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本編ー総受けエディションー
08:ゆゆ島よぞらの過眠と兄とのインライン
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あれ、ここどこだっけ……。
とろとろした意識は現実だと認識するのが難しくて目線が定まらない。
瞼の奥から空気に触れる皮膚まで、自分の思うように動かなくて心底疲れてくる。
「………………」
ああ、――寝てたんだ。
家だわ。布団の中で。
覚えていない夢をみていた。――等。
ゆっくりと、子供のように拙い単語がぽつぽつと浮かんでくる。それをしばらく自分の頭の上から眺めていた。
◇ ◇
起きたての額にはうっすらと汗がにじんでいる。室内の温度はそれほど高くなく過ごしやすいはずだが平熱の高い俺には自らの体温が移った布団が暑くて非常に不快だった。
――気持ちわりぃ……。
掛け布団を押し退け、そのまま直ぐにでも這い出たかったが結局何ミリか体がずり動いただけに留まる。残念ながら起き上がる気力が無い方に軍配が上がった。諦めた俺は温いシーツに寝転がったまま、地面に近い目線で部屋をぼんやりと見やる。
うちにはベッドなどという高級なものは無く、床に直接布団を敷いている。
悲しいかな、値段も高いしね。運び込むのも、持ち出すのも大変だったりするしと誰にも聞かれていないのにいい訳を並べる。
特にこの狭い部屋に置いたら強制的にベッドの上で生活だ。この言い方だとなんだか爛れた生活……なんて下世話な想像をしてしまうが、自分の場合は怠惰さに磨きがかかって本当によろしくない。ええ。
元々雑魚寝で十分な俺は薄い布団で寝起きするくらいが似合っている。
むしろ、最悪布団はなくてもいい。トイレでも台所でも、ゲームしながら床で寝落ちもひんやりとして好きだ。硬い床最高。
……けど、これを見られると大概怒られるんだよな。ほぼ全員に。
俺は心の中で不満だとばかりにぼやく。
こないだなんか「眠るのは好きなのに寝具や場所には別段こだわりは無いんだね」って、せーくんに遠回しな嫌味をねちねち言われたっけ。
でも叱られるうちが花だよな。と有難くも思う。でもそう思いながら結局俺は床で寝てしまうのだけれども。
辺りはすっかり暗くなり、四角い窓はムラのある墨色で塗られたようになっていた。暗いということは部屋に電気がついていない。ああそうだ俺が眠ると彼は電気を消すんだった。だがカーテンは開けられたままで、だから窓から外の景色が見えたんだ。それを1つずつ確認して再度窓の存在を認識するとサッシのアルミだけ浮いているようにみえた。
住んでいるアパートは古く、部屋数も少ない二階建てだ。気前の良いじいちゃんが大家をしていてる。こぢんまりと静かで人付き合いの苦手な俺にはありがたかった。というか、俺以外の部屋には誰も住んでいないので人っ子一人いない。入居時にじいちゃんが言っていたから多分事実のはずだ。兄もそんなことを話していたし。
俺は仰向けになり片膝を立てる。
……また眠くなってきた。
せめて電気をつけるかと思うものの、起き上がって照明をつけなければならないのが億劫になり体の力が抜ける。衣擦れの音だけがかすかに聞こえた。
「……。ふ……」
眠い。あまりの眠さに現実を直視できなくて瞼が自然に閉じかけ……――。
起きる。
睡眠で1番嫌なのは――この瞬間だ。
起きてしまえばその後はなんてことは無いのに、何故あれほど億劫なのだろうかといつも疑問に思う。不調な時は眠ろう、とか、睡眠は大事だ、とか言うが……風呂に入る時と同じでだるくて嫌になる。非常に面倒くさい。きっと不眠の人からしたら贅沢な悩みなのだろうけど、眠すぎて起きられない自分からすれば本当に困ってしまうんだ。起きようとするのと比例して体が重くなる。
動かないから、何もしないから。だから変化なし。正常、声色、見え方異常なし。精神に問題なし、なし、なし――なし。
このまま起きたくない、なあ。
前後左右不覚になって、また無駄に考える。眠る前から駄々をこねるのにも疲れてきた。
こうして眠って起きて眠って、起きてまた眠って。だんだんとぼやけてきた思考で1つ。また1つ。
生きることが希薄になったのはいつからだろうか。いや、そもそもそんな濃さがあったのだろうか。
死ぬまで生きるのかと。そうなんだ。死ぬまで死ねないんだって。そう考え始めてからだろうか。
どうもする気は無いのだけど、ずっと薄まっているのだけは感じている。
薄まった感情では到底死ねない。
堂々巡りがおかしくてくつくつと笑いがこみあげる。鼻で息をすると布団の山が揺れてまた少し音がした。
ゴリラのココを知っているだろうか。
彼女は高い知性を持ち、人間と独自の手話を通じて感情のやり取りをしていたとても稀有な存在だった。生活の中である日、猫と出会い彼女たちは愛情を育み、そして別れを体験した。悲しみに暮れる彼女は人にこう伝えたらしい。
――苦痛のない穴にさようなら
死という概念。
最終的な到達は、苦痛、苦労のない無なんだと。それを知った時、俺はひどく共感したのを覚えている。きっと恨み切れない悲しみや怒りの先にあるのは諦めも絶望もない穴のように暗くて、でも安らかに眠れる場所であるのかと。結局は穴の中で全部優しく溶けていく。
起きようが寝ようが、こうして考えていようがどうにもしようがないことで。
いら立ちを覚えても力任せに叩いても、分かって欲しいことがあっても。
もう全部穴に入ってくるまってしまえばいっか。
願わくは、薄まった中でそのまま。
布団のなかと穴は同一であり、この部屋は1人でいられる唯一の空間だった。
――カタリ。
不意に外から物音が聞こえた。
「……」
隣の部屋には誰もいない。はずだ。もしかすると知らないだけで引っ越してきていたりするのか……でも人とすれ違うことなんて皆無だったし……じゃあ犬? ……それとも猫?
その音が何なのか分からず、まどろんだ意識とは逆に鼓動だけが早くなる。あまりに意識と体の反応が違うからか、思わず心臓にアルミホイルを巻くか? と思考が電波な方へ飛ぶ。
……ああ、もう。なんかもう色々面倒くさい。
瞼がまた重くなって今度は開かなくなる。
再度物音が聞こえた。俺は横向きになり枕で塞がれていない方の耳を片手で塞ぐ。そうすると自分の脈打つ鼓動の方が大きくなり、一定のリズムを刻む音に意識をとられていく。
「………………」
…………。
寝入った呼吸音をかき消すように振動音が聞こえる。
テーブルの上でメッセージが届いたのを知らせるために液晶が光った。
――カタリ。
暗闇の中青白い人影が映って、消えた。
◇ ◇
おいおい、寝過ぎた。
今何時かなんて知りたく無いくらい部屋が明るい。
しかも鼻の頭が何だか乾燥してるというかカピカピしているというか。肌が荒れたのだろうか。いつもと違う違和感を感じつつも俺は昨日を振り返ってみる。
確か……、せーくんとラーメン食べて、寝て1回起きて……眠いっていって寝たな。
うーん赤ちゃん。
何か他にあったような気がしてしばらく考えこんだものの、そのひっかかりは思い出せずに終わった。まあいいや、今日はみの虫デーだし。ともう一度布団に包まる。
このモコッと膨らんだ様子がみの虫みたいと言われたのはいつだっただろうか。
晴朗か、……いや兄さんだったか。ああ、兄さんだった。
兄さんはいつも優しいから俺の突然の行動でも受け入れてくれる。いや、いつもは言い過ぎた。たまにね、めちゃくちゃ怒ることもあるけどね。大体、優しい。
そんな兄さんがある日言ったんだ、そうだった。
で、兄弟から友人へ、そっからずるずると話が伝わって俺が家に引きこもる日はみの虫デーと呼ばれる様になった。あくまで俺の周り限定だけど。そういう日は家から出ずにスヤスヤ穴に篭っている。
そう、一日。
これ、もし俺がエロゲの主人公だったとしたらこのまま誰とも進展せずにバッドエンド直行だよな。
俺はよくわからない思考に不安を感じる前にゲームの不成立を案じてしまう。
もし出来たとしても、なあなあでハーレムルートがいいとこだろう。現実だったら誰とも出会わないとか普通にありえる現象だ。
「……うん」
やっぱりエロゲすごい。
知っている誰かでさえ、出会う確率はそう多くない。
自分の目線が変われば自分の立ち位置は容易く変わるのを分かっていても動かす勇気って案外ない。
ディスクを読み込んで、コンフィグ弄って、ロード画面の前でふと我にかえるんだ。
単純なんだ。そういうの。
単純だ。
布団の中で。……って、違うこと考えてたのにいつの間にかエロゲのことになってた。
「……思考がすごく残念」
あっちそっちに飛んでいく自分自身の思考が可哀想になってきた。どうやらまだ夢をみているのだろうか。
明日がこなくなる薬を飲んだみたいだ。飲んだこと無いけど。
「うおっ」
ブー、ブーと低い震動音にビックリして変な声がでた。
「あ、やべ」
やべやべやべ。
そういや、テーブルに置きっぱで一度も触っていなかった。
携帯を携帯していない、なんて揶揄されたのは記憶の彼方の話だ。連絡を取り合う最初の1分はいい。けど段々と面倒になってその後返事も返信も返さなくなってしまう。筆不精? いや、今ならどう表現するのだろうか……。単純に面倒なのが肌に合わないというか。俺は無機物に向かって、いい訳をアレコレ。
兎に角、何か有れば向こうからやってくるため俺はあまり家では連絡をとらない。置いた場所さえ今まで忘れていたくらいだった。
――。
音の発信源をみつめ、一瞬の間が空く。面倒を流すか、取るか。
天を仰ぎ決め、のそりと、まるで億劫だといわんばかりに移動し画面をタップする。1番上の最新部分に思わず眉がハの字になる。
[おはよう。]
一見何の変哲もないメッセージ。そしてそれ以前に送られたであろう言葉たち。
「………………」
俺は無言で振り返りそこには本来誰もいないはずのドアをみる。いや、正しくはドアの向こうをみた。
息を吐きながらこめかみをぐりぐりと指で押した。
[怒ってる……?]
