よぞら至上主義クラブ

とのずみ

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本編ー総受けエディションー

01:ゆゆ島よぞらと良崎晴朗は、幼馴染ではない。

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 ――幼馴染もののエロゲはとても良い。

「起きて、朝だよ」
 
 こうやって、決まって朝に主人公の部屋までやってきて優しく起こしてくれる。

「よぞらくん、」

 朝中々目覚めない主人公の布団を揺らして、はぎ取ったりなんなら上に乗っかったり……勿論、イベントスチルの一枚絵もセットでやってくる。

「ねえよぞらくんってば……」

 だがその幼馴染ヒロインはとても――脆い。

 王道なのに立場的に他キャラの個性に劣る「負けヒロイン」になることが多いからだ。幼馴染は誰よりも主人公に近い位置に存在するが、その分結果的に後出しキャラに居場所を奪われていく。最初にさくっとルート攻略され後はおざなりというのが常だ。人気投票では順位がどうしても低くなってしまう悲しい現実に、俺はいつも悔しい思いをしている。
 
 誰よりも長い時間を少しずつ刻みながら共有している奇跡を尊ぶ事が出来無いなんて。

「もう……あんまり起きないと」
 
 ――が、逆にこうも思うのだ。

 人気が無い=俺だけが幼馴染の良さを分かっている……と。

 公式から与えられた揺るがない確立されたポジション、安らぎ、個性が薄くなりやすい三番手キャラ……だが無くてはならない主人公の絶対的存在。
 
 それが幼馴染である。
 
「ちゅう、するよ」
「やめてください死んでしまいます……」

 朝起こしてのチューは2次元の幼馴染だけにしてください……。
 

    ◇  ◇
 
 
 そんな思いも空しく、結局俺は熱烈なチューと共に目覚めた。
 
 無念……と俺、ゆゆ島よぞら(ゆゆしまよぞら)は観念して潜っていた布団から這い出る。結果から言うとせーくんの唇はとても柔らかかった。
 
 やめてと言った後黙って近づいてきたものだから、てっきり俺は願いが通じたと油断してしまった。体を起こしてくれるの手伝ってくれるのかと思ったのだ。

 顔に影がかかったと気がついた時には遅かったのか俺の下唇に晴朗の唇が触れていた。朝寝起きでかさついたのを感じたのか、彼はふにふにと唇同士でこすり合わせて吸われる。気持ちいいのと思考が追い付かないのとでぼーっとしている俺がおかしかったのか、晴朗はふ、と息をもらした。ちゅと軽いリップ音を残して顔が離れていく。
 
 …………あれ。

 いやいや、待て待て。本当にするやつある? というか俺の唇……安くない? ちょっとお、イケメンだからってなんでも許されると思うなよ。俺はなんともいえない気持ちで唇をこすった。
 親友、良崎晴朗(ややさき せいろう)をジロリと睨みつけるが気になどしていないのだろう。彼は優しい目元をさらに和らげるだけだった。

「おはよう、よぞらくん。見て、今日も雨らしいよ」
「……ぐ……この男全然効いてない」

 天気悪いけどカーテン開けようねと言う晴朗を見ながら俺はあーい、と気だるげな返事をした。
 
 俺の住む地域は雨が良く降る。といっても日中だけの場合がほとんどなので傘が必要なのは行きだけだが。その為か傘を忘れることも多く、家にはその度に買いなおした傘が使われること無く立てかけられている。そして降り止んだ後の夕焼けは日常と非日常の境界が曖昧になるくらいの色彩だ。雨上がりに水蒸気が残っている影響か突き刺さるように、赤い。
 
 眩暈がするような綺麗な夕焼けが拝めるは嬉しいが、やはり起きたてにはっきり明暗が分からないと何処かテンションも下がってしまう。なんだろう、薄暗いと気持ちまで暗く幕を覆ってしまいシャキッとならないというか。半分引きこもりみたいな生活で朝に起きるということも少ない俺が言うのもなんだが、偶には晴れも拝みたいと思ってしまう。

