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第一章
第二十一話 遊び場所
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訓練場から階を1つ上がって廊下を移動する。どこかご機嫌な海舟を他所に実璃と奏は後ろを追いかける。奏はともかく、関兵本部の全容を把握してない実璃は海舟が向かう行方が通じている場所など知る由もない。
数分程度だっただろう。やがてその歩みが中断されると、海舟が声を張り上げる。
「ここだ!」
「大広間」と書かれたプレート。入り口はドアではなく襖だった。
襖の持ち手に手を掛け、両手で旺盛に開放する。開いた先には床一体に伸展する畳。大勢の人間がザワザワと喋り声を維持しながら尻餅をつく部屋全体は、サッカーグラウンドほどの大きさを誇る和室があった。
「ディーラーの俺は18。さあ、お前らの手札を見せてみろ!」
「ふ、悪いな。俺は合計20だ!」
「ち、負けたよ。俺17」
「くー、あたいは20だったのに。もう一歩及びませんでしたわ」
「流石にキツかったか……おい、お前は?」
「あ、俺か? …ブラックジャック」
「ふざけんなぁああああああああああああ––––ッ⁉︎」
各部隊に所属する多くの人間が遊びを楽しむそんな場所。部屋の各場所で時節悲鳴が上がるも、皆夢中で遊びに惚けている。
「なんですかここ…」
ついさっきまで居た訓練場とは明らかに異なる地点に、実璃は呆然と部屋を見ていた。遊び場に連れてきたご機嫌タンクトップ野郎が、得意げに口の端を持ち上げる。
「この部屋は……遊び場だ」
「見ればわかりますそんなこと」
「うーん、まぁ端的に言って、日頃の戦闘や訓練の熾烈さから一時的に解放できる場所……みたいな?」
説明を説かれた実璃は、すかさず部屋を確認する。
「どうだ、ストレート!」
「別にそれ強くねえよ。これだからにわかは…、あ、フルハウス。これ、俺の勝ちだろ」
「なんと⁉︎ ですが私もフルハウス。ふう、負けはしませんでしたわ」
「ち、やるね。それでお前は?」
「私? 私はもちろんストレートフラッシュですけど」
「な、に、が、もちろんなんだよぉおおおおおおおおお––––ッ⁉︎」
「と言うかさっきからこいつしか勝ってなくね?」
「いい加減にするのですぅうううううううううううう––––ッ‼︎」
―――解放されるどころか、むしろ病んでる気がするのは考えすぎかな?
はぁっと息をつく。海舟が社会見学と言っていたので、どんな訓練が行われてるのかと思えばただの娯楽室だった。呆れてものも言えなくなる実璃の前に海舟が笑いながら述べる。
「こういうのも社会見学だ、お嬢さん。本部にいる部隊のことを知るには様々な一面を見ることも大事だ。それに、訓練ばかりしていては………行き詰まるからな」
そう言われ、遊びに耽る隊員達に目線を合わせる。娯楽の種類(大体がカードゲーム)は異なるが、全員が喜怒哀楽はっきりに楽しんでいる。
昨日、実璃は前線には参加していないが、医療班の簡易テントの中でも現場の緊迫した雰囲気は嫌ほど伝わってきた。ああいった戦いが頻繁に行われ戦闘では休む時間もままならない。
それを思うと、こういった息抜きも必要なのかもしれない……
「って、どこへ行こうとしてるんですか⁉︎」
実璃が会場の雰囲気を感じている間に、サラッと抜け出そうとする海舟。呼び止められたご機嫌タンクトップ野郎は何食わぬ顔で…
「え、だってわしだって息抜きしたいし」
「いや、だって仕事は? 訓練は?」
「はぁ、なんのためにお嬢ちゃん方をここへ連れてきたと思ってる?」
くわっと目を見開き、自信満々に宣言。
「訓練をサボるために決まってるだろうがッ‼︎」
「無茶苦茶でしょこの人!」
熱血感溢れるワイルドな男…という印象がそうそう狂いそうだった。
「うーん、海舟が連れて来そうな場所は想像してたけど……本当にその通りだったとわね」