[どうして]
四文字の圧に泣きそう。
返事をせず固まっていると、着信音が鳴り始めた。ぼうっとしてる場合ではない。ここは流石に取らないと非常に、まずい。
意を決して電話を取った。
『おはよう、よぞら』
「……あ、あは、は~~~い兄さーん、……おひさあ?」
極めて明るく振舞おうとしたがどうやら外してしまったようだ。口の端が引きつったまま向こうの沈黙に若干のノイズが混じるを聞いていた。
『便りが無いのは元気な証拠、かな?』
……それ、こないだ弟の暁に思ったやつと一緒だわ。兄弟の縁を感じるがそうじゃないだろ俺。
『一日1回。俺の記憶ではそうだったと思うんだけど』
違うかな?なんて肯定の返事しか許さない問を兄の明昼(あかる)は尋ねてくる。
電話口の相手、ゆゆ島明昼(ゆゆしまあかる)は三兄弟の長男で俺の兄である。完璧優秀、最強の兄だ。
「…………あい、ごめんなさい寝てました送るつもりでした」
『てっきり約束をやめて、よぞらがお兄ちゃんと暮らしてくれるのかなと』
「面白い事いーますねオニーサン」
『お兄ちゃんは本気だよ?』
知っとるわい……うん、本当にマジだから笑えない。
「……兄さんとだったら暮らすのも楽しいだろうけど今はまだいいかな~……」
『こないだ大家さんと話してたけどね、「後何年持ちますかなあ」だって。ほら、建物自体も大分古くて傷んでるっていってたから』
兄は声色を変えて面白げに伝えてくるが、俺は折角住めば都を見つけてやっと落ち着いてきたところなのだ。それは無いよと泣きが入る。
「え、やだなにそれ怖い! 知りたくなかったんだけどっ!?」
物理的に実の弟を脅してくるとか恐ろしい兄だ。怯えている俺を可愛いなあなんて電話口で笑っている声が聞こえる。
『詳しい話をしてあげたいところなんだけど、』
そういって口ごもった兄は心底悔しいという声色で続ける。
『生憎お兄ちゃんは今出張中なので会いに行けないんですが』
「おれはみの虫デーで忙しいのですが」
『つれないな、よぞらはお兄ちゃんの心配してくれないのかい?』
「よくいうー。――……俺の兄さんは出来る、男だからね?」
『こいつめ』
俺の軽口を窘めるものの嬉しかったのか、端整な顔がだらしなく緩んだような声が聞こえた。
『まいったな……よぞらの声を聞くと気が緩んでダメだ』
会話のテンポが出来上がったからなのか、弟を心配する質問に混じって兄の本音が入り混じる。
――心配していないなんて、嘘だ。
言葉の節々から疲れている様子を感じる。こうして電話があるときは弱っている証拠なのに、こういうときに何もしてあげられない俺は歯がゆい思いをする。
ジ――、と何かが焦げる音がした。向こうで雑音混じりの衣擦れの後に煙を吸い込むような空気も伝わって離れているのに煙たい感覚がよみがえった。
「兄さん、タバコ」
『ン、――ああバレたか』
「加齢臭に加えてタバコの臭いとかやめたほーがいいと思うけど?」
『やけにトゲがあるな』
参ったと言わんばかりに紫煙を吐き出しながら苦笑する。空気が抜ける音がスピーカーを通して震えて耳がくすぐったい。
『どうにも口寂しくてね、よぞらが居ないとこうも……あぁどうしようもない大人にキスの1つでもしてくれたら吸わなくていいんだけどな』
「世間のお兄ちゃんは弟にキスはねだらないと思うけど」
『よぞらが特別可愛いんだからしょうがないよ』
ハチミツのようにとろみのある甘さで囁く。もしも直接会っていたら本当にキスをしてその甘さが口元まで垂れてベトベトになりそうだ。
初めて目の前にいる存在を兄だと頭が認識した俺よりずっと前から、兄さんは俺はを見ていたのだ。可愛くてしょうがないんだろう。
だからか、兄は俺に甘えさえせる事しか許可しない気難しい男でもあった。
『きちんと朝は……ああこの時間だ、早速無理だったね』
「起きる時は起きてますう」
『そうか、じゃあいつになったらお兄ちゃんをモーニングコールで起こしてくれるのかな。ずっと待ってるけど、未だにこの電話はうんともすんともいわないんだ』
可愛い声を聞けないと干からびてしまうと言い張るのは俺より年上の気の狂うくらいモテる美青年だ。
「……ごめんね、それ多分一生無いやつ。ってか大体、俺がやる前に兄さんからかけてくるじゃんか」
『そうだったかな? ――残念ながらよぞらに構ってないと死んじゃう病気らしい。仕事はどうだい? 上手くやってるかな?』
「ぼちぼち。ねえ兄さん、趣味に近しい環境でできるのってすごいと思う」
『楽しそうなのは嬉しいが少し妬けるな……兄としては一度職場へ挨拶に行かないと』
「絶対やめてください死んでしまいます」
普段ならブラコンめ、で片付くが職場にまで乗り込まれると流石に俺も焦る。一般常識的に考えて弟のバイト先に兄は挨拶に来ないはずだ。それを指摘すると「俺とよぞらの関係なのに……」ってそれどんな関係だよ。有言でも無言でも実行する男は怖い。
『そういや暁(あきら)と会ったんだね』
こうして兄の猛攻、というかいつものパターンに辟易していると、急に弟の話題が出た。俺は魔法にかかったかのようにえ、と瞳を丸くして見つめた。
「暁くんが話したの?」
珍しい。
『いや、俺には相変わらずさ。だけど全身からあふれる喜びのオーラがね、フ』
「え、何それ流石俺の弟可愛すぎる」
『そうかな、俺の弟の方が可愛いんだけど』
「待ってそれだと語弊が生まれますお兄様。あなたの弟は二人です」
『おや、そうだったかな…………ハァ、……本当、俺の弟はよぞらだけで十分だったんだけどなんで増えたんだか』
しれっと恐ろしい事を呟く兄に俺の眉がへニャリと歪む。どちらも好きだから強く言えないがなんだか複雑な気持ちだ。
「えー、俺も弟欲しかったから暁が居て嬉しいけど」
『……冗談だよ。俺もよぞらが暁と楽しそうなのを見るのも嫌いじゃないよ』
でも嫉妬してしまうから程ほどにね、と恋人に囁くようにお願いをされた。だったら兄さんも俺に甘えてしまえばいいのにと思うんだけど、……それは躱されるんだよなあ。暁とは逆だ。
「あんまり暁くんで遊んじゃだめだよ」
『んん? そうだね――鼻の下が伸びてる、なんてからかうとアイツもヤカンが沸騰したみたいにピーピー……。ハハッ、あの時は傑作だった』
「……その煽りは今後絶対言わないように」
『どうかな……よぞらが傍にいてくれないと、うっかり口が滑ってしまうかもしれない』
「めんどくさい兄貴だな」
『何か言ったかな?』
「イーエ」
そういえば、と一旦話を切り兄がまた喋ります。
『俺がいない間に見張り役を少々』
「少々? ……ってどゆこと?」
『俺もずっとよぞらについてあげることが出来ないからね。ほら、うちには厄介なファンが良くついてまわるだろう。その子さ。最近新しいファンがウロウロしているのに、偶然出くわして。話してみたら互いに利害が一致して……ね。だから彼にお願いすることにしたんだ、――こっそりよぞらを助けてあげてねって』
「何それ怖、知らないところで話が進んでるのもっ怖っ」
兄が言う、自称ストーカーさん。
確かに、こういうことは初めてではない。実家にいる時にも熱狂的なファン……とここは敢えて呼ばせてもらおう、そんなファンの人たちに何だかんだ付きまとわれたり待ち伏せだったりと俺だけではなく三兄弟全員がストーキング的な……うん、そういった被害に会う事が多かった。決して良くは無い事態なのだが俺たちの中では割と日常茶飯事だったのでこうして世間話の様に落ち着いて話している訳だが。
離れている兄弟の姿を思い浮かべる。
上の兄と、下の弟は贔屓目なく眉目秀麗中身もピカイチだ。近づきたいと言う気持ちはとても分かる。兄弟関連ではどれだけブラコンだといわれても構わないのでそこに関しては隠す必要も嫉妬も、1つもない。
だが、しかし俺自身はとなると頭をひねる。
半分引きこもりみたいなフリーター、ひっついてまわったところで面白くもなんとも無いと思うが……世の中不思議なものだ。何かのついでであったとしても、そういった対象になることが常々疑問であった。現実は小説より奇なりといったところなんだろうか。
人の考えていることなんかその人にしか分からない。結局はそんなもん、と能天気に考えを放棄していたらいつの間にか見かけなくなったので実のところ実害なく健康に暮らしていた。
『良崎(ややさき)くんは俺とは少し考えが違うからこの手の話題は対立しがちでね』
「せーくん?」
兄から親友の名前が出て思わず聞き返してしまう。
晴朗は俺の意見を尊重してくれるからか、把握してこようとする兄に対して批判的だ。よぞらくん独占禁止法とかなんとか気の抜ける事を言っていた気がする。対する兄もそこまで晴朗に対して仲良く無いみたいだった。
似てる様で全く違う彼ら。俺がいない間の知らないやり取りに居心地の悪い感覚になる。尻のさわりまで悪くなったような気がして無意味に位置をずらした。
「……どうでもいいけど、んなことで喧嘩、とかはやめてくれよ兄さん。俺はどっちかがどーとかそういうのヤなんだから」
『こんなお兄ちゃん嫌いになったかい?』
「嫌いじゃないけどすさまじく疑問には思うよ」
『手厳しいな』
外見はパーフェクトなのにちょっと皮一枚めくると、これだ。澄ました顔して「どうしたらお兄ちゃん大好きって言ってくれるかな?」なんてクソ真面目に考え込んでるブラコンだと誰が思うだろう。
ストーカーを見張りに利用するとか怖い事言わなければ最高に好きだったかもね、とは言わずにおくのは兄弟としての良心だ。
◇ ◇
『名残り惜しいけどそろそろ時間だ。いいかいよぞら、できるだけご飯とお風呂と――』
「あーっといけない手がすべっ」
――た。
手元の相棒も、分かっている癖に聞いてくる確信犯の説教に耐え切れず充電が落ちてしまったようだ。南無三。
手元には通話終了の文字が表示され、賑やかさから一変して再び沈黙の時間に戻る。シン……とした部屋には俺一人。こちらに戻ってきた感覚を取り戻すように自然に口から吐息が漏れ出す。こうして冗談を交えて話すのは楽しいが強制的に打ち切らないと兄との会話は終わらない。
兄さんよ、しばしさらば。
俺のいたずら含めて結局、全て兄さんの思惑通りだろう。お茶目な兄弟の会話だ。
今一番脳に渦巻いているのは楽しいと眠いが少し。兄と話すのは楽しいのだと、また頭に植え付けられていく。不快な感情も無い。
俺と兄との関係性。それは口からこぼれる前にすぐに消える。俺たちの中ではこれが日常で。
――俺はそっと目を伏せる。
きっと俺が死ぬと、彼は泣く。
俺が行くと、彼は。
かまってもらえないと、俺は退屈するのか?
