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異世界サバイバル

閑話 一方その頃

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 四堂たちを置いて、人里を探す旅に出た、元クラスメイトたち。
 彼らは近くの川沿いを、下流に向かって歩いていた。

 川沿いに人が集まり、町ができる。国が興る。
 そんな地球の歴史を学んでいたからだ。

 だがしかし。


「もう、海じゃねぇかよ」
「この川沿いに、町は無かったでござるよ」

 彼らが下った川の近くに、人は住んでいなかった。
 当たり前だ。彼らが居たのは魔境と言われるような、モンスターが大量にいる地域。よほどのメリットがない限り、こんな所に町を作れない。
 モンスターの脅威に対抗するのは大変なのだ。


「ま、仕方がないね」

 もちろん、この決定をした支配者層はそのことを予測していた。
 ユニークジョブを手に入れたから彼らでもなんとかなっているが、逆を言えば、ユニークジョブが無ければ詰んでいたのだ。
 動けなくなるほど悲観的ではなかったが、その程度の想像はついていた。

「みんな! 残念だが、川沿いは駄目だった!
 だけど海沿いに動けば、必ず人の居るところまで辿り着ける! 次は南に向けて移動するから、そのつもりでいてくれ!
 今日の移動はこれで終わりにして、明日に備え体を休めてほしい! 以上だ!」

 支配者層は、まだ楽観的である。
 予測できた範囲であるのだし、次の行動方針も決まっていたので、気持ちを切り替えるのは容易であった。


 ただ、他の生徒たちは、そうではない。
 失敗すればへこむし、成果の出なかった行軍に、気持ちが折れかかっている。
 だからこそ、海という区切りまでなんの成果も出ていない、そんな現状を認められなかった。

「はぁ。海岸線に沿って動くんだろ? 水とか確保できんの?」
「魔法任せだろ」
「うげー。またデカい顔されるのかよー」

 海に出るぐらい動いて、なんの成果もない。
 ここから海岸線沿いに動いたとしても、おそらくはすぐに結果が出ない。
 一部の男子はこれから先を想像して、身内の中で愚痴を漏らし合う。

 これは上の判断が間違っているわけではなく、単純に初期出現地点が最悪だったからだが、そんな事情は彼らに関係なかった。
 ただ、成果が出ないのを、責めやすい上の人間の責任だと言って憂さ晴らしをするのだ。
 そうでもしないと。彼らの心が保たなかった。


 そしてそんな彼らですら、実はまだマシな精神状態である。
 もっと酷い精神状態の者もいた。

「もう嫌! 帰して! 帰してよ!!」
「もう、どこにも辿り着けないわよ。行くだけ無駄ね……」

 完全に心が折れて、無意味に喚いたり自棄になっている女子が出始めた。
 海岸沿いを遠くまで見通しても、人が居るようには思えない。
 もう何をしても無駄だと、彼女たちは生きる気力を失ってしまった。
 そんな彼女たちの友人が必死に宥めるが、雰囲気は最悪だ。


 ユニークジョブを手に入れても、心が強くなったわけではない。
 一行の行く末には、暗雲が立ちこめていた。
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