よぞら至上主義クラブ

とのずみ

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本編ー総受けエディションー

20:30代悪癖コヒーレント~side out~

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side out (サイド年上組)
 
     ◇  ◇

 雑居ビル3階にある男性向けアダルトPCゲームが数多く並んでいるエロゲ屋、プラムフィールド。

「アリガトゴザッシター」
 
 スタッフの名護月(なごつき)はやる気ない口調で接客を終える。自動ドアの音にかき消されるくらいの声量は、果たして客に聞こえていたのか。真偽は分からないが、どうせ客も購入した美少女の方に気を取られてこちらなど気にもしていないだろう。名護月は気だるげに見送った。

 対応が少し緩いだけで、本人は至って真面目に業務をこなしている。実際店内には陰気なオーラは感じられず、閑古鳥が鳴く、あの平日午後特有の空気が流れていた。
 スッと名護月は店の一角へ意識を向けた。棚の向こう、その先に不自然にできた小さなデュエルスペース。そこは以前よぞらと、同じくバイトの至冬(しとう)がせっせと商品を整理し、綺麗に掃除をしていた場所だ。
 
 今日は――ゆゆ島は休み。

 ついでに言うと至冬もシフトには入っておらず、若いスタッフはどちらも不在であった。よぞらが居なくても特にどうということはない。しかし、名護月のやる気には大きく影響していた。
 誰にでも分け隔ての無い名護月だが、彼にも贔屓の心はある。というよりもあったことに、ここ数年で気付かされてしまった。広く浅くの付き合いが常、どこまでも緩く、おおらかに。それが自分のスタイルだと思っていたが……生きていると何が起こるか分からないものだ。名護月はしみじみ、だがしかし悪くないと口角を上げた。
 
 彼――ゆゆ島の、飛んでいきそうな、シャボン玉のような意識。空気より水の方が軽い、そんな軽さが金色の眼と共に名護月の脳裏でちらついた。その点滅に全く意味はないのに、ツ、ツと飛び込んでくる光はモールス信号を彷彿とさせ、吸い込まれていく。光はずっと走るのだ。加えて彼には継ぎ目が無い。昼と夜との狭間でこちらが永遠に見ていられそうな気持ちにさせられる。名護月は、それが怖くもあるしずっと続いてほしくもあった。
 
 ――ずっと。
 
 曖昧な感覚だが、そう願うのは名護月だけでは無いはずだ。絶対的な自信がある。実際に、他の近しい――店長含め誰かしら、何かしら含みのある感情があちらこちらで見受けられた。
 そう、こないだの客だって。拭き損ねたシャボン玉が弾けず吹き口で分裂していくような、そんな異様さがあった。触らなければその内消えるシャボン玉が消えないのを不思議に思い、触って壊した時の、あの感覚。

 互いに知ってか知らずか。きっと、真相を確かめられるのは怖いもの知らずだけだろう。名護月はポキリと首を鳴らした。

「お触り禁止のタグでも作って、ゆゆ島の背中に貼っといてやろうかな」
 
 ああ、やはり今日はゆゆ島の姿が見えないのは残念だ。名護月は心持ち肩を下げる。するとバイト2人がせっせとこしらえた場所から低い話声が聞こえてくるのに気が付いた。軽く辺りを見渡し、そしてため息をつく。名護月は近くまで行き、棚からぬっと顔を出すと、あ~と短く非難の声を上げた。
 
「やっぱり店長サボりスペースに使ってんじゃん」
 
 テーブルやパイプ椅子が並べられ完成していた場所は、若いバイト達が危惧していた通り本来の使い方をされず只の雑談所に成り果てていた。構わず駄弁っているデカい男たちを見て、名護月はこういう光景を何て言うんだっけなと思案し、そうだと思い当たり呟いた。
 
「これって『なんとか老人会』って奴?」

 ちらちらと耳が拾った店長ともう一人、硬そうなおっさんの会話。些か古く、カオスでマニアックなネタは黎明期のインターネットのソレに通ずるものがあった。
 名護月は、虹緒を曖昧な認識でしか覚えていないようで――知り合いの硬そうなおっさん。と称していた。失礼な気もするが、対する虹緒も似たようなもので名護月に興味など無いのか一対一では目線すら合わせない。用が無ければ名も呼ばないため、お互い気にもしていない。
 