まるで有名な詩集にある、反応を窺う子供のようなことが頭に浮かぶ。兄弟の対話を成している行き過ぎたループから仮に抜け出すとしたら、自分の過ちを正すのが一番の近道なのは違いない。俺がだらしない所から始まっていると自覚している。
俺も弟に対して過保護な態度をとってしまうからあまり強くはいえないが、兄と対峙しているとなんだかひたすら試されているようなそんな気分になる。そうなると、やっぱり俺は兄さんに抗えないと気づく。
好きだ、楽しい、気持ちいい。案外その程度だ。自分でつかみ取れる感情は少ないほどいい。
深く考えたところで責任を取ってくれる誰かなんて自分以外存在しない。
だから多分、これからも俺はだらしなく兄と会話して甘えさせることに躍起になっているのだろうし、彼もそうするのだろう。ああブラコン万歳。
長時間寝ていた後にひとしきり声を出すと、ぼーっとしていた頭が大分しゃっきりしてきた。とりあえず起きてご飯にするかーと立ち上がると、一瞬立ち眩みで世界がゆがんだ。下に落ちるような感覚になって柱を支えに踏ん張る。何か音、いや――。
ふらついた時にぶつけたのかと思ったが新着メッセージが届いたようで、画面が青白く光っていた。
電話をわざと切った後の小言か……と先ほどまでの相手を想像するが。
「……」
反応せずに黙っているとまた新しいメッセージが届く。
……いつから。
短い文章と共に俺の寝顔が送られてくる。
「おいこら不法侵入じゃねーか」
次から次へと……。
俺が目にした画像には、暗がりだが夜寝こける自分が写っていた。ご丁寧にヨダレを拭いている明らかに俺じゃない手も一緒にだ。
ワザと一歩ずつ足音をたてて玄関のドアまで行き、勢いよく開ける。かかっていないチェーンが衝撃で揺れ金属音が響いた。
辺りを見回すが人影はない。
「……そこにいるんだろ?」
俺はトントンと開けたままのドアをノックした。すると同じテンポで何処からかコンコンと返ってくる。あーあーもう。よくわからないのに声にならない声が出そうになる。出てこないならもう知らない。ドアノブを握りしめ閉めようとするとカサリとビニールの擦れる音が聞こえた。床にをゆっくり見回すとインターホンの真下に袋が置いてあるのが見えた。
――なんぞこれ。
ひょいと持ち上げ中身を見る。おお、これは。
これが、例の。ああ、うん。そうかそう来るか。
今まで姿を見かけなかっただけあって、隠れるのはうまいなあと1人納得する。
チリ、とほんの少し好奇心が肌を焼く。
「……なあ、一緒に食べない?」
そう言って俺は袋を持ち上げた。
◇ ◇
「…………」
そこにいるであろう人物を誘ったものの、俺は今まで文字でしかやりとりをしていないから顔も声も知らない。今日もやっぱり外は重い鉛色の空だし、外をうろつく人影も無いに等しい。駐車場と物陰に避難して静かで細い雨を凌ぐ数匹の雀だけだ。
このままでは、誰も居ないのに声をかけた変な奴になってしまうのでは……。
誰も見ていないがなんとなく引っ込みがつかなくなり、俺はとりあえず玄関先に座り込む。段々と雨脚も弱くなってきたから、もうすぐ晴れて夕焼けに変わるのだろう。
「……」
ぼーっと景色を眺めていたらすっと俺の体に影が差した。なんだろうと何気なしに見上げると。
「ひっ……、――」
そこには少し息を切らしたのか肩を上下させながら――目深にかぶった帽子と、ご丁寧にサングラスまでかけたデカくて……怪しい男が立っていた。
「びっっ、くりしたあ…………」
デジャブ、というか自分の驚愕加減がループもので有名なあのゲームのイベントシーンとだぶる。トイレの手洗い場の鏡にいつの間にか映っていた彼女並に、彼の身のこなしは完璧だった。市原式諜報術もびっくりだ。ストーキングのプロはみんな気配なく立ち回れるものなの?