「雨、だるいわ……死んじゃう……」
 
 折角起こしてくれたのに布団にまい戻りそうだ。
 せーくんゴメン。来世でまた会おうね。

「死なないでよぞらくん。あとそれはただのゲームのし過ぎだと思うよ」
「エロゲの主人公になりてぇなあ……」
「もう、またそんなこと言って……」
 
 ――まったく……昨日は何時まで夜更かししてたの。よぞらくん。
 めっ、と口調は怒っているが全然怖くない。俺はそれがおかしくて体を揺らす。いつもの王子様フェイスで晴朗が窘めるまでが、彼と俺とのコミュニケーションだ。
 
 せーくん、こと良崎晴朗の雰囲気は初めて出会った高1の時から変わらない。いつも空気が柔らかいのだ。清潔な黒髪は綺麗だと思うし、目元だって常に微笑んでいるかの様に緩くカーブを描いている。さりげなく口角も上がっているところは俺の密かに好きな部分だ。
 晴朗は容姿以外も、性格や口調でさえ穏やかで甘い……俺なら満点をつけるくらいの良い男だ。

 本当に、周りにも王子様と持てはやされている彼と俺とは似ても似つかない。

「せーくんの前世は聖人かな……パーフェクトすぎるなホントに人間かな……」

 俺が失礼な事を言っても、彼はいつも柔和な笑顔だ。

「起きるのが苦手な よぞらくんも好きだよ」
「やだこわいでも知ってるありがとう」
 
 ふふ、とせーくんが笑う。トーンが朝から甘い。何から何までつよつよ男前だなぁ。ほんと、やだ。恥ずかしくなるから俺相手にそんな声出さないで欲しい。
 
「あれ、このパッケージ……」
 
 ひとしきり笑った晴朗は、俺の近くに落ちているあの独特なサイズの箱に気づいた。

「これ、前に貸してくれたやつだよね……?」
「ん?――ああ、そうそう。よく覚えてたなあ、コレ。せーくんはエロゲ興味なさそうだから忘れてるかと思った」

 そのゲームは去年、良作でOP曲が良いと今も勤めているバイト先の店長から譲ってもらったモノだ。実際非常に丁寧に作られた作品で初見プレイでは大号泣してしまった。実はその作品のファンディスクが発売されるとかなんかでまたプレイ欲が高まり、昨日帰ってきてから引っ張り出してきたのだ。
 
 俺は成人向けゲーム、所謂エロゲが大好きだ。
 
 抜きゲーにもお世話になってはいるが、どちらかというと読ませるシナリオのエロゲーが好きだ。あのレーティングだからこそ出来る世界観、シナリオ、音楽。それら全てが合わさる総合芸術なのだ、エロゲーは。
 ちなみに、最初のきっかけはもう覚えていない。大体人生そんなものだ。俺なんかが語る事に価値なんてほとんどないしここは省略して良いだろう。
 きっかけは忘れたが、俺が初めて触れたエロゲは覚えている。そういえばあれにも幼馴染のキャラがいたっけな。
 
 冒頭のあのシーン。数年ぶりに幼馴染との再会でのやりとりだ。待ち合わせに遅れた腹いせに名前をわざと間違えて困惑させて困らせて。覚えていないのかと思いきや、最後に歩き出すときにちゃんと彼女の名前を呼ぶという。

 なんだあの演出――最高か……。

 感動後あっという間にこちらの世界に仲間入りしてしまった。当時はせーくんに、うぐぅからはちみつくまさんまで滾った熱弁を聞いてもらったのは良い思い出だ。
 今ではエロゲ店でバイトまでしている。死なないですんでいるのはこのおかげだな。
 
 ここまで俺の趣味の話をしてしまったが、友人の晴朗にはエロゲなんて興味はこれっぽっちもない。だが何故かこうやってたまに俺の薦めるゲームをプレイしてくれることがある。どこまでも優しい奴だ。逆の立場なら俺は絶対やらない。せーくんマジ神。これが幼馴染のヒロインだったら一番にルート攻略している。
 
「僕も――幼馴染になりたかったな」

 ぽつり、箱を見つめたまま晴朗は何かつぶやいた。

 雨の音もあってか小さい晴朗の声が聞こえず聞き返したが、またあの甘い笑みでふふふと誤魔化されてしまった。
 
   ◇  ◇

 ゆゆ島よぞらと良崎晴朗は、幼馴染ではない。
 
 彼と初めて出会ったのは高校一年生の春、仲良くなったのは同じクラスになったのがきっかけだ。別段何か会ったわけではない。ただ席が近くて、そこから話すようになって。学校帰りの夕焼けを見る。そんな日常が俺は心地よくて好きだった。
 