「いや、その時点で止めて奏」
「ムリムリ、こいつ人にはとても厳しくて自分には激甘だからね」
「既にどうしようもなかった⁉︎」
頭を抱える実璃の横で「本当はさらに上の階の麻雀会場に行きたかったんだが…」と、ぶつくさ呟いているが気にしないことにする。
「まあでも、ちょっと手間が省けたかもね」
「え、ちょっと奏⁉︎」
何かに気が付いたように、実璃を連れて奏は駆け出す。急な出来事に転びそうになるも、なんとか堪えて歩幅を合わせる。(ちなみに海舟は止める仕草もなく、既に姿を消していた。)
暫くすると足を止め、とあるグループの前までやってきた。
「サボりとは感心しないね」
「! …ほう、お前がここに来るなんて珍しいこともあるもんだ」
聞き覚えのある声。思わず目をやれば、6人組の中に黒髪に堀の深い美少年が座り込んでいた。確か奏から綾(あや)と呼ばれていた少年。休憩室で待っていた時に会った少年で間違いはないだろう。
「あの、綾さんですよね?」
奏の背後から恐る恐る声をかける。それを見て、彼の方も目を丸くする。
「お前はあの時の………尾花、実璃だったか」
「…はい」
名前を覚えていたことに感心する実璃。「そういえば俺の方はまだだったな」と言って、綾は立ち上がった。
「俺は伊東綾。関兵第5部隊の隊長を務めている。よろしくな」
「こちらこそ」
差し出される手。本日2度目の握手を交わした実璃の感想としては、やはり関兵は手がゴツゴツしていると言う単純なものだった。
綾と言う少年が関兵の隊長とはなんとも意外だったが、同時に奏と知り合いだったのも理解できる雰囲気があった。
「それで、奏。どうしてお前がここにいる? お前こういう場所あんま来ないだろ」
「……成り行きかな?」
「ふ、なんだそりゃ」
よく分からない、といった具合に首を振る綾。言葉の意味は説明せず、一息間を開けて奏は本題を発する。
「綾、自分の部隊のこと紹介してくれない?」
数分程度だっただろう。やがてその歩みが中断されると、海舟が声を張り上げる。
「ここだ!」
「大広間」と書かれたプレート。入り口はドアではなく襖だった。
襖の持ち手に手を掛け、両手で旺盛に開放する。開いた先には床一体に伸展する畳。大勢の人間がザワザワと喋り声を維持しながら尻餅をつく部屋全体は、サッカーグラウンドほどの大きさを誇る和室があった。
「ディーラーの俺は18。さあ、お前らの手札を見せてみろ!」
「ふ、悪いな。俺は合計20だ!」
「ち、負けたよ。俺17」
「くー、あたいは20だったのに。もう一歩及びませんでしたわ」
「流石にキツかったか……おい、お前は?」
「あ、俺か? …ブラックジャック」
「ふざけんなぁああああああああああああ––––ッ⁉︎」
各部隊に所属する多くの人間が遊びを楽しむそんな場所。部屋の各場所で時節悲鳴が上がるも、皆夢中で遊びに惚けている。
「なんですかここ…」
ついさっきまで居た訓練場とは明らかに異なる地点に、実璃は呆然と部屋を見ていた。遊び場に連れてきたご機嫌タンクトップ野郎が、得意げに口の端を持ち上げる。
「この部屋は……遊び場だ」
「見ればわかりますそんなこと」
「うーん、まぁ端的に言って、日頃の戦闘や訓練の熾烈さから一時的に解放できる場所……みたいな?」
説明を説かれた実璃は、すかさず部屋を確認する。
「どうだ、ストレート!」
「別にそれ強くねえよ。これだからにわかは…、あ、フルハウス。これ、俺の勝ちだろ」
「なんと⁉︎ ですが私もフルハウス。ふう、負けはしませんでしたわ」
「ち、やるね。それでお前は?」
「私? 私はもちろんストレートフラッシュですけど」
「な、に、が、もちろんなんだよぉおおおおおおおおお––––ッ⁉︎」
「と言うかさっきからこいつしか勝ってなくね?」
「いい加減にするのですぅうううううううううううう––––ッ‼︎」
―――解放されるどころか、むしろ病んでる気がするのは考えすぎかな?