「あー……君がコレで……、これ?」
俺の指はチグハグに手にしていた袋と目の前の彼をいったり来たりする。すると、それを肯定するように頭が上下に動いた。はちきれんばかりの大げさな振りに俺はさっきまで感じていた緊張が緩み眉じりがさがる。ふうと息を吐いた。
とりあえず座りな、と隣を勧めると言われるがままに彼は腰を下ろした。あ、なんか従順。
「で、あー、前から知ってたことは知ってたんだけど……いやなんだコレ。何時ものストーカーと全然ジャンルが違うじゃん…………あ、いやさ、君のこと兄さんから聞いたけどそれでいいの? っていうか何て……呼ぼう」
俺は矢継ぎ早に自問自答、そしてそれが終わると彼へ質問をする。
「っ、ゆゆさん、」
「あ、ハイ」
俺のことはそう呼ぶのね。
「……、名前は、ちょっと」
「……あー、そ。言いづらかったらいーんだけどさ、…………いつから?」
どうやら名前を教えるのはまずいらしくぼかされてしまった。それならばと、どちらかと言うと聞きたかった方の要件を切り出した。
といっても本人を前にすると直接聞くのは気が引けてしまい、俺は曖昧に言葉を濁してしまったのだが。ちらりと気まずげに彼を見やると俺の視線に気づき……こくりと頷いた。俺はそれを見て、あははと苦笑いを1つ。どうやら伝わったようだ。彼は興味を持ち始めた辺りの話を俺に教えてくれた。
「……ゆゆさんが一人暮らしする前から、ですかね」
「え、ウソ」
またこくり、と頷く。
「ゆゆさんが高校の時から」
予想外の答えを口にする彼を俺は思わず凝視してしまう。え、めっちゃ長いじゃん。
数年以上となると、彼は数ある歴代ストーカーの中で1番長いことになる。
「よくまあ、あの兄さんたちを掻い潜ったね……」
血縁の愛は重いってエロゲの聖書に書いてあるくらいなのに……うそ、これは今俺が考えました。でもそれくらい兄の愛も相当重い。本当に上手くやったものだ。
俺の頼りにならない記憶では、今までいたであろう少数のファンらしき人達は兄や弟に認知されたらすぐに姿を消していたはずだ。だからむしろ他の二人のファンで霞んでしまい存在すら忘れていた。
わー、うわーと。そこまで長く想われていたのかと思うと苦笑と共に照れが出る。気味が悪いとは思わなかったのは目の前の青年の雰囲気が純粋な好意だったからだろう。普通に友人と話してる気分だ。
「ゆゆさんの自称ストーカーの座は伊達じゃあないですから」
「そこは威張るとこじゃないだろ」
「ええ、でもなんだかうれしくって」
顔は帽子やサングラスで隠れてほとんど分からないが、口元で笑顔になっているのが分かる。
……喜ばせちゃったー。
俺は額を押さえてタハハとうなだれる。あー。
でもめちゃくちゃ嬉しそうなんだよなあ……。好意全開でむず痒さというか、絆された感じになる。
ん、待って待って、君――昨日部屋入ってきたよね!?流されそうになるが不法侵入されていたんだった。
「そういや昨日の写真……」
サングラス越しだがニコリと微笑んだ気配がした。口元は明らかに綺麗に微笑んでいる。
「君、ねえ……」
「だってゆゆさん、うさみみ画像くれないから……」
「………………あのねえ、こういうことするからってわかってる?」
首をかしげ拗ねる仕草に俺は騙されない。いいですか、と居住まいを正す。
「盗撮は犯罪です」
俺は彼の方へと指を突きつける。それにつられて顔が指先へと動く。どうやら話は聞いているみたいだ。
「――こういうの遭遇する度思うんだけど、さ。まどろっこしいことしてないで、普通に会いに来ればいいのになんでそうしないの?」
「多分……その時点で感覚がズレてるんだと思います。こんなことしてる相手に会えだなんて熱烈すぎます」
「君ポジティブすぎない……?」
「それほどでも……」
褒めてないが。
「ちなみにエロすぎてどうにかなっちゃいそうでした。すみません。」
「えへへ、じゃあないが」
立てた三本指を俺はペシと弾く。
この反応さえ、向こうの思う壺だと思うと何だかなおのこと悔しくなる。
寝顔だけで3回、そう自慢げに言ったコイツのセリフに俺は力なく「あ、ソウ……」と返事をする。聞きたくなかった……人のおシコリ報告ほど脱力するものはない。っていうか寝顔でシコれるくらい好きなのね、照れるわ。ゲンナリとする俺に対して彼はサングラスの奥からウインクが飛んできそうな勢いだ。
男はみんな猥談が好きなんだな。
「まあとりあえず食べるか……」
下ネタを誤魔化すように俺は放置されていた袋を漁り、そのうちの1つを隣に放り投げた。パシッと軽い音をたてて彼の手の中にコロッケと甘めのソースがかかったパンが渡る。
「……っ」
「おいしいよねえソレ。君はそれで、俺は……これ。塩パンにツナマヨ挟んでるの。超好き」
どうせ中にあるのは俺の好物ばかりだ。無遠慮に彼に渡し、俺も好きなのを選ぶ。
バターと塩の塩味が効いた塩パンにツナマヨとリーフレタス。卵もいいけど個人的にはツナマヨの方が塩パンには合うと思う。一口噛むと少しジャリッとした後に軽い触感とツナの味わいがやってきてたまらない。
う~ん、と味わっていると視線を感じた。
「…………」
どうしたの、とは敢えて聞かない。だって視線が物を言っている。てかめっちゃ見てる。俺が食べているのをひたすら見ている。
「……見てておもしろい?」
こくこくと彼は縦に首を振る。
「あー……そう」
半開きの口で気の抜けた相槌を打った後、俺はパク、と大口を開けて頬張った。
美味しいものは一瞬で無くなる。両手が空になると、横からこれもどうぞと差し出される。
「それ俺がさっき渡したやつじゃん」
「ゆゆさん、それも好きですよね。……というか袋の全部、どうぞ」
「――いいの? 俺こういうの遠慮しないけど」
「ぜひお願いします」
「あ、そう……さいですか」
妙に熱のこもった物言いには気づかないふりをして、コロッケパンを頬張ると野菜ジュースが差し出された。
三大欲求には抗えないな。
お互いに。
空が少しだけ明るくなり、暮れる前特有の色の移り変わっていく。今更ながら部屋に入れば良かったかなと仰ぎ見るが、詳細はわからないものの横顔には不満の色は見られない。視線に気づいたのか、緩く弧を描いて嬉しそうに、そしてまだ少し恥が残るのを示すような距離感で俺の隣に座っている。
きっと雨が降り止んでこれからこの街の夕焼けは苦しいくらい赤く染まる。
「ゆゆさんは、どうして一人で暮らしているんですか……」
静かに、そして不思議に思われ良く聞かれる言葉を彼は口にした。
「君は知ってるんじゃあないの?」
俺はニィ、と悪い顔で笑う。
「知っていますが、知らないです」
彼はかぶりを振る。本当のことは知らないと言う。
「……ゆゆさんを見てたら、――目が合うんです。……あなた以外にあなたを見ている人は……沢山いますね」
「そうかなあ」
謙遜のつもりはない。そこまで人は他人に興味がないと俺は思っているから。そんな俺にそうですか。と形ばかりの相槌が打たれた。
「でもこの間なんかナイトみたいに睨まれました」
「ナイト言うなし……まあ確かに兄さんも特にせーくんはあんまコソコソッていうのは好きじゃないみたいだからなあ」
夕陽に照らされたアスファルトの影がワザとらしく伸びて俺は目を細める。すると、隣の彼も眩しそうに俺を見た。
これから暗くなるのに、この時間だけは異様に色が強い。
「西陽がキツイねえ」
「ゆゆさんが眩しくて、俺、どうにかなっちゃいそうです」
「俺色素薄いからね、……」
「ずっと見てました。今だってこんなに……溶けてどこかに行ってしまいそうで。――ほんと、俺、今もあなたが」
――好きで堪らない。
振り絞るような精一杯の声に俺は恥ずかしくて耳まで赤くなる。体の反応は止められない。
「どっストレートだなあ」
せめてもの照れ隠しで顔を手で仰ぐ。
「すみません、困らせるつもりは無かったんです。ただの迷惑な一目惚れだから、ほんとは……こうして話す予定もなかったんです」
「そうなの?」
「……まとわりつかれる方は嫌ですよね。しかも男なんかに。あ、何も言わなくていいです。……俺、迷惑かけるつもりは無くて、だからゆゆさんのお兄さんにバレて………………しばらくしたら辞めるつもりだったんです……でも」
一瞬間が空く。
「そこまでまともな人間じゃなかったみたいです。
――だから、すみません」
謝罪の言葉から先は全てが早く、俺は彼の行動についていくことができなかった。
彼は迷い無く俺の額に唇を寄せて一瞬だけ触れる。
「今日は帰ります……玄関の鍵は閉めた方が、良いです」
「へ」
言いたいことを言い終えると、彼は間抜けに目をぱちくりとさせている俺に構うことなくすり抜けていった。
残された照れ隠しで口元を押さえる。
「新鮮で破壊力がすさまじい……」
俺の周りはどうにも偏屈で回りくどいのばっかりだったからこんな直球は反則なくらいに効いた。
◇ ◇
「――っと、…………誰アンタ」
引き止められずに惚けていると少し向こうで不穏な声が聞こえた。俺は辺りを見回すが彼の姿はもう見えない。すると聞こえた声の主は一体誰だ。
俺は夕陽の沈む方角に黒い影を見つけ、目を細め予想外の姿に声が上ずった。
「あれ? ――暁(あきら)くん」
突然現れた弟の名前を呼ぶ。こんな時間にと思ったが学校もとうに終わった時間だ。放課後に寄るのもなんら不自然では無い。
彼は俺の呼びかけに反応することなく、さっきまでいた彼が消えていった方を見つめていた。
「…………あいつ……」
「あきら……くん?」
「…………」
小さく、ぐっと噛み締め何かを呟く彼はいつもと様子が違うようだ。再度声をかけるが気づかないのか反対側を向いて黙り込んだままだ。様子を窺っていると、不意に切り替える様に俺へと向き直った。その時には感じた違和感は無くなっていて、いつもの見慣れた弟が俺の名を呼び、そして呆れた。
「よぞ兄……って何してたの……」
「………………あー」
不審に思った暁は眉間に皺を寄せて外にいた理由を尋ねてくる。そりゃあそうだ、普段外に出ないのに玄関前で佇んでいるとか、おかしいにも程がある。俺を知る人ほどそう思うだろう。
問い詰める視線から逃げられない俺は答えを探すように目が泳ぐ。
「……あ、あー…………」
「よぞ兄?」
「………………パン、奢ってもらって食べてた」
「…………」
「………………」
「……………………よぞ兄、知らない人に食べ物をもらっちゃいけないって教わらなかった?」
ぐうの音も出ない。
「よぞ兄のそんな所がかわいいと思うけど心底バカだと思うっていうかバカだろ」
「ああ、暁くんが、お兄ちゃんをそんな目で……っうっみないで」
「……」
罵倒の後の無言は効く。うっ。と胸を押さえるがそんな俺の仕草も当然無視だ。
「うっうっ…………ふぅ。……というか暁くん何か用でもあったっけ?」
「よぞ兄に会いたくて」
「へ、」
「……今日兄貴いないから寂しくて、さ」
さっきの冷たい態度から一転して子犬のような寂しさを纏って――俺を見てはすぐに視線を下へと向ける。こういう子供かわいい仕草に弱い俺はしょぼくれた弟の顔を上げさせるが。
「え、それは大歓迎! …………あ、じゃなかったダメ、だ、だだだだめ! 嫌じゃ無いけどだ、」
「どっちだよ」
「~~~っ!」
俺のどっちつかずの返答にすたすたと部屋に入り込む暁。慌てて立ち塞がるが非力な体では太刀打ちできない。まるで当然かのように軽く押し退けられた。いけない、その部屋には俺の大事な――!