「失礼な。まだ30代だぞ」
 
 老人にはまだ早すぎると店長は眉間に皺を寄せる。青白い照明が高い鼻を滑り、目元に少し影ができた。

 30。彼の発したフレーズを聞いて名護月は目の前の2人を見た。確かに見た目だけなら、彫りの深い美丈夫と、理知的なイケメンだ。安いテーブルに肘をつき、パイプ椅子に腰かけていても、何故だか映画の小道具みたいに様になっていて年齢を感じさせない。それどころか、逆に武器になっている。羨ましい限りだがこんな風に自分もなりたいかというと――そこで名護月の思考は止まり、白けた顔になった。

 ――こんな悪癖の詰まったおっさんなんか嫌すぎる。
 
「なんだ、じろじろと。――大体、名護月もこっち側だろ」
「いや俺四捨五入したら二十歳ですしおすし。テンチョーとは、チガイマース」

 思考を読んだのか、単に名護月の視線がうるさかっただけなのか。店長は名護月に問い掛けてきた。ちなみに名護月はスタッフの中では最年長だが、まだ20代前半だ。彼は、店長と一緒くたにしないで欲しいとふざけながらも目だけは笑うことなく年齢による仲間意識を断固拒否した。
 ああだこうだと2人が言い合っていると、

「……で、結局今日はゆゆ島はいないのか、梅野」

 ――ふ、と冷たい声が割り込んだ。どうやらよぞらの勤務を詳しく把握していない虹緒は、今日もこうしてここへとやって来て不在を不満げに口にしていた。八つ当たりの代わりに店長と名護月を睨みつけるが、店長は慣れているのか肩を竦めいなす。

「ったく。それくらい素直に訊けばいいのに」
「…………」
「――なぁ? 名護月」
「なはは」
 
 ツンとそっぽを向く虹緒を余所に、店長は名護月に話を振る。振られた本人は一瞬言い淀むが、口を閉じ陽気さを窺わせる笑い声を上げた。
 
 ――本音としては、いい年した男が頑固で意地っ張りなどホント笑えない。ゆゆ島だったら可愛いのに。そして同じく。店長、あんたも似たようなもんだ――と。
 
 客が使うどころか、店の人間とその知り合いが陣取っているとは、ほとほと呆れる。なまじっか顔が良いからか、場としては様になっているが、……いや様になっているとか関係無いな。名護月の心の内は、兎に角解せない。その一言であった。
 しかしそんなことは、最初から分かっていたことでもあった。こんな場所、そもそも使うはずもない。ここはカードゲーム屋でも無いのだから。告知や宣伝もしていないし、やはり元々こう使うつもりだったのだろう。この店で名護月は1番の古株だ。店長の横暴さには、さほど驚かず常識的な解釈をした。

「もー店長、サボんのは勝手だけど今日はゆゆ島も至冬くんも居ないんだから程ほどにしてくださいよ」

 しばらく、そっちはそっちでどうにでもしててくれて良いから。そう、この話を適当に流そうとした名護月だったが。何気なく彼が出したゆゆ島の名前に反応したのか、2人から「ゆゆ島……」と次々声が漏れだした。
 そして、名護月の方を見ていた店長が頬杖を突きながら「お前がゆゆ島だったらよかったのに」と呟きはじめ、虹緒まで「シフト交代とかできないのか」等と、よぞら不在をぼやき始めたではないか。

 おっさんたちはやはり、どうしようもないおっさんたちだった。
 
「ほんっっと…………この30代ワラエネー……」

 休みなのにわざわざお前らのためにゆゆ島が来る訳ないだろうが。
 あけすけなワガママに名護月の口元のひくつきが止まらない。軽薄で軽い見た目の名護月が1番常識人で1人苦労している。今や没個性になりえる、ありふれた意外性に、自分は貧乏くじを引きやすいポジションなのだと憂い「ハァー……」とわざとらしくため息をついた。

