継承スキルで下克上!

オリオン

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謝罪

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「ほう、そうですか、イリュージョンですか」

彼女のスキル等を聞いた筈だが、アンヌさんは未だに相手をジッと見ている。
その表情は別に怒っているわけでもないし、笑っているわけでもない
完全に真顔でただただその女の子の目の方をジッと見ている。
その状況で、あの女の子の表情はゆっくりとゆっくりと不安と恐怖が入り交じった表情になっていく。
別に怒られているわけでもなく、ただ見られているだけなのに。

「・・・・あ、えっと、その」
「なんですか? 言いたいことでも?」
「い、いや・・・・な、何でもありません」

彼女の表情にある緊張の色がドンドンと強くなってきているのが距離があっても分かる。
そして、チラリとこちらに視線をよこし、何か懇願するような目で見てきた。
だが、すぐにアンヌさんに顔を掴まれ、また同じ様な状態になった。

「あ、あの、も、もう理由も・・・・スキルも話しました・・・・だ、だから、許してください!」
「ほう、あなたは顔を誰かに思いっきり殴られて、なんで殴ったかを教えて貰っただけで
 その相手を許すのですか?」
「え?」

遠回りにアンヌさんは彼女に謝れと言っているようだ。
だが、彼女はその言葉の意味を理解できていない様子だった。
緊張がピークに達していたから、そんな発想が出ないからなのか
はたまたあの子が馬鹿だから分からないのか、どっちだろうか。

「こう言うのはね、自主的に言うのが1番なんですけど?」
「な、何のことですか? わ、分かりません!」
「はぁ、そうですか、では1度だけ言いましょう、それ以降は言いません
 さっさと謝ってくれます? 普通は謝罪だけじゃすみませんがね」
「あ、謝る・・・・わ、分かりました!」

アンヌさんも遠回しに言わず、ハッキリと言えば良いのに。
そうすればあの子はもっと速く謝罪をしただろうに。

「あの、ご、ごめんなさい!」

アンヌさんに言われたとおり、彼女は父さん母さんの方に走っていき、深々と謝罪をした。
父さん母さんは彼女の謝罪を受け、それをすんなりと受入れた。
もう少し厳しくても良いだろうにとは思うのだが、そこが良いところでもあるからな。

「良いのですか? こんな食い逃げ犯を許して」
「良いんですよ、生きるためには仕方のない事だったんですから」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」

彼女は父さん母さんの温情に感謝し、土下座をしながら何度も何度もお礼を言った。
2人は顔を上げてくださいと言うが、それでも彼女はあげずにお礼を言い続けている。
どうやらかなり追い込まれていたようだな、そうしないとここまでお礼は言わないだろう。

「良かったですね、ですが、まだ謝るべき相手はいますよ」
「だ、誰ですか!?」
「それは自分で考えてみてください、あなたの行動で迷惑を掛けた相手」
「・・・・迷惑を掛けた相手?」

他に誰かいただろうか、彼女が食い逃げをしたのは俺の家だけだろう。
だったら、迷惑を被ったのは父さん母さんだけの筈。
ここは個人経営だし、食い逃げをしたとしても他のお客さんに迷惑はかからないはずだ。

「誰のことかしら」

マリちゃんも誰が迷惑を被ったかなど分からないらしく、俺と同じ様に首をかしげている。
そんな様子に気が付いてか、アンヌさんはこちらの方を向いて大きくため息をついた。

「なんであなた達が悩んでいるんですか?」
「いや、誰に迷惑を被ったのか分からないから悩んでて」
「はい、俺もそうです」

俺達の返答を受けたアンヌさんは小さなため息をついた後
一言だけ、結構近場に居ますよ、と言い、再びあの女の子の方を向いた。

「ち、近場に?」

アンヌさんの一言を聞いて、俺とマリちゃんは同時くらいに周囲を見渡した。
しかし、それっぽい人は何処にもいない、どうしてだろうか。
もしかして、そのもう1人の迷惑を掛けた相手もイリュージョン持ち?

「さて、あなたは分かりましたか?」
「い、いえ」
「そうですか、では、もう一つヒントですその迷惑を掛けた相手はこの近くに3人いますね」
「「「3人も!?」」」

俺達3人は同時に反応し、大声を出してしまった。
そして、その後すぐにアンヌさんは大きなため息を1つ吐いた後
俺達の方にむき直した。

「私とあなた達2人の事ですよ」
「「え?」」

・・・・迷惑を被った相手って、俺達の事だったのか。
でも、別に迷惑だったなんて思わなかったな。
ギルドに入って、初めての仕事が俺の家で助かったし。

「迷惑なんて感じた?」
「まさか、むしろ初めての依頼がノクの家で助かった」
「・・・・そうですか、前向きなことで」
「でも、私のせいで迷惑を掛けたので、謝罪します! ごめんなさい!」

俺達は謝罪など良かったのだが、彼女は自主的に俺達に向って土下座をした。
うーん、なんだかな、別に迷惑でも何でも無いのに土下座までされるとは。

「別に謝らなくても」
「いえ! 悪い事をしてしまったのは事実です!」

俺が謝らなくても良いと言っても、彼女はずっと謝り続けている。
ここまで謝られると、むしろ迷惑というな・・・・まぁ、余計なことは言わないけど。

「まぁ、謝罪のそれは良いとして、お前はこれからどうするんだ?
 金もない、食い物もない、そんな状態で生きていけるのか?」
「わ、分かりません・・・・でも、私は生きたいので、無理をしてでも生き抜きます」
「・・・・そう、じゃあ、うちの店のお手伝いをしてくれる?」
「え!?」

俺達の会話を聞いていた母さんが、彼女の前に歩いてきて
低い体勢をして居る彼女と同じ目線まで体勢を低くしながら話し始めた。

「実はね、うちは人手が足りないのよ、今まではノクが手伝ってくれてたから良いんだけど
 今度からあの子はギルドでお仕事、だから人手不足で探さないとって思ってたのよ」
「い、良いんですか!? 私なんかが!」
「大丈夫よ、あ、待遇も安心して、3食寝床付きよ、ね? あなた? 問題ないわよね?」
「あぁ、問題は無いぞ、部屋もいくつかあるしな」
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます! 私、必死に尽くします!」

父さん母さん、食い逃げ犯を許したあげく、仕事と住処と食事を与えるとはな。
流石に甘すぎる気もするが、俺の代わりに家の仕事をやってくれるんだから
何も言えないな、俺はわがままでギルドに入ったんだから。

「じゃ、これからよろしくね、あ、そうだわ、あなたのお名前は?」
「わ、私の名前はネックです、よろしくお願いします!」
「うん、よろしくね、ネックちゃん」

母さんが泣いている状態のネックの腕を取り、ゆっくりと一緒に立ち上がった。
その時、彼女は笑いながら涙を流していた、それだけ嬉しかったという事か。

「これで解決ですか、良かったですね」
「そうですね、うちの従業員も増えたし、安心です」
「・・・・半獣なのに、大丈夫なのかな」
「どういうことだ?」
「あ! いや、何でも無い!」

明らかに何でも無いって感じの表情ではないが
やはり深追いは止めた方が良いだろう、ゆっくりと時間を掛けて聞いていく方が良いかな。
そう簡単に言えないことだからこうやって隠しているんだろうからな、それに時間は沢山あるし。
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