「あ、ちょっ、ちょっと待って暁くん! 5分! 5分待って片付けるから~~――っ一生のお願い!」
とろとろした意識は現実だと認識するのが難しくて目線が定まらない。
瞼の奥から空気に触れる皮膚まで、自分の思うように動かなくて心底疲れてくる。
「………………」
ああ、――寝てたんだ。
家だわ。布団の中で。
覚えていない夢をみていた。――等。
ゆっくりと、子供のように拙い単語がぽつぽつと浮かんでくる。それをしばらく自分の頭の上から眺めていた。
◇ ◇
起きたての額にはうっすらと汗がにじんでいる。室内の温度はそれほど高くなく過ごしやすいはずだが平熱の高い俺には自らの体温が移った布団が暑くて非常に不快だった。
――気持ちわりぃ……。
掛け布団を押し退け、そのまま直ぐにでも這い出たかったが結局何ミリか体がずり動いただけに留まる。残念ながら起き上がる気力が無い方に軍配が上がった。諦めた俺は温いシーツに寝転がったまま、地面に近い目線で部屋をぼんやりと見やる。
うちにはベッドなどという高級なものは無く、床に直接布団を敷いている。
悲しいかな、値段も高いしね。運び込むのも、持ち出すのも大変だったりするしと誰にも聞かれていないのにいい訳を並べる。
特にこの狭い部屋に置いたら強制的にベッドの上で生活だ。この言い方だとなんだか爛れた生活……なんて下世話な想像をしてしまうが、自分の場合は怠惰さに磨きがかかって本当によろしくない。ええ。
元々雑魚寝で十分な俺は薄い布団で寝起きするくらいが似合っている。
むしろ、最悪布団はなくてもいい。トイレでも台所でも、ゲームしながら床で寝落ちもひんやりとして好きだ。硬い床最高。
……けど、これを見られると大概怒られるんだよな。ほぼ全員に。
俺は心の中で不満だとばかりにぼやく。
こないだなんか「眠るのは好きなのに寝具や場所には別段こだわりは無いんだね」って、せーくんに遠回しな嫌味をねちねち言われたっけ。
でも叱られるうちが花だよな。と有難くも思う。でもそう思いながら結局俺は床で寝てしまうのだけれども。
辺りはすっかり暗くなり、四角い窓はムラのある墨色で塗られたようになっていた。暗いということは部屋に電気がついていない。ああそうだ俺が眠ると彼は電気を消すんだった。だがカーテンは開けられたままで、だから窓から外の景色が見えたんだ。それを1つずつ確認して再度窓の存在を認識するとサッシのアルミだけ浮いているようにみえた。
住んでいるアパートは古く、部屋数も少ない二階建てだ。気前の良いじいちゃんが大家をしていてる。こぢんまりと静かで人付き合いの苦手な俺にはありがたかった。というか、俺以外の部屋には誰も住んでいないので人っ子一人いない。入居時にじいちゃんが言っていたから多分事実のはずだ。兄もそんなことを話していたし。
俺は仰向けになり片膝を立てる。
……また眠くなってきた。
せめて電気をつけるかと思うものの、起き上がって照明をつけなければならないのが億劫になり体の力が抜ける。衣擦れの音だけがかすかに聞こえた。
「……。ふ……」
眠い。あまりの眠さに現実を直視できなくて瞼が自然に閉じかけ……――。
起きる。
睡眠で1番嫌なのは――この瞬間だ。
起きてしまえばその後はなんてことは無いのに、何故あれほど億劫なのだろうかといつも疑問に思う。不調な時は眠ろう、とか、睡眠は大事だ、とか言うが……風呂に入る時と同じでだるくて嫌になる。非常に面倒くさい。きっと不眠の人からしたら贅沢な悩みなのだろうけど、眠すぎて起きられない自分からすれば本当に困ってしまうんだ。起きようとするのと比例して体が重くなる。
動かないから、何もしないから。だから変化なし。正常、声色、見え方異常なし。精神に問題なし、なし、なし――なし。
このまま起きたくない、なあ。
前後左右不覚になって、また無駄に考える。眠る前から駄々をこねるのにも疲れてきた。
こうして眠って起きて眠って、起きてまた眠って。だんだんとぼやけてきた思考で1つ。また1つ。
生きることが希薄になったのはいつからだろうか。いや、そもそもそんな濃さがあったのだろうか。
死ぬまで生きるのかと。そうなんだ。死ぬまで死ねないんだって。そう考え始めてからだろうか。
どうもする気は無いのだけど、ずっと薄まっているのだけは感じている。
薄まった感情では到底死ねない。
堂々巡りがおかしくてくつくつと笑いがこみあげる。鼻で息をすると布団の山が揺れてまた少し音がした。
ゴリラのココを知っているだろうか。
彼女は高い知性を持ち、人間と独自の手話を通じて感情のやり取りをしていたとても稀有な存在だった。生活の中である日、猫と出会い彼女たちは愛情を育み、そして別れを体験した。悲しみに暮れる彼女は人にこう伝えたらしい。
――苦痛のない穴にさようなら
死という概念。
最終的な到達は、苦痛、苦労のない無なんだと。それを知った時、俺はひどく共感したのを覚えている。きっと恨み切れない悲しみや怒りの先にあるのは諦めも絶望もない穴のように暗くて、でも安らかに眠れる場所であるのかと。結局は穴の中で全部優しく溶けていく。
起きようが寝ようが、こうして考えていようがどうにもしようがないことで。
いら立ちを覚えても力任せに叩いても、分かって欲しいことがあっても。
もう全部穴に入ってくるまってしまえばいっか。
願わくは、薄まった中でそのまま。
布団のなかと穴は同一であり、この部屋は1人でいられる唯一の空間だった。
――カタリ。
不意に外から物音が聞こえた。
「……」
隣の部屋には誰もいない。はずだ。もしかすると知らないだけで引っ越してきていたりするのか……でも人とすれ違うことなんて皆無だったし……じゃあ犬? ……それとも猫?
その音が何なのか分からず、まどろんだ意識とは逆に鼓動だけが早くなる。あまりに意識と体の反応が違うからか、思わず心臓にアルミホイルを巻くか? と思考が電波な方へ飛ぶ。
……ああ、もう。なんかもう色々面倒くさい。
瞼がまた重くなって今度は開かなくなる。
再度物音が聞こえた。俺は横向きになり枕で塞がれていない方の耳を片手で塞ぐ。そうすると自分の脈打つ鼓動の方が大きくなり、一定のリズムを刻む音に意識をとられていく。
「………………」
…………。
寝入った呼吸音をかき消すように振動音が聞こえる。
テーブルの上でメッセージが届いたのを知らせるために液晶が光った。
――カタリ。
暗闇の中青白い人影が映って、消えた。
◇ ◇
おいおい、寝過ぎた。
今何時かなんて知りたく無いくらい部屋が明るい。
しかも鼻の頭が何だか乾燥してるというかカピカピしているというか。肌が荒れたのだろうか。いつもと違う違和感を感じつつも俺は昨日を振り返ってみる。
確か……、せーくんとラーメン食べて、寝て1回起きて……眠いっていって寝たな。
うーん赤ちゃん。
何か他にあったような気がしてしばらく考えこんだものの、そのひっかかりは思い出せずに終わった。まあいいや、今日はみの虫デーだし。ともう一度布団に包まる。
このモコッと膨らんだ様子がみの虫みたいと言われたのはいつだっただろうか。
晴朗か、……いや兄さんだったか。ああ、兄さんだった。
兄さんはいつも優しいから俺の突然の行動でも受け入れてくれる。いや、いつもは言い過ぎた。たまにね、めちゃくちゃ怒ることもあるけどね。大体、優しい。
そんな兄さんがある日言ったんだ、そうだった。
で、兄弟から友人へ、そっからずるずると話が伝わって俺が家に引きこもる日はみの虫デーと呼ばれる様になった。あくまで俺の周り限定だけど。そういう日は家から出ずにスヤスヤ穴に篭っている。
そう、一日。
これ、もし俺がエロゲの主人公だったとしたらこのまま誰とも進展せずにバッドエンド直行だよな。
俺はよくわからない思考に不安を感じる前にゲームの不成立を案じてしまう。
もし出来たとしても、なあなあでハーレムルートがいいとこだろう。現実だったら誰とも出会わないとか普通にありえる現象だ。
「……うん」
やっぱりエロゲすごい。
知っている誰かでさえ、出会う確率はそう多くない。
自分の目線が変われば自分の立ち位置は容易く変わるのを分かっていても動かす勇気って案外ない。
ディスクを読み込んで、コンフィグ弄って、ロード画面の前でふと我にかえるんだ。
単純なんだ。そういうの。
単純だ。
布団の中で。……って、違うこと考えてたのにいつの間にかエロゲのことになってた。
「……思考がすごく残念」
あっちそっちに飛んでいく自分自身の思考が可哀想になってきた。どうやらまだ夢をみているのだろうか。
明日がこなくなる薬を飲んだみたいだ。飲んだこと無いけど。
「うおっ」
ブー、ブーと低い震動音にビックリして変な声がでた。
「あ、やべ」
やべやべやべ。
そういや、テーブルに置きっぱで一度も触っていなかった。
携帯を携帯していない、なんて揶揄されたのは記憶の彼方の話だ。連絡を取り合う最初の1分はいい。けど段々と面倒になってその後返事も返信も返さなくなってしまう。筆不精? いや、今ならどう表現するのだろうか……。単純に面倒なのが肌に合わないというか。俺は無機物に向かって、いい訳をアレコレ。
兎に角、何か有れば向こうからやってくるため俺はあまり家では連絡をとらない。置いた場所さえ今まで忘れていたくらいだった。
――。
音の発信源をみつめ、一瞬の間が空く。面倒を流すか、取るか。
天を仰ぎ決め、のそりと、まるで億劫だといわんばかりに移動し画面をタップする。1番上の最新部分に思わず眉がハの字になる。
[おはよう。]
一見何の変哲もないメッセージ。そしてそれ以前に送られたであろう言葉たち。
「………………」
俺は無言で振り返りそこには本来誰もいないはずのドアをみる。いや、正しくはドアの向こうをみた。
息を吐きながらこめかみをぐりぐりと指で押した。
[怒ってる……?]