「こんだけ名前呼ばれてたら、今頃、ゆゆ島くしゃみとかしてそ~」

     ◇  ◇
 
 デュエルスペースの周りにはエロゲのキャラメル箱に混じり、新しくガチャガチャといくつかカードボックスが置かれている。どことなく所在なげに見えるのは先入観のせいかと名護月は考えるが、結局は慣れなのだと結論付け、乱れたパックを整頓し値札を正した。
 
 テカテカと光るブースターパックのパッケージたち。名護月がその独特の袋の感触を味わっていたら、この間よぞらが記念に1パック買おうとしていたのを思い出した。あーでもないと悩むよぞらに悪ノリしてサーチ行為を教え、ついでに自らも興じたあの時間。当然すぐに店長に見つかり、そのままオシオキコースまっしぐらだったが、結構楽しかったと彼は自然と口角があがる。それと同時に、はたかれた、その痛みまでじわじわと蘇ってきて名護月は思いがけず悪態をついた。
 
「……店長ってば、すーぐ手が出ますよね、暴力反対!」
「サーチは犯罪行為だ」
 
 呆れた顔で名護月につっこむ店長。サボってくっちゃべっている癖に、こういう時は正論をかますと名護月は歯ぎしりする。
 
「ゆゆ島は許してたくせに~」

 叩く時もぽん、とバシンッ、くらい力加減が違った。音の差を直に感じた名護月は店長のよぞらに対する甘々デレデレ具合に脱力する。何処がおっさんじゃあ無いのだ。どう見ても脂下がった中年親父にしか見えない。

「まっじで店長いい性格してんねぇ」
「誉め言葉として受け取っておこう。――それにしても俺のデッキで、わーわーはしゃぐゆゆ島は面白かった」

 くつくつと思い出し笑いをする店長に、名護月がうげ、とカエルが潰れたような声を出す。そんなやりとりをしていると、思う所があるのか虹緒が口をはさみ始めた。
 
「夢のあるコンセプトデッキ――だと百歩譲っても、何故梅野のデッキはマナカーブの存在を忘れてめちゃくちゃなんだ。あんな汚い組み方のものをゆゆ島にやらせるなんて浅慮すぎる」

 重要なカードを上手く引いたり、毎ターン無駄なく行動できるようにするため、マナカーブという、使うカードのコストバランスの目安になるグラフがある。一般的にはそれに沿って組むのが定石とされているが、店長はロマンだとかなんとか言い、割と極端なバランスで組むタイプであった。クセの強いデッキはプレイスキルが足らないと、回らない。慣れない者が扱えば負けることくらい簡単に想像がつくはずだ。なのに店長は――、虹緒はくどくどと指摘し続ける。
 店長は目線だけを虹緒へ向けると、お前こそと反論した。
 
「良く言うぜ。澄ました顔してわざと黙って、打ち負かして泣かせる癖に」
「……言いがかりはよしてくれないか」
 
 初心者にも容赦がない虹緒は、実践でボロクソに打ち負かす大人げなさがあったらしい。それを揶揄した店長に虹緒は目を眇めた。

 ――ああいえばこういう。いい年したおっさんたちの悪癖合戦が始まった。

「可哀想にゆゆ島、泣き顔が性癖だとかいう某虹緒の野郎のせいで……」
「誰が某で性癖だ。いい加減なことを言わないでくれないか。――ショタコンの梅野に言われる筋合いは無い」
「……おい、ちょっと待て。言葉の刃が鋭すぎるだろ。誰がショタコンだ誰が」
「君のことだ、梅野。ああ、それともペドフィリアまでいかないだけ、人の形を保っているとでも誉めてやろうか。あ? ――ゆゆ島とだって出会い系みたいなものだろう。あんな年端もいかない子と連絡をとって会う等、やってることがただの犯罪者じゃないか。それにだ。君が今まで付き合ってきた子たちを見ても……そう思わざるを得ないな」