 ――まあ、せーくんはそれ以上に俺の事好きなんだろうけど。

 別に気持ちに疎いわけではない。口頭でいつも言われているし、態度でも晴朗が俺の事を好きなのには気づいている。なんだったらセックスだって抜きあいだってしている。せーくんのテクニックは抜群で今思い出しただけでもゾクゾクっと……。
 
 こういう風に俺の貞操観念は非常に緩い。晴朗と出会う前から非処女だし。……あれだ。気持ちいいことが大好きなんです。だってしょうがないじゃん。男の子だもん。
 
 小心者だから酒もタバコもドラッグも。青春時代にする悪い事ぜーんぶ、誰ともやる勇気なんか無い。多感なお年頃にはエッチが一番。はぁ、早く俺もエロゲの世界に住みたいよ……。

 拗らせてんのか粋がってるのか、分かりにくい事この上ない俺に晴朗はただ微笑むだけ。3年の進路を決める時期もそうだった。俺は進学どころか就職する気も無かったため晴朗の大学進学の誘いを断った。にもかかわらず卒業後もこうして朝、時間のある時に来て起こしてくれる。
 
 俺の好き以上を求めない晴朗は健気なんだか、賢いんだか。
 ……いや、願ってないのは自ら手に入れられるという自信があるからか。
 
「まっさかあ……」

 ないない。あのせーくんが希う(こいねがう)とか。
 俺と幼馴染でありたかったとか。
 
「……次はツンデレゲーでもするかなあ」
 
 日常の小さな積み重ねと奇跡なんて、俺には甘すぎる。些細な変化も俺には重すぎる。
 負けヒロインと親友の想いを重ねることが眩しすぎて、俺は他の刺激に逃げてしまうのであった。
 
    ◇  ◇
 
「湿気でよぞらくんの髪が大変だ」

 晴朗が用意してくれた朝ごはんを食べた後、俺はバイト先、晴朗は大学に行くため出かける準備をしていた。
 
「あぁめんどくさくてお家帰る前から帰りたい……」
「僕はそのままのよぞらくんもいいと思うけど」
「あーね……でもやっぱ童顔はなぁ……」
 
 俺は髪を下ろして耳が隠れていると、どうしても童顔になってしまう。かっこいいならまだしも、幼い更にはかわいいなんて言われるのは……やはり男として許せないものがある。職場的に若く見えすぎてしまうのも良くないし、何故だか色んな人に絡まれたりで疲れるのでこうして普段は耳にかけて幼くなりすぎないようにセットするよう気を付けているのだ。

「せーくんみたいな、つよつよ男前な顔に生まれたかった……」

 とほほ……。嘆いてもしょうがないけど自分の顔を鏡で見るたび思ってしまう。

 しおれていた俺にせーくんがヨシヨシしてくれる。男らしい手なのに触れ方が優しくてズルイ。触られているとこれまた泣けてきてしまい、どうせならとそのまま甘えたくなって俺は晴朗の肩にもたれ掛かった。

 俺と彼との触れ合っているところからジャスミンの爽やかで青さを感じる香りが鼻をくすぐる。これはせーくんの香りかな。

「せーくん、いい香りする」
「気がついた?これ、この間よぞらくんが気に入ってたやつをつけてきたんだ」
「……うーん似合いすぎて虚無になりそう」
「そういうよぞらくんはちゃあんと、お風呂に入ろうね」
「…………」

 ギクリ。思わず動揺して俺の肩が揺れる。

「頑張って洗面台で水被ったんです」
「よぞらくん……」

 せーくんの憐みの視線が痛い。超痛い。

「お風呂とかヤダヤダヤダ……ねえ大丈夫だよ?2、3日はいんなくても死なねーし」
「ふ、もう、そういう問題じゃないよ?」

 同級生なのにこうしていると晴朗の方が年上に見えてくる。
 
「だって入るまでが一番しんどいんだよー……」

 気持ちは分からいでも無いけど、と晴朗は苦笑する。
 ですよねー、自分でも分かってますけども。半分引きこもりで、この歳で定職に就かずフリーター。その上風呂嫌いとか……あーあダメだ残念すぎる。学生時代よりひどくなってる。弟の暁(あきら)に鼻で笑われちゃう奴だ。