[どうして]
四文字の圧に泣きそう。
返事をせず固まっていると、着信音が鳴り始めた。ぼうっとしてる場合ではない。ここは流石に取らないと非常に、まずい。
意を決して電話を取った。
『おはよう、よぞら』
「……あ、あは、は~~~い兄さーん、……おひさあ?」
極めて明るく振舞おうとしたがどうやら外してしまったようだ。口の端が引きつったまま向こうの沈黙に若干のノイズが混じるを聞いていた。
『便りが無いのは元気な証拠、かな?』
……それ、こないだ弟の暁に思ったやつと一緒だわ。兄弟の縁を感じるがそうじゃないだろ俺。
『一日1回。俺の記憶ではそうだったと思うんだけど』
違うかな?なんて肯定の返事しか許さない問を兄の明昼(あかる)は尋ねてくる。
電話口の相手、ゆゆ島明昼(ゆゆしまあかる)は三兄弟の長男で俺の兄である。完璧優秀、最強の兄だ。
「…………あい、ごめんなさい寝てました送るつもりでした」
『てっきり約束をやめて、よぞらがお兄ちゃんと暮らしてくれるのかなと』
「面白い事いーますねオニーサン」
『お兄ちゃんは本気だよ?』
知っとるわい……うん、本当にマジだから笑えない。
「……兄さんとだったら暮らすのも楽しいだろうけど今はまだいいかな~……」
『こないだ大家さんと話してたけどね、「後何年持ちますかなあ」だって。ほら、建物自体も大分古くて傷んでるっていってたから』
兄は声色を変えて面白げに伝えてくるが、俺は折角住めば都を見つけてやっと落ち着いてきたところなのだ。それは無いよと泣きが入る。
「え、やだなにそれ怖い! 知りたくなかったんだけどっ!?」
物理的に実の弟を脅してくるとか恐ろしい兄だ。怯えている俺を可愛いなあなんて電話口で笑っている声が聞こえる。
『詳しい話をしてあげたいところなんだけど、』
そういって口ごもった兄は心底悔しいという声色で続ける。
『生憎お兄ちゃんは今出張中なので会いに行けないんですが』
「おれはみの虫デーで忙しいのですが」
『つれないな、よぞらはお兄ちゃんの心配してくれないのかい?』
「よくいうー。――……俺の兄さんは出来る、男だからね?」
『こいつめ』
俺の軽口を窘めるものの嬉しかったのか、端整な顔がだらしなく緩んだような声が聞こえた。
『まいったな……よぞらの声を聞くと気が緩んでダメだ』
会話のテンポが出来上がったからなのか、弟を心配する質問に混じって兄の本音が入り混じる。
――心配していないなんて、嘘だ。
言葉の節々から疲れている様子を感じる。こうして電話があるときは弱っている証拠なのに、こういうときに何もしてあげられない俺は歯がゆい思いをする。
ジ――、と何かが焦げる音がした。向こうで雑音混じりの衣擦れの後に煙を吸い込むような空気も伝わって離れているのに煙たい感覚がよみがえった。
「兄さん、タバコ」
『ン、――ああバレたか』
「加齢臭に加えてタバコの臭いとかやめたほーがいいと思うけど?」
『やけにトゲがあるな』
参ったと言わんばかりに紫煙を吐き出しながら苦笑する。空気が抜ける音がスピーカーを通して震えて耳がくすぐったい。
『どうにも口寂しくてね、よぞらが居ないとこうも……あぁどうしようもない大人にキスの1つでもしてくれたら吸わなくていいんだけどな』
「世間のお兄ちゃんは弟にキスはねだらないと思うけど」
『よぞらが特別可愛いんだからしょうがないよ』
ハチミツのようにとろみのある甘さで囁く。もしも直接会っていたら本当にキスをしてその甘さが口元まで垂れてベトベトになりそうだ。
初めて目の前にいる存在を兄だと頭が認識した俺よりずっと前から、兄さんは俺はを見ていたのだ。可愛くてしょうがないんだろう。
だからか、兄は俺に甘えさえせる事しか許可しない気難しい男でもあった。
『きちんと朝は……ああこの時間だ、早速無理だったね』
「起きる時は起きてますう」
『そうか、じゃあいつになったらお兄ちゃんをモーニングコールで起こしてくれるのかな。ずっと待ってるけど、未だにこの電話はうんともすんともいわないんだ』
可愛い声を聞けないと干からびてしまうと言い張るのは俺より年上の気の狂うくらいモテる美青年だ。
「……ごめんね、それ多分一生無いやつ。ってか大体、俺がやる前に兄さんからかけてくるじゃんか」
『そうだったかな? ――残念ながらよぞらに構ってないと死んじゃう病気らしい。仕事はどうだい? 上手くやってるかな?』
「ぼちぼち。ねえ兄さん、趣味に近しい環境でできるのってすごいと思う」
『楽しそうなのは嬉しいが少し妬けるな……兄としては一度職場へ挨拶に行かないと』
「絶対やめてください死んでしまいます」
普段ならブラコンめ、で片付くが職場にまで乗り込まれると流石に俺も焦る。一般常識的に考えて弟のバイト先に兄は挨拶に来ないはずだ。それを指摘すると「俺とよぞらの関係なのに……」ってそれどんな関係だよ。有言でも無言でも実行する男は怖い。
『そういや暁(あきら)と会ったんだね』
こうして兄の猛攻、というかいつものパターンに辟易していると、急に弟の話題が出た。俺は魔法にかかったかのようにえ、と瞳を丸くして見つめた。
「暁くんが話したの?」
珍しい。
『いや、俺には相変わらずさ。だけど全身からあふれる喜びのオーラがね、フ』
「え、何それ流石俺の弟可愛すぎる」
『そうかな、俺の弟の方が可愛いんだけど』
「待ってそれだと語弊が生まれますお兄様。あなたの弟は二人です」
『おや、そうだったかな…………ハァ、……本当、俺の弟はよぞらだけで十分だったんだけどなんで増えたんだか』
しれっと恐ろしい事を呟く兄に俺の眉がへニャリと歪む。どちらも好きだから強く言えないがなんだか複雑な気持ちだ。
「えー、俺も弟欲しかったから暁が居て嬉しいけど」
『……冗談だよ。俺もよぞらが暁と楽しそうなのを見るのも嫌いじゃないよ』
でも嫉妬してしまうから程ほどにね、と恋人に囁くようにお願いをされた。だったら兄さんも俺に甘えてしまえばいいのにと思うんだけど、……それは躱されるんだよなあ。暁とは逆だ。
「あんまり暁くんで遊んじゃだめだよ」
『んん? そうだね――鼻の下が伸びてる、なんてからかうとアイツもヤカンが沸騰したみたいにピーピー……。ハハッ、あの時は傑作だった』
「……その煽りは今後絶対言わないように」
『どうかな……よぞらが傍にいてくれないと、うっかり口が滑ってしまうかもしれない』
「めんどくさい兄貴だな」
『何か言ったかな?』
「イーエ」
そういえば、と一旦話を切り兄がまた喋ります。
『俺がいない間に見張り役を少々』
「少々? ……ってどゆこと?」
『俺もずっとよぞらについてあげることが出来ないからね。ほら、うちには厄介なファンが良くついてまわるだろう。その子さ。最近新しいファンがウロウロしているのに、偶然出くわして。話してみたら互いに利害が一致して……ね。だから彼にお願いすることにしたんだ、――こっそりよぞらを助けてあげてねって』
「何それ怖、知らないところで話が進んでるのもっ怖っ」
兄が言う、自称ストーカーさん。