 虹緒と店長は長い付き合いだ。言わずとも互いの耳に入ってきていたのか、学生時代の恋愛事情は筒抜けなのだろう。虹緒は過去の話を蒸し返し始めた。
 ――梅野が付き合う奴らはみんな年下で、どことなく幼さが漂うと。
 
 詰められた店長は一瞬ぐっと呻いたが、すぐに反撃の狼煙をあげた。
 
「……そうやって口が回るのは、お前にとっても図星なんだろうよ。虹緒こそ、女どころか男まで喰い散らかしてるんだってな? 人を散々犯罪者扱いしておいて、お前の方が職業柄よっぽどヤバイだろうが。……よくこんなのが平然と教鞭を執ってるもんだ」
 
 昔も今もやりたい放題で、お前の方が悪癖だと店長は言った。そして、彼曰く――俺は綺麗なものが好きなだけで断じてお前とは違う、とも。しかし、果たしてそれは違うと言って良いものなのか。
 
「ハ、――聞いて呆れる。少年趣味があると認めたらどうだ」

 少なくとも虹緒は疑問が残ったらしい。彼は目に険を浮かべ吐き捨てるように言ったが、それにも店長は否定した。
 
「いーや、違う。俺は断じてその趣味は無い。それより虹緒『先生』はどうなんだ。まさか今でも未成年に手を出して……」
「梅野、君はどうやらあの世に行きたいようだな。バカも休み休み言ってくれないか。そもそも、相手の了承は取ってある。それにだ。元々、私の方から誘ったことは一度もないのだから――」

 こちらに非はない。と無機質に言い放った。
 
「…………虹緒お前」
「虹緒さんサイテー」

 あまりにゲスいと、名護月まで非難の声が飛び出したが、当の本人である虹緒はどこ吹く風だ。騙される方が悪いのだと、気にしない相手には何を言われようが、とことん気にしない。
 
「最低。ほう。最低、ね。まあいい。――だが、梅野。君こそ、散々人に言っておいて手を出すのだけは人一倍早いだろう」
「はあ? それこそ言いがかりじゃないか? しかもそれがお前に何か関係ある――」
「大ありだろう……っ」

 急に声を荒げた虹緒に、棚に寄りかかっていた名護月は油断していたのか驚きで体がずるりとずれる。店長もサボっているため、堂々と2人の言い合いを流し聴きしていたところへの強襲だ。名護月は目を瞬かせた。

「なんそれ、なに、なんか店長やっちゃったの?」

 犯罪者とかやめて欲しいんだけど。名護月は疑わしい目を隠さずに店長を見やるが、彼はのらりくらりと視線を躱し、ひらひらと手を振る。それが虹緒の気に障ったのだろう。声の大きさこそ潜めたが彼にしては珍しく荒い口調で店長を責立てた。
 
「隠していただろうが……っ」
「あ? ああ……あれは別に隠してた訳じゃあ、」
「嘘もいい加減にしてくれないか。私がここでゆゆ島に会うまで一言も仄めかしたことがなかったくせに。自分から言いだそうとはしなかっただろう?」

 疑問符はついているがほぼ断定した喋り方だ。恨みが言外に溢れている。それを見た店長は、
 
「……そりゃ、お前……言ったら絶対興味もつだろ」
 
 言いあぐね、虹緒をちらりと見たかと思うと何処か遠ざけるように目を逸らした。

 ゆゆ島に初めて会って、見つけたのは、店長自身だ。彼が一番先にみつけた。そして、先程まで散々罵って違うと言い合っていたが、実のところ分かっていたのだ。――互いの趣味は似ていると。
 そうだ、だから過去にも好みが被り、俗に言う寝取り寝取られが起こったこともあった。それでも特に揉めることなくつるんでこれたのは、対象に興味や執着が然程無かったのと、宝物を出し惜しまない店長のおおっぴろげな意識が大きかったからだ。虹緒はどちらかというと、宝物は教えるもののあまり見せたがらない。
 