 ゲームだったら波乱万丈で刺激的な話でも大歓迎なのになあ。自分に置き換えると、なあんにも起こしたくない。

 せーくんも兄も弟も。いてくれる人たちはいるけれど、俺は一人になりたいのになりたくない。ダメだなあ、とペケをつけてしまう。
 
「……いかん考えこんだら暗くなってきたコワイコワイ」

 ループものは苦手だ。俺は考えるのを止めた。今はせーくんに甘えてしまおう。

「せーくん、いつもありがとね」
 
 それに答えるように、晴朗はよぞらの腰に手を回した。さりげなく支えてくれるような体勢に変えるなんてイケメンは何をしてもさまになるなあ、としみじみ思っていたら「僕は君と居るのが好きだからね」とお決まりのセリフが俺の耳に届いた。あ~~~……――、

「はずかしー男……」
「よぞらくん至上主義だから当然だよ」

 頬が熱い。全く、この男は俺を喜ばせるのが上手くて困る。

    ◇  ◇
 
 照れた俺がおもしろいのか、晴朗が頬をつついてくる。

 おい肩が震えてるぞ笑ってんじゃねえよ……。
 恥ずかしさとしつこさに俺は手を振り払おうと動くが、かわいいかわいい。と晴朗の手は止まらない。

「やーめーれーッ」
「よぞらくんは相変わらず、ふ、すぐ赤くなるね……照れてる?」

 ここか、ここがええんか?という手つきで頬以外も触りだしてきて止まりそうにない。王子様フェイスでセクハラとはギャップがありすぎるぞせーくん……これは晴朗ファンの子には絶対に見せられない。

「ふざけんな、赤くなるのは体質なんですー、っん、もぅ……耳を触るっ、なっ」

 ああもう!オナニーとか直接的な快感は大丈夫なのにこういう触れ合いみたいなのは苦手だ。

 サイドの髪を耳にかけて晒しているため余計触りやすいのか、お構いなしに晴朗の長い指が触れてくる。するりと外のフチをなぞり耳たぶまで到達すると、そこから挟み込むように触れて、また繰り返す。触れている指の温かさと冷えた耳との温度差でジン――、と鈍い疼きが生じた。これは晴朗の体温なんだというのが明確に伝わってくるのが恥ずかしい。分かっていても意識してしまう。いっそのこと引っ張って強い痛みを与えてくれれば目が覚めるというのに、この男の手つきは殊更優しいから意識が逸らせない。

「ほっぺも柔らかいけど耳も小さくて柔らかいね」
「っ、んぅ……せーくんの耳も、柔らかいでしょーよ」
「うーん、そうだけど……自分のなんか触ってもつまらないじゃない」
「う……」
 
 うーん……確かにその通りだ。男という生き物は柔らかくきもちいい感触に弱い。特に耳たぶは他の箇所の柔らかさの例えに使われるくらいだ。ムニムニのふわふわだ。
 まあ、そのあらがえない気持ちというか、つい他人のを触りたくなる気持ちはわかる……わかるが、だからって俺のを触るのはやめて欲しいなあ。

「……っ……ぁ、」

 意識がそれていて油断していたのか、首に手が下りてきたのにビックリして腰が一瞬はねた。……この近さだとせーくんは気づいたに違いない。だって触っている手つきが大胆になってきている。
 
「晴朗……」
 
 俺はあまり呼ばない呼び方で彼を咎める。あーだめです。むず痒い刺激で色んな所がヤバイ。せーくんのお手てがやらしー触り方でこれ以上やるとおっ勃ててしまう。中途半端にジンジンしたまま過ごすのも辛いんだが全くどうしてくれるんだ。
 
 俺はもうお終い、というように晴朗の体を押し返した。

「はーこわい……この男テクニシャンすぎる、とづまりしとこ……」

 イケメンのアクティブさにブルブルと体を両腕で抱きしめる。なんか耳触られてただけなのにやけにエロい空気になってしまった気がするのが怖い。晴朗は変わらず爽やかに笑っているし、あれ?なんで俺だけこんなモンモンしてるの?

