな糞ウザ構ってちゃんに俺が照れなきゃいけねえんだ。マジで脳内ハッピーセットもいいところ。 
 こめかみがピキピキと鳴る出す俺はスルーしたまま、というより気付いてないだけかもしれないが、彼女はその瞬間、何処か遠い場所に目をやる。 

「今までの努力を水の泡にする人間が出たなら祓うぐらいしなきゃあかんからな」 
 
 そう言った彼女の目は酷く細まって何かを睨みつけてるみたいだった。 

「ナガッチ」 
「……何や?」 
「かくいう俺は、どうもアンタが苦手らしい」 
「冗談もほどほど…」
「そういうとこがだ」 
 
 あくまであっさりと、言い終わって前に振り返る。すぐそばからマシンガントークが聴取されるが、ほおっておきながら歩みの先の学校に前進した。 

ーーーあーあ、だるいなぁ。 

 
***** 

〈篠崎と雲斎〉 

 この学校に通う人間の大抵は、地元生まれであり電車やバスで通う人間はごく僅か。それは篠崎紬希とて、例外ではない。彼女の家は校門から徒歩十五分の位置に立地してるため、程よい距離を保っている。
 通学路には様々なクラスメイトの自宅が分布され、同じクラスになったことがないのに、一方的に顔見知りだったりする人間も少なくない。友達が居ない彼女にとってこれは重箱の隅をつつくような事実だったが、今日に限ってはそうではなかった。 

「もしかして、けっこう前から?」 
「うんうん、全然」 
 
 玄関の近隣に直立する篠崎に、向こうから迫った一人の女子高生がいた。 
 三歩ぐらい近づいて並びあったのち、口を開く。 

「待ち合わせはこの先の公園だったはずだけど、これなら貴方の家にした方が早いわね」 
「うん! ぜひそうしよう、雲斎さん。うんうん、じゃなくて……桜莉」 
 
 えへへ、とはに噛みながらもたれ掛かろうとする篠崎。雲斎はそれを肩で受け止めると、二人にしか届かない間隔でか細く述べた。 

「篠崎さん、」 
「紬希って呼んで」 

私もそうしたでしょ、と見つめる篠崎に雲斎は申し訳なさそうに告げる。 

「ごめんね、紬希。貴方のこと怪しんでた」 
「……?」 
「これは偏見だけど、今まで西岡と仲良くしたがる人って色んな意味でウザったい人ばかりだったから。貴方のタイプは珍しかったの」 
「何のタイプ…?」 

 コクっと首を傾ける篠崎に雲斎は注意深く告げる。 

「西岡と話してる人間のことよ。彼って滅多に女子と話さないじゃない、だから貴方のようなタイプは本当に稀なの」 
「へえ、詳しいね。西岡くんに」 
「んな! べ、別にアタシが調べたってわけじゃあないわよ! 単にたまたま、見てて思っただけ」 
「見てるんだ」 
「!……つぅ、」 

 プシューと顔を真っ赤に泡立たせて、そのまま沈みかけるのを篠崎は上から引っ張り上げる。我に返った雲斎は、恥ずかしがりながら彼女と歩みを開始した。 

「……結局、何が言いたかったの?」 
「特に。本質的に今までで一番良い人だった、それと………いいえ、なんでもないわ」 
「……? ありがとう」 
「こちらこそ」 
 

***** 


〈謎の二人組〉 

「ミィ。今回の任務、能力者の回収だけじゃ終わらんかもしれん」 
「どういう意味?」 
 
 不思議そうに問いかける少女、老人は空を仰ぎながら答える。 

「自覚してるかはともかく、目標の人物は既に能力を使用済み。効果範囲がかなり広いのを見るに保護した後、感情の整理がつくか…」 
「能力に当てられた生徒が後々騒ぎを起こすってこと?」 
「それもあるが、一番の心配が人間関係なんじゃ」 
「……意味不明」 
「今日も経過観察するぞ。わしとミィでな。……しかしこうなると、次の任務までの日数が心配じゃのぉ」 
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