確かに、こういうことは初めてではない。実家にいる時にも熱狂的なファン……とここは敢えて呼ばせてもらおう、そんなファンの人たちに何だかんだ付きまとわれたり待ち伏せだったりと俺だけではなく三兄弟全員がストーキング的な……うん、そういった被害に会う事が多かった。決して良くは無い事態なのだが俺たちの中では割と日常茶飯事だったのでこうして世間話の様に落ち着いて話している訳だが。
離れている兄弟の姿を思い浮かべる。
上の兄と、下の弟は贔屓目なく眉目秀麗中身もピカイチだ。近づきたいと言う気持ちはとても分かる。兄弟関連ではどれだけブラコンだといわれても構わないのでそこに関しては隠す必要も嫉妬も、1つもない。
だが、しかし俺自身はとなると頭をひねる。
半分引きこもりみたいなフリーター、ひっついてまわったところで面白くもなんとも無いと思うが……世の中不思議なものだ。何かのついでであったとしても、そういった対象になることが常々疑問であった。現実は小説より奇なりといったところなんだろうか。
人の考えていることなんかその人にしか分からない。結局はそんなもん、と能天気に考えを放棄していたらいつの間にか見かけなくなったので実のところ実害なく健康に暮らしていた。
『良崎(ややさき)くんは俺とは少し考えが違うからこの手の話題は対立しがちでね』
「せーくん?」
兄から親友の名前が出て思わず聞き返してしまう。
晴朗は俺の意見を尊重してくれるからか、把握してこようとする兄に対して批判的だ。よぞらくん独占禁止法とかなんとか気の抜ける事を言っていた気がする。対する兄もそこまで晴朗に対して仲良く無いみたいだった。
似てる様で全く違う彼ら。俺がいない間の知らないやり取りに居心地の悪い感覚になる。尻のさわりまで悪くなったような気がして無意味に位置をずらした。
「……どうでもいいけど、んなことで喧嘩、とかはやめてくれよ兄さん。俺はどっちかがどーとかそういうのヤなんだから」
『こんなお兄ちゃん嫌いになったかい?』
「嫌いじゃないけどすさまじく疑問には思うよ」
『手厳しいな』
外見はパーフェクトなのにちょっと皮一枚めくると、これだ。澄ました顔して「どうしたらお兄ちゃん大好きって言ってくれるかな?」なんてクソ真面目に考え込んでるブラコンだと誰が思うだろう。
ストーカーを見張りに利用するとか怖い事言わなければ最高に好きだったかもね、とは言わずにおくのは兄弟としての良心だ。
◇ ◇
『名残り惜しいけどそろそろ時間だ。いいかいよぞら、できるだけご飯とお風呂と――』
「あーっといけない手がすべっ」
――た。
手元の相棒も、分かっている癖に聞いてくる確信犯の説教に耐え切れず充電が落ちてしまったようだ。南無三。
手元には通話終了の文字が表示され、賑やかさから一変して再び沈黙の時間に戻る。シン……とした部屋には俺一人。こちらに戻ってきた感覚を取り戻すように自然に口から吐息が漏れ出す。こうして冗談を交えて話すのは楽しいが強制的に打ち切らないと兄との会話は終わらない。
兄さんよ、しばしさらば。
俺のいたずら含めて結局、全て兄さんの思惑通りだろう。お茶目な兄弟の会話だ。
今一番脳に渦巻いているのは楽しいと眠いが少し。兄と話すのは楽しいのだと、また頭に植え付けられていく。不快な感情も無い。
俺と兄との関係性。それは口からこぼれる前にすぐに消える。俺たちの中ではこれが日常で。
――俺はそっと目を伏せる。
きっと俺が死ぬと、彼は泣く。
俺が行くと、彼は。
かまってもらえないと、俺は退屈するのか?
まるで有名な詩集にある、反応を窺う子供のようなことが頭に浮かぶ。兄弟の対話を成している行き過ぎたループから仮に抜け出すとしたら、自分の過ちを正すのが一番の近道なのは違いない。俺がだらしない所から始まっていると自覚している。
俺も弟に対して過保護な態度をとってしまうからあまり強くはいえないが、兄と対峙しているとなんだかひたすら試されているようなそんな気分になる。そうなると、やっぱり俺は兄さんに抗えないと気づく。
好きだ、楽しい、気持ちいい。案外その程度だ。自分でつかみ取れる感情は少ないほどいい。
深く考えたところで責任を取ってくれる誰かなんて自分以外存在しない。
だから多分、これからも俺はだらしなく兄と会話して甘えさせることに躍起になっているのだろうし、彼もそうするのだろう。ああブラコン万歳。
長時間寝ていた後にひとしきり声を出すと、ぼーっとしていた頭が大分しゃっきりしてきた。とりあえず起きてご飯にするかーと立ち上がると、一瞬立ち眩みで世界がゆがんだ。下に落ちるような感覚になって柱を支えに踏ん張る。何か音、いや――。
ふらついた時にぶつけたのかと思ったが新着メッセージが届いたようで、画面が青白く光っていた。
電話をわざと切った後の小言か……と先ほどまでの相手を想像するが。
「……」
反応せずに黙っているとまた新しいメッセージが届く。
……いつから。
短い文章と共に俺の寝顔が送られてくる。
「おいこら不法侵入じゃねーか」
次から次へと……。
俺が目にした画像には、暗がりだが夜寝こける自分が写っていた。ご丁寧にヨダレを拭いている明らかに俺じゃない手も一緒にだ。
ワザと一歩ずつ足音をたてて玄関のドアまで行き、勢いよく開ける。かかっていないチェーンが衝撃で揺れ金属音が響いた。
辺りを見回すが人影はない。
「……そこにいるんだろ?」
俺はトントンと開けたままのドアをノックした。すると同じテンポで何処からかコンコンと返ってくる。あーあーもう。よくわからないのに声にならない声が出そうになる。出てこないならもう知らない。ドアノブを握りしめ閉めようとするとカサリとビニールの擦れる音が聞こえた。床にをゆっくり見回すとインターホンの真下に袋が置いてあるのが見えた。
――なんぞこれ。
ひょいと持ち上げ中身を見る。おお、これは。
これが、例の。ああ、うん。そうかそう来るか。
今まで姿を見かけなかっただけあって、隠れるのはうまいなあと1人納得する。
チリ、とほんの少し好奇心が肌を焼く。
「……なあ、一緒に食べない?」
そう言って俺は袋を持ち上げた。
◇ ◇
「…………」
そこにいるであろう人物を誘ったものの、俺は今まで文字でしかやりとりをしていないから顔も声も知らない。今日もやっぱり外は重い鉛色の空だし、外をうろつく人影も無いに等しい。駐車場と物陰に避難して静かで細い雨を凌ぐ数匹の雀だけだ。
このままでは、誰も居ないのに声をかけた変な奴になってしまうのでは……。
誰も見ていないがなんとなく引っ込みがつかなくなり、俺はとりあえず玄関先に座り込む。段々と雨脚も弱くなってきたから、もうすぐ晴れて夕焼けに変わるのだろう。
「……」
ぼーっと景色を眺めていたらすっと俺の体に影が差した。なんだろうと何気なしに見上げると。
「ひっ……、――」
そこには少し息を切らしたのか肩を上下させながら――目深にかぶった帽子と、ご丁寧にサングラスまでかけたデカくて……怪しい男が立っていた。
「びっっ、くりしたあ…………」
デジャブ、というか自分の驚愕加減がループもので有名なあのゲームのイベントシーンとだぶる。トイレの手洗い場の鏡にいつの間にか映っていた彼女並に、彼の身のこなしは完璧だった。市原式諜報術もびっくりだ。ストーキングのプロはみんな気配なく立ち回れるものなの?