 納得いかない気持ちで俺は晴朗をぐぬぬと睨みつけた。
 

     ◇  ◇
 
 
 ドアの鍵を閉めて、俺たちは傘を差して歩き出した。
 しばらく晴朗に赤くなった頬をイジられていたため時間的にはギリギリだ。気持ちの焦りが無意識に出るのか俺はどことなく早歩きになっていた。
 
 ……ったく、どーこに男のほっぺをつんつんする大学生がいるんだ全く。
 
 普段は優しい言動の晴朗も、俺に隙があるとああして子供っぽいチョッカイをかけてくる。

 
「そーいや今日は一限から?」

 何か用事があったらまずい。俺はチラと晴朗を横目で見る。
 
「大丈夫急がなくても十分間に合うよ。ありがとう。あ、……よぞらくんは早番?」

 バイトのシフトは日によってまちまちなので彼も気になったらしい。確認のため晴朗も聞き返してくれた。
 
「そうそ、あ、でも店長にオススメしてもらったゲーム良かったから終わった後長話するかもしんない」
「相変わらずだなあ」

 情景が目に浮かぶのか、晴朗は苦笑する。まあもう散々このムーブを見せてきたから当たりまえか。
 
 晴朗も勿論俺の話を聞いてくれる。むしろ俺が話をしやすいように適宜あいづちまでうってくれる神がかり的な存在だ。が、話やすいが故に彼は聞き手に徹するため俺の話の一方通行になってしまうことが多い。
 
 対して、店長の場合は共通の話題を話せるのが大きい。トークにレスポンスが生まれるのだ。つまり会話が進むのと同じくドーパミン放出状態が続き、興奮冷めやらぬといった具合で主婦の井戸端会議より長くなるという訳だ。

 聞いてもらえるだけでも恵まれているのに、そこに反応を求めてしまう俺は贅沢なオタクなのである。

 俺が興味を持ち始めてその手の店に通うようになった頃、物珍しかったのか声をかけてくれたのが今バイトしてる店の店長だった。ヤベー奴に声かけられたと、最初はおっかなびっくりだったが今ではなんのその。彼とは長話できるくらいの関係になっている。
 知識量もプレイ数も流石としか言いようがない店長は俺がエロゲの師と崇める存在だ。しかも当時無職だった俺をバイトにまで雇うという……。ありがとう店長。脱ニート万歳。
 おまけに店長のすすめてくれる作品はどれもツボをついてくるし性癖、プレイジャンルも幅広い。さすが我が師匠。俺はこだわりが強く苦手なモノ――所謂地雷というものがあるため、プレイできる作品の幅がどうしても狭くなってしまう。そのため、出来なくて気になっている作品の話を聞けるのが非常に嬉しいのだ。沢山買える程金も無いし。

「じゃあ今日はこれでまたね。かあ」

 思いにふけっていると、友人が残念そうな声色で告げる。

 俺的にはこれでも会えている時間が多いと思っていたが、晴朗には足りないのだろう。気落ちしたオーラが漂ってくる気がした。うーん、たしかに学生時代と卒業した今を比べたら一緒にいる時間が極端に少なくなったのは間違いないよな。
 
「ん~~……」
 
 俺は少し考える。そうだ――、
 
「今度講義潜り込むわ。仲良くなった先生いるし、そん時一緒に受けようぜ」

 な?と晴朗に提案すると、その言葉に一瞬きょとん、とした後晴朗の目が少し見開いて俺が「お」と思う間に彼の目尻が優しく下がる。

 彼の表情の変化をみて気づく。ああ、きっと晴朗のその顔が俺は見たかったのだ、と。
 
「わあ、悪い子だ」
「だろー?」

 お互い悪い顔になっているのがおかしくてぷっと噴き出す。しばらく見合わせたまま俺たちは雨の音にまぎれて笑いあった。
 
 俺が欲しい時間と晴朗の欲しい時間はきっと違う。同じだけど違うことを俺は知っているし、彼も理解しているだろう。だから、欲しかったものが手に入らない悔しさは気づいた方が埋めていけばいい。

 ――そう、ゆゆ島よぞらは良崎晴朗に思う。
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