はぁっと息をつく。海舟が社会見学と言っていたので、どんな訓練が行われてるのかと思えばただの娯楽室だった。呆れてものも言えなくなる実璃の前に海舟が笑いながら述べる。
「こういうのも社会見学だ、お嬢さん。本部にいる部隊のことを知るには様々な一面を見ることも大事だ。それに、訓練ばかりしていては………行き詰まるからな」
そう言われ、遊びに耽る隊員達に目線を合わせる。娯楽の種類(大体がカードゲーム)は異なるが、全員が喜怒哀楽はっきりに楽しんでいる。
昨日、実璃は前線には参加していないが、医療班の簡易テントの中でも現場の緊迫した雰囲気は嫌ほど伝わってきた。ああいった戦いが頻繁に行われ戦闘では休む時間もままならない。
それを思うと、こういった息抜きも必要なのかもしれない……
「って、どこへ行こうとしてるんですか⁉︎」
実璃が会場の雰囲気を感じている間に、サラッと抜け出そうとする海舟。呼び止められたご機嫌タンクトップ野郎は何食わぬ顔で…
「え、だってわしだって息抜きしたいし」
「いや、だって仕事は? 訓練は?」
「はぁ、なんのためにお嬢ちゃん方をここへ連れてきたと思ってる?」
くわっと目を見開き、自信満々に宣言。
「訓練をサボるために決まってるだろうがッ‼︎」
「無茶苦茶でしょこの人!」
熱血感溢れるワイルドな男…という印象がそうそう狂いそうだった。
「うーん、海舟が連れて来そうな場所は想像してたけど……本当にその通りだったとわね」
「いや、その時点で止めて奏」
「ムリムリ、こいつ人にはとても厳しくて自分には激甘だからね」
「既にどうしようもなかった⁉︎」
頭を抱える実璃の横で「本当はさらに上の階の麻雀会場に行きたかったんだが…」と、ぶつくさ呟いているが気にしないことにする。
「まあでも、ちょっと手間が省けたかもね」
「え、ちょっと奏⁉︎」
何かに気が付いたように、実璃を連れて奏は駆け出す。急な出来事に転びそうになるも、なんとか堪えて歩幅を合わせる。(ちなみに海舟は止める仕草もなく、既に姿を消していた。)
暫くすると足を止め、とあるグループの前までやってきた。
「サボりとは感心しないね」
「! …ほう、お前がここに来るなんて珍しいこともあるもんだ」
聞き覚えのある声。思わず目をやれば、6人組の中に黒髪に堀の深い美少年が座り込んでいた。確か奏から綾(あや)と呼ばれていた少年。休憩室で待っていた時に会った少年で間違いはないだろう。
「あの、綾さんですよね?」
奏の背後から恐る恐る声をかける。それを見て、彼の方も目を丸くする。
「お前はあの時の………尾花、実璃だったか」
「…はい」
名前を覚えていたことに感心する実璃。「そういえば俺の方はまだだったな」と言って、綾は立ち上がった。
「俺は伊東綾。関兵第5部隊の隊長を務めている。よろしくな」
「こちらこそ」
差し出される手。本日2度目の握手を交わした実璃の感想としては、やはり関兵は手がゴツゴツしていると言う単純なものだった。
綾と言う少年が関兵の隊長とはなんとも意外だったが、同時に奏と知り合いだったのも理解できる雰囲気があった。
「それで、奏。どうしてお前がここにいる? お前こういう場所あんま来ないだろ」
「……成り行きかな?」
「ふ、なんだそりゃ」
よく分からない、といった具合に首を振る綾。言葉の意味は説明せず、一息間を開けて奏は本題を発する。
「綾、自分の部隊のこと紹介してくれない?」
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