 店長は口の中で自分を嘲笑する声をころがし、けれどもと釈明した。
 今回だけは違った。言わないつもりは無かったけれど、出し惜しんだ。面倒事を避ける意味ではなく、見せたいけれど取らないでほしいという、ある種子供じみた独占欲が生まれてしまったから。
 
 勿論その気持ちは、虹緒にも良く分かるもので。段々と落ち着いてきた彼は柄にもなく横暴なことを言ったのを恥じ、所在無く頭を掻いた。

「――まあ、それに関しては私の手柄では無いからな。確かに、言う筋合いなど無い」
「どうせいつか虹緒はここに来るし、バレるまでは秘密にしときたかったんだよ。それにお前、王道ベタ展開好きだろ?」
「…………それがどうしたというんだ」
「いいや? いいじゃないか、店先で運命の出会い。ひとめぼれ? あとは、」
「そうだよ。ああ。何が悪い? 所詮男など哀れなものだ、――私を含め幼稚さは死ぬまで付きまとう」
 
 虹緒は見た目に反してロマンチストだ。ツンとした言葉尻とは裏腹に表情が物語っている。実際、よぞらと店で出会った出来事は衝撃的で、彼の中では非常に大きなものだった。

「別に、見つけた地点から追いかけていけばいいだけだ」
 
 子供から見た大人が大人に見えるだけで、本質的な大人などいない。死ぬまで子供だ。くだらないやりとりやおもちゃの取り合いの延長線の中、いつまで経っても1番が欲しいから追いかけ続ける。

 2人の脳裏には、直線的な時間に彼が点在していた。いうなれば、Grow――それぞれそこから成長していく。
 
「例えはただのロリラップだけどな」
「好きだろう?」
「好きだが?」
「……このおじさん達急に卑猥な話してんね」

 話題が変わったと思えば、ゲーム屋らしく、エロゲの話になっていた。ちなみに、例えられている作品は無垢な少女にエッチなこと教えまくりなADVだ。
 
 あーあー、ロリラップ。はいロリラップね。I'veのラップパートでしか得られない快感があるってやつね。そうやって、無意識で繰り広げる2人の会話についていける名護月も、立派に輪の内側へ踏み込んでいるのだが。
 自ら認めたくは無いのか僅かに足を引っ込め、話には参加せず遠巻きに眺めていた。

「そういえば、このゲームも変態の集まるホームページで知り合うとかだったな……、――梅野」

 ゲームのあらすじを噛み砕くように逡巡していた虹緒は、それに良く似た店長のサイトとよぞらの出会いにハッとすると、鋭い眼光を店長へ向けた。
 
「失敬な、俺のレビューサイトは18禁だが健全だ」

 断じて変態の集まる場所じゃない。
 なんせ弟子が出来るくらいだからなと店長は胸をはるが、正直あまり威張れることでもなかった。

「いいや変態だ」
「変態じゃない」
「いや梅野の趣味は変態という言葉にふさわしい。どうせ店の裏でいかがわしいことでもしてるんだろう」
「は? ――それは虹緒もだろうが、そっちだって大学でやることヤッてんだろ」
「――……」
「――……」

 なんという生産性のないノスタルジアごっこだろう。

「あ~、お2人さん? 言い合ってますが、どっちもどっちですよ、それ」

 名護月につっこまれ、店長と虹緒は互いに顔を見合わせる。ぐっと眉を歪め、非難しようと口元を開くところまで行きつくと、名護月は『あーあ』と肩をすくめた。
 
「店長も、……あー、虹緒さんもなんだかんだで似たもの同士? だったりするんですね」
「虹緒と?」
「梅野と?」
「……ほら~そういうとこ」

 ――そっくり。

 ぬるいビールを飲んだ時のような、なんともいえない苦笑を名護月はみせた。
 



 名護月の心の内を引用するとこうだ――。
 
 性質(しゅみ)は似てて、波長も足並みも揃っているのに、考えている事が最低最悪破廉恥。ダメ絶対。とてもじゃないがゆゆ島には教えられません。

 ――ていうか、おっさん、キモ。

 


 
 互いに干渉しあう、悪ノリ悪癖。
 30代のコヒーレント。
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