「あー……君がコレで……、これ?」
俺の指はチグハグに手にしていた袋と目の前の彼をいったり来たりする。すると、それを肯定するように頭が上下に動いた。はちきれんばかりの大げさな振りに俺はさっきまで感じていた緊張が緩み眉じりがさがる。ふうと息を吐いた。
とりあえず座りな、と隣を勧めると言われるがままに彼は腰を下ろした。あ、なんか従順。
「で、あー、前から知ってたことは知ってたんだけど……いやなんだコレ。何時ものストーカーと全然ジャンルが違うじゃん…………あ、いやさ、君のこと兄さんから聞いたけどそれでいいの? っていうか何て……呼ぼう」
俺は矢継ぎ早に自問自答、そしてそれが終わると彼へ質問をする。
「っ、ゆゆさん、」
「あ、ハイ」
俺のことはそう呼ぶのね。
「……、名前は、ちょっと」
「……あー、そ。言いづらかったらいーんだけどさ、…………いつから?」
どうやら名前を教えるのはまずいらしくぼかされてしまった。それならばと、どちらかと言うと聞きたかった方の要件を切り出した。
といっても本人を前にすると直接聞くのは気が引けてしまい、俺は曖昧に言葉を濁してしまったのだが。ちらりと気まずげに彼を見やると俺の視線に気づき……こくりと頷いた。俺はそれを見て、あははと苦笑いを1つ。どうやら伝わったようだ。彼は興味を持ち始めた辺りの話を俺に教えてくれた。
「……ゆゆさんが一人暮らしする前から、ですかね」
「え、ウソ」
またこくり、と頷く。
「ゆゆさんが高校の時から」
予想外の答えを口にする彼を俺は思わず凝視してしまう。え、めっちゃ長いじゃん。
数年以上となると、彼は数ある歴代ストーカーの中で1番長いことになる。
「よくまあ、あの兄さんたちを掻い潜ったね……」
血縁の愛は重いってエロゲの聖書に書いてあるくらいなのに……うそ、これは今俺が考えました。でもそれくらい兄の愛も相当重い。本当に上手くやったものだ。
俺の頼りにならない記憶では、今までいたであろう少数のファンらしき人達は兄や弟に認知されたらすぐに姿を消していたはずだ。だからむしろ他の二人のファンで霞んでしまい存在すら忘れていた。
わー、うわーと。そこまで長く想われていたのかと思うと苦笑と共に照れが出る。気味が悪いとは思わなかったのは目の前の青年の雰囲気が純粋な好意だったからだろう。普通に友人と話してる気分だ。
「ゆゆさんの自称ストーカーの座は伊達じゃあないですから」
「そこは威張るとこじゃないだろ」
「ええ、でもなんだかうれしくって」
顔は帽子やサングラスで隠れてほとんど分からないが、口元で笑顔になっているのが分かる。
……喜ばせちゃったー。
俺は額を押さえてタハハとうなだれる。あー。
でもめちゃくちゃ嬉しそうなんだよなあ……。好意全開でむず痒さというか、絆された感じになる。
ん、待って待って、君――昨日部屋入ってきたよね!?流されそうになるが不法侵入されていたんだった。
「そういや昨日の写真……」
サングラス越しだがニコリと微笑んだ気配がした。口元は明らかに綺麗に微笑んでいる。
「君、ねえ……」
「だってゆゆさん、うさみみ画像くれないから……」
「………………あのねえ、こういうことするからってわかってる?」
首をかしげ拗ねる仕草に俺は騙されない。いいですか、と居住まいを正す。
「盗撮は犯罪です」
俺は彼の方へと指を突きつける。それにつられて顔が指先へと動く。どうやら話は聞いているみたいだ。
「――こういうの遭遇する度思うんだけど、さ。まどろっこしいことしてないで、普通に会いに来ればいいのになんでそうしないの?」
「多分……その時点で感覚がズレてるんだと思います。こんなことしてる相手に会えだなんて熱烈すぎます」
「君ポジティブすぎない……?」
「それほどでも……」
褒めてないが。
「ちなみにエロすぎてどうにかなっちゃいそうでした。すみません。」
「えへへ、じゃあないが」
立てた三本指を俺はペシと弾く。
この反応さえ、向こうの思う壺だと思うと何だかなおのこと悔しくなる。
寝顔だけで3回、そう自慢げに言ったコイツのセリフに俺は力なく「あ、ソウ……」と返事をする。聞きたくなかった……人のおシコリ報告ほど脱力するものはない。っていうか寝顔でシコれるくらい好きなのね、照れるわ。ゲンナリとする俺に対して彼はサングラスの奥からウインクが飛んできそうな勢いだ。
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「まあとりあえず食べるか……」
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「……っ」
「おいしいよねえソレ。君はそれで、俺は……これ。塩パンにツナマヨ挟んでるの。超好き」
どうせ中にあるのは俺の好物ばかりだ。無遠慮に彼に渡し、俺も好きなのを選ぶ。
バターと塩の塩味が効いた塩パンにツナマヨとリーフレタス。卵もいいけど個人的にはツナマヨの方が塩パンには合うと思う。一口噛むと少しジャリッとした後に軽い触感とツナの味わいがやってきてたまらない。
う~ん、と味わっていると視線を感じた。
「…………」
どうしたの、とは敢えて聞かない。だって視線が物を言っている。てかめっちゃ見てる。俺が食べているのをひたすら見ている。
「……見てておもしろい?」
こくこくと彼は縦に首を振る。
「あー……そう」
半開きの口で気の抜けた相槌を打った後、俺はパク、と大口を開けて頬張った。
美味しいものは一瞬で無くなる。両手が空になると、横からこれもどうぞと差し出される。
「それ俺がさっき渡したやつじゃん」
「ゆゆさん、それも好きですよね。……というか袋の全部、どうぞ」
「――いいの? 俺こういうの遠慮しないけど」
「ぜひお願いします」
「あ、そう……さいですか」
妙に熱のこもった物言いには気づかないふりをして、コロッケパンを頬張ると野菜ジュースが差し出された。
三大欲求には抗えないな。
お互いに。
空が少しだけ明るくなり、暮れる前特有の色の移り変わっていく。今更ながら部屋に入れば良かったかなと仰ぎ見るが、詳細はわからないものの横顔には不満の色は見られない。視線に気づいたのか、緩く弧を描いて嬉しそうに、そしてまだ少し恥が残るのを示すような距離感で俺の隣に座っている。
きっと雨が降り止んでこれからこの街の夕焼けは苦しいくらい赤く染まる。
「ゆゆさんは、どうして一人で暮らしているんですか……」
静かに、そして不思議に思われ良く聞かれる言葉を彼は口にした。
「君は知ってるんじゃあないの?」
俺はニィ、と悪い顔で笑う。
「知っていますが、知らないです」
彼はかぶりを振る。本当のことは知らないと言う。
「……ゆゆさんを見てたら、――目が合うんです。……あなた以外にあなたを見ている人は……沢山いますね」
「そうかなあ」
謙遜のつもりはない。そこまで人は他人に興味がないと俺は思っているから。そんな俺にそうですか。と形ばかりの相槌が打たれた。
「でもこの間なんかナイトみたいに睨まれました」
「ナイト言うなし……まあ確かに兄さんも特にせーくんはあんまコソコソッていうのは好きじゃないみたいだからなあ」
夕陽に照らされたアスファルトの影がワザとらしく伸びて俺は目を細める。すると、隣の彼も眩しそうに俺を見た。
これから暗くなるのに、この時間だけは異様に色が強い。
「西陽がキツイねえ」
「ゆゆさんが眩しくて、俺、どうにかなっちゃいそうです」
「俺色素薄いからね、……」
「ずっと見てました。今だってこんなに……溶けてどこかに行ってしまいそうで。――ほんと、俺、今もあなたが」
――好きで堪らない。
振り絞るような精一杯の声に俺は恥ずかしくて耳まで赤くなる。体の反応は止められない。
「どっストレートだなあ」
せめてもの照れ隠しで顔を手で仰ぐ。
「すみません、困らせるつもりは無かったんです。ただの迷惑な一目惚れだから、ほんとは……こうして話す予定もなかったんです」
「そうなの?」
「……まとわりつかれる方は嫌ですよね。しかも男なんかに。あ、何も言わなくていいです。……俺、迷惑かけるつもりは無くて、だからゆゆさんのお兄さんにバレて………………しばらくしたら辞めるつもりだったんです……でも」
一瞬間が空く。
「そこまでまともな人間じゃなかったみたいです。
――だから、すみません」
謝罪の言葉から先は全てが早く、俺は彼の行動についていくことができなかった。
彼は迷い無く俺の額に唇を寄せて一瞬だけ触れる。
「今日は帰ります……玄関の鍵は閉めた方が、良いです」
「へ」
言いたいことを言い終えると、彼は間抜けに目をぱちくりとさせている俺に構うことなくすり抜けていった。
残された照れ隠しで口元を押さえる。
「新鮮で破壊力がすさまじい……」
俺の周りはどうにも偏屈で回りくどいのばっかりだったからこんな直球は反則なくらいに効いた。
◇ ◇
「――っと、…………誰アンタ」
引き止められずに惚けていると少し向こうで不穏な声が聞こえた。俺は辺りを見回すが彼の姿はもう見えない。すると聞こえた声の主は一体誰だ。
俺は夕陽の沈む方角に黒い影を見つけ、目を細め予想外の姿に声が上ずった。
「あれ? ――暁(あきら)くん」
突然現れた弟の名前を呼ぶ。こんな時間にと思ったが学校もとうに終わった時間だ。放課後に寄るのもなんら不自然では無い。
彼は俺の呼びかけに反応することなく、さっきまでいた彼が消えていった方を見つめていた。
「…………あいつ……」
「あきら……くん?」
「…………」
小さく、ぐっと噛み締め何かを呟く彼はいつもと様子が違うようだ。再度声をかけるが気づかないのか反対側を向いて黙り込んだままだ。様子を窺っていると、不意に切り替える様に俺へと向き直った。その時には感じた違和感は無くなっていて、いつもの見慣れた弟が俺の名を呼び、そして呆れた。
「よぞ兄……って何してたの……」
「………………あー」
不審に思った暁は眉間に皺を寄せて外にいた理由を尋ねてくる。そりゃあそうだ、普段外に出ないのに玄関前で佇んでいるとか、おかしいにも程がある。俺を知る人ほどそう思うだろう。
問い詰める視線から逃げられない俺は答えを探すように目が泳ぐ。
「……あ、あー…………」
「よぞ兄?」
「………………パン、奢ってもらって食べてた」
「…………」
「………………」
「……………………よぞ兄、知らない人に食べ物をもらっちゃいけないって教わらなかった?」
ぐうの音も出ない。
「よぞ兄のそんな所がかわいいと思うけど心底バカだと思うっていうかバカだろ」
「ああ、暁くんが、お兄ちゃんをそんな目で……っうっみないで」
「……」
罵倒の後の無言は効く。うっ。と胸を押さえるがそんな俺の仕草も当然無視だ。
「うっうっ…………ふぅ。……というか暁くん何か用でもあったっけ?」
「よぞ兄に会いたくて」
「へ、」
「……今日兄貴いないから寂しくて、さ」
さっきの冷たい態度から一転して子犬のような寂しさを纏って――俺を見てはすぐに視線を下へと向ける。こういう子供かわいい仕草に弱い俺はしょぼくれた弟の顔を上げさせるが。
「え、それは大歓迎! …………あ、じゃなかったダメ、だ、だだだだめ! 嫌じゃ無いけどだ、」
「どっちだよ」
「~~~っ!」
俺のどっちつかずの返答にすたすたと部屋に入り込む暁。慌てて立ち塞がるが非力な体では太刀打ちできない。まるで当然かのように軽く押し退けられた。いけない、その部屋には俺の大事